「サマンサ・コナカ誕生」でも視界不良のわけ
サマンサタバサジャパンリミテッドが展開する「サマンサベガ」の店舗。同社は紳士服チェーン大手のコナカによって持ち分法関連会社化される予定だ(記者撮影)
10〜20代の女性に支持され、急成長した「サマンサタバサ」と、30〜50代をターゲットとしたロードサイド店舗を多数構える「紳士服のコナカ」。一見、真逆のビジネスモデルを築いてきた両者が、手を結ぶことになった。
紳士服チェーン国内3位のコナカは9月末にも、サマンサを運営するサマンサタバサジャパンリミテッド(以下、サマンサJP)の株式を31%取得し、持ち分法適用関連会社化する。コナカは株式取得後、サマンサJPの創業者である寺田和正氏と並び、同社の筆頭株主となる見通しだ。
コナカはサマンサ株をどのように取得したのか
「あのサマンサがコナカグループに?」
「サマンサ・コナカの誕生」
コナカが9月2日にサマンサJPの持ち分法適用関連会社化を発表して以降、ネット上ではこのようなつぶやきが拡散された。消費者の間でも、ブランドイメージが異なる両者がタッグを組むことは意外に映ったようだ。
コナカによる今回の株式取得の経緯は、やや複雑だった。
サマンサJPはもともと、今年4月まで社長を務めていた寺田氏が約6割の株式を持つ大株主だった。ところが今年6月、寺田氏は「10年来の付き合いがある」というコナカの湖中謙介社長に、保有株の半分を約34億円で売却した。そして、このほどコナカが、湖中社長の保有するサマンサJPの株式をすべて取得する運びとなったのだ。
「ずっとサマンサのことを尊敬していただき、世界ブランドを作ることにも共感いただいていた」。4月に行われたサマンサJPの決算説明会の場で、寺田氏は湖中社長へ保有株の譲渡を決めた理由について、こう説明していた。個人間での株式売買をきっかけに、会社同士での話し合いが始動。サマンサJPの幹部によると、今回コナカ側から株式を保有したい旨の申し出があったという。
この一連の経緯について、ライバル紳士服チェーンの幹部は「社長が個人取引で譲り受けた株式を、次に会社が取得するという経緯は普通ではない。はたして経営戦略上の決定だったのか」と首をかしげる。
創業家の社長が取得した株式を、わずか数カ月後に会社が買い取るという展開の速さに、会社として投資の合理性を十分に精査した上での判断だったのか疑問が残るというわけだ。
コナカの広報・IR担当者は、サマンサJPをグループ化する狙いについて、「女性客の取り込みという面でシナジーを追求し、グループ全体としての企業価値向上につなげたい」と話す。
コナカは郊外型の「紳士服のコナカ」以外にも、都市部中心に若い世代向けの「スーツセレクト」を展開し、傘下子会社には主に女性向けの靴や雑貨を扱う「フィットハウス」を持つ。サマンサJPに出資することで、これらの業態での女性客をターゲットとした商品戦略などで相乗効果を見込んでいるようだ。
主力のバッグ不振で低迷するサマンサの業績
サマンサJPにとっても、コナカの傘下となることで財務面での後ろ盾を得られる意味合いは大きい。
同社は2014年度に過去最高益を記録した後、主力のバッグの販売不振などにより業績が低迷し、2016年度以降は3期連続で最終赤字に転落した。採算性の低い店舗を大量に閉店した結果、2018年度の売上高は277億円と、2016年度と比べて2割以上も減った。同期間で自己資本比率は39.3%から21.3%に低下し、財務体質も大きく悪化していた。
その反面、コナカは潤沢なキャッシュや不動産を持ち、自己資本比率も約65%と財務体質が強固。ただ、職場のカジュアル化によりスーツ需要が減少した逆風を受け、2017年度以降は売上高・営業利益とも減少基調にある。
コナカは紳士服チェーン3位の立ち位置を死守しているが、ネットカフェや結婚式場の運営など事業の多角化を進める2位のAOKIホールディングスとは売上高で約3倍の差をつけられている。スーツやビジネス関連商材が売り上げの大半を占めるコナカにとって、女性客をいかに取り込むかは重要な課題でもあった。
もっとも、ブランドイメージが両極端のコナカとサマンサでは、店舗間での商品の横断販売や相互送客といった相乗効果は期待しづらい。商品開発の面でも、衣服を主力とするコナカ、バッグがメインのサマンサとでは、どこまで互いのノウハウを生かせるかも不透明だ。
とくにサマンサJPにとっては、時間をかけて相乗効果の発現を待つ余裕がない。業績の立て直しに向けて商品施策の見直しや店舗整理を進めているさなかで、当面は赤字体質からの脱却が最優先課題となる。
コナカ傘下でサマンサのブランド力は?
業界内では、コナカ傘下となることでサマンサのブランド戦略の先行きを不安視する声もある。一時期ほどの人気は衰えたとはいえ、サマンサのブランドイメージは、ヒルトン姉妹やミランダ・カーなど多くの海外セレブらを広告宣伝に起用する独自のビジネスモデルで築いてきたもの。4月に創業者の寺田氏が退任し、新たな経営体制が始動したばかりでもある。
サマンサとはブランドイメージが両極端で、コナカが展開する店舗との相互送客などではシナジー効果を見込みにくい(記者撮影)
アパレルに詳しい業界関係者は「コナカとは、在庫管理の効率化などの点でシナジーが期待できるが、サマンサのブランド力を維持するには、コナカがどこまで口を出さずにいられるかがカギを握る」と指摘する。
コナカにとっても不安が残る。「ただでさえ既存事業のスーツ販売が厳しい中、赤字の会社を傘下に持つ余裕がコナカにあるのか」(前出とは別の紳士服チェーン幹部)。
異色のタッグはもくろみどおり、相乗効果を発揮できるのか。その道のりはたやすくはなさそうだ。