JR東日本は10月1日から、Suica利用で鉄道に乗車した際にポイントが貯まるサービスを導入した。モバイルSuicaの還元率が高いのが特徴だ(写真:tkc-taka/PIXTA)

JR東日本は10月1日から、Suica(スイカ)で鉄道を利用した際にポイントが貯まるサービスを開始した。首都圏の駅などで「Suica究極の新サービス始まる」という告知を見かけた人も多いだろう。

このサービスは、JR東日本グループの共通ポイントサービスである「JRE POINT」に手持ちのSuicaを登録したうえでJR東日本の在来線に乗ると、1回ごとの利用額に応じてポイントが貯まるというものだ。従来からSuicaで買い物をした際にポイントが貯まるサービスはあったが、ついに鉄道利用でも可能になったわけだ。

モバイルは大盤振る舞い?

すでにJRE POINTに登録している人なら、その「大盤振る舞い感」に驚いた人もいただろう。「モバイルSuica」を利用した場合のポイント還元率が高いのだ。

カード形のSuicaだと200円ごとに1ポイントだが、モバイルSuicaは50円ごとに1ポイント貯まり、還元率は2%だ。Suicaグリーン券や定期券をモバイルSuicaで買った場合も、購入額に応じて同じ還元率でポイントが貯まる。定期券は他社線を含む場合でも、購入金額全体がポイント計算の対象だ。なお、1ポイントが1円相当となる。

従来、JR東日本グループのポイントサービスは、駅ビルなど商業施設のポイント、クレジットカード「ビューカード」のビューサンクスポイント、そして「Suicaポイント」など、各種のサービスそれぞれに分かれていた。

2016年2月、これらの共通化に向けて「JRE POINT」が登場。まず駅ビルなどのポイントに始まり、2017年12月にはSuicaポイントがJRE POINTと共通化。さらに2018年6月、ビューサンクスポイントも共通化され、さまざまなサービスのポイントをまとめることができるようになった。

関東圏ではSuicaを利用できる範囲が広く、特急利用の際もモバイルSuicaと「えきねっとチケットレスサービス」を利用すると、1回の利用でかなりのポイントを貯めることができる。

例えば新宿―松本間は乗車券が4070円のため、モバイルSuica利用で81ポイントになる。さらにチケットレスの特急料金2450円でもらえる「えきねっとポイント」30ポイントをJRE POINTに換算すると75ポイントとなり、モバイルSuicaの分と合わせれば156ポイントになる。

2020年春には「タッチでGO!新幹線」の利用でもモバイルならば2%還元ができるようになり、同年12月以降には同一区間の繰り返し乗車でもポイント還元が可能になる。さらに、2021年春には「えきねっとポイント」がJRE POINTと統合予定だ。同時期からは、JR東日本の新幹線を利用する際、ポイントによってアップグレードしたり、同社の新幹線・特急に乗車できる特典チケットと交換できたりするようにもなる。

他社にもあるポイントサービス

ICカードで鉄道を利用した場合、乗車に応じてポイントを付与するサービスは、すでに複数の鉄道事業者が導入している。

たとえば、東京メトロは「メトロポイントクラブ(メトポ)」というサービスがあり、登録したPASMOで定期券区間以外を使用するとポイントが貯まる。乗車距離に関係なく1日3ポイント、土日祝はプラス4ポイント、1カ月に10回乗車するごとに10ポイント加算され、貯まったポイントはPASMOにチャージできる。また、東京メトロのクレジットカードでもポイントサービスが行われている。

都内の地下鉄でいえば、都営交通にも「ToKoPo」というポイントサービスがある。都営地下鉄や日暮里・舎人ライナー、都電荒川線に乗車するとポイントが貯まり、都営バスは乗り継ぎでもポイントが加算される。

首都圏以外でもポイントサービスがある。JR西日本は、ICOCAで鉄道を利用した場合に「ICOCAポイント」が貯まるサービスを行っている。1カ月の間に、特定の時間帯・区間の4回目以降の利用で運賃の30%もしくは50%のポイントが貯まるほか、同じ運賃の区間の11回目以降の利用で1回ごとに運賃の10%のポイントが貯まるという仕組みだ。JR九州のSUGOCAも1回の乗車につき1%がポイント(JRキューポ)として貯まる。

さまざまなポイントサービスが存在するが、JR東日本の強みは「モバイル対応」であり、モバイル利用時の還元率の高さである。これは、スマートフォンに対応していないほかの交通系ICカードにはできないことだ。

ポイントサービスの共通化とともに進んできたのがSuicaのモバイル強化施策だ。モバイルSuica自体は従来型携帯電話の時代から存在し、スマートフォンでもAndroid搭載機では以前から使われていたが、2016年10月からiPhoneでもモバイルSuicaが使用できるようになった。日本ではiPhoneのシェアが高く、これ以降モバイルSuicaの普及が進んだ。

10月1日から導入のSuicaのポイントサービスではモバイルを大幅に優遇する形となり、ポイント共通化とともにカードからモバイルへの移行を一気に推し進めようとしている。

モバイル移行促す材料に

新しいポイントサービスは還元率の高さや汎用性からいっても、とくにモバイルの場合は相当な大盤振る舞いに見える。そういったサービスを行う意図はどこにあるのだろうか。それは「カード型Suicaからモバイルへの移行」を促す点にあるといえるだろう。


近年主流となっているICカード専用の改札機(写真:つむぎ/PIXTA)

最近、JR東日本の駅にある券売機の設置箇所に空きスペースが増えているのにお気づきの方も多いだろう。Suicaを現金でチャージする人も減り、定期券は通勤定期ならばモバイルで買う人も多くなった。新幹線はモバイルSuica、特急もチケットレス化が進む。窓口も券売機も設備を減らすことができ、人件費や設備費のコストを削減できる。ICカード専用の改札機は構造もシンプルだ。

さらに、モバイルSuicaが普及すればICカードそのものの販売も減らすことができる。JR側の手間やコストの大幅な削減につながるのだ。

今後はさらにスマートフォン対応のサービスが増え、いずれカード型のSuicaは通学定期券などに使用するものが中心になっていくのではないだろうか。それさえも、スマホカメラで学生証の写真を撮影してアプリで自動認証、ということになるのかもしれない。

今回のモバイル利用者を優遇した高還元率のサービス導入により、カード型からモバイルSuicaへの移行が進めば、改札・窓口・券売機周りの省力化が一層進むことになるだろう。