やる気満々な人ほど「目標達成」できない理由
もうすぐ12月。年初に考えた目標は達成できそうですか?(写真:CORA/PIXTA)
年初にやる気満々で立てた目標は達成できそうですか? 「やる気」と「目標達成」には知られざる深い関係があるようです。数多くの企業で、単に「目標達成」の研修を行うだけではなく、それぞれの人の「目標設定」と数カ月後の「実際に達成できたか」のデータを延べ1万5000人以上にわたって分析してきた永谷研一氏が解説します。本稿は同氏の著書、『科学的にラクして達成する技術』から一部抜粋のうえお届けします。
「やる気満々」だと問題がある!?
今年もあと1カ月あまりですが、みなさんが2019年の年初に立てた目標は達成できそうですか?
・今年こそ英語を頑張るぞ
・今年はダイエットを成功させるぞ
・今年は営業成績を上げるぞ
・今年はお金を貯めて旅行をするぞ
このように、年の初めにさまざまな目標を考えたと思います。そして気づけばもうすぐ12月。達成した目標も、残念ながら頓挫した目標もあることでしょう。
当たり前ですが、目標をつくって満足しているだけでは、それが達成されることはありません。達成のために具体的に何をするか、適切な「行動計画」を立てて、確実に実践していくことが必要です。ただ、そうした行動計画が「やる気満々」だと問題がある……と言ったら驚かれるでしょうか?
私は人材育成や組織開発の仕事をしているのですが、その中で、多くの人の「行動実践の度合い」を見てきました。例えば、「当初の研修のときに立てた行動計画が、6カ月後、1年後にどのくらい実践できたか」「できていないのなら、どこでつまずいたのか」を、これまで延べ1万5000人分ほどデータ化して分析してきました。
分析の中で、1つ特徴的なことを見つけました。
それは、行動計画をつくった当初に「やる気が満々の人」は、意外なほど目標達成までたどり着かないということ。つまり、最初に気合いが入りすぎると、途中で失速してしまう確率が高くなるということなのです。
年度の初めにはやる気満々だった人に限って、半年くらい経つと、できなかった言い訳を始めます。「こんなはずじゃなかった」「○○が悪かったんだ」と自分以外の人や環境を責めることが多いのです。そうしているうちに、次第に最初の「やる気」は減退していきます。
その理由は何だと思いますか?
実は最初の「やる気」は、多くの場合、「気負っている状態」なのです。なので、やる気満々だった分、壁にぶつかると、思うようにいかないことにいら立ちを覚えます。自信がありそうな人ほど「できないこと」を認めたくないもの。元気なことはよいのですが、気負って行動計画を立てると、「続かない」というわなにはまりやすくなるのです。
「自分の気負い」を発見する方法
目標を達成したいという思いは誰しも同じでしょう。「一生懸命、やる気を出すことはいいじゃないか!」と反感を感じる方もいるかもしれません。もちろんやる気は大事です。ところが、無理に気負っている場合は結果が出ないのが現実なのです。
そこで「自分の気負い」を発見する方法があります。行動計画を立てたら、次の2点をチェックしてみてください。
・難易度が高すぎないか
・数が多すぎないか
まず「難易度」についてです。自分1人の力では到底実施できないものや、相当のスキルアップをしたうえでしかできないことは、当然ながら難易度が高すぎるといえます。客観的に見ると当たり前の話ですが、やる気満々な人ほど、実際にこうした行動計画を立てがちなのです。その場合は、難易度を落とし、すぐにでも実行できる簡単な行動計画に変えましょう。
次に「数」についてです。行動実践のデータから分析した結果、行動計画が5つ以上あった場合は、有意に実践度が低く、続かない傾向にあることが判明しています。多少の個人差はありますが、同時に取り組む新規の行動計画は「4つ」が限度だと考えるといいでしょう。
この「難易度」と「数」という2つのチェックのうち、どちらか一方でも引っかかっている場合は、残念ながら気負っていると判断せざるをえません。途中で失速する可能性が非常に高いといえるのです。
繰り返しますが、私は「やる気満々」が悪い、と言っているのではありません。むしろ、強い動機を持つことはすばらしいと思います。しかし、瞬間湯沸かし器のようにいきなり熱くなっても、結局、続かなければまったく意味がないのです。「ちょっと気負っているかな」と感じたら、「難易度」と「数」に着目して、行動計画を修正してみましょう。
そして、もう1つ、「気負い」を発見する方法があります。それが「しっかり」「きちんと」「必ず」といった「副詞」に着目することです。
副詞とは、ことの程度や状態を表す言葉です。また「徹底的に」「積極的に」など「〇〇的」という言葉がありますが、これも程度を表す言葉です(正確には、「〇〇的だ」という形容動詞の語尾が「に」になって副詞的な使い方がされています)。
この「副詞」が行動計画に出てきた場合、気負っている可能性がありますから、注意が必要です。実際の例としては、次のようなものです。
・しっかり営業活動を行う
・きちんと品質をチェックする
・積極的にメンバーと話をする
この計画には残念な点がある
このような副詞や副詞的な用法の言葉が入った行動計画をつくると「やるぞー!」という気持ちは伝わってきます。ところが残念ながら、これも実践されにくく、実践されたとしてもそれがどれくらい行われたかが不明な行動なのです。
「しっかり営業活動を行う」とは、いったい何をどれくらい行うことを指しているのでしょう? 「積極的にメンバーと話す」というのは、メンバーとどれくらい話すことを言うのでしょうか? いずれも実践度合いがまったく不明です。これでは実践する内容にブレが生じてしまい、結局は継続できなくなってしまうのです。
中には「しっかり〇〇したうえできちんと××し、積極的に△△に努めて必ず◇◇する」とひとつの行動計画にいくつも副詞を盛り込んできて、やる気満々なことをアピールする人がいます。アピール自体は悪いこととは思いませんが、このような「盛り盛りさん」は、行動の実践度、とくに継続性については、かなり問題があります。
ここは少し落ち着いて、「どの程度やろうとしているか」を考えてみることが重要です。そこで、確実に実践され、継続されやすい行動計画にするために「副詞を数値化」してみましょう。数値化によって「どれくらい行うのか」という程度を明確にするのです。
例えば、次のように改良します。
・しっかり営業活動を行う
→1日3回、面談のアポイントメントの電話をする
・きちんと品質をチェックする
→朝と夕方の2回、チェック表を使って品質を確認する
・積極的にメンバーと話をする
→1日2回以上、プライベートなことも含めてメンバーと話す
このように、副詞を数値化することで、実践度が格段にアップしますし、周りにも「計画通りに進んでいるかどうか」が明確にわかるので、計画から遅れたとき、達していないときなどにも、周りから支援してもらいやすくなるのです。
やる気満々が気負いになっている場合は、行動計画の、「難易度」「数」「副詞」に注意をして計画を練り直すと、格段にラクして目標達成しやすくなります。ぜひ、来年の目標のための行動計画を立てるときの参考にしてみてください。