業績が順調に回復してきたフジテレビだが、一層の成長にはまだ課題も少なくない(写真はお台場の本社ビル、撮影:今井康一)

「社長としてのミッションはシンプル。フジテレビの視聴率を回復させ、その結果としての業績をさらに上げることだ」

6月7日、フジテレビと親会社フジ・メディア・ホールディングス(HD)は社長交代会見を開いた。6月末の株主総会を経て、フジテレビの社長には同社の遠藤龍之介専務、HDの社長には同社の金光修専務が就任する。遠藤氏は冒頭のように淡々と新社長としての抱負を語った。

2017年にテレビとHDを兼任する形で就任した宮内正喜社長の下、フジテレビの業績は大きく回復した。2017年度の決算は6期ぶりに営業増益に転換し、2018年度は前年度比で2倍以上に急増した(下図)。

長寿バラエティー番組「めちゃ×2イケてるッ!」と「とんねるずのみなさんのおかげでした」の終了に象徴される番組編成改革や、制作現場をはじめとする徹底したコスト削減が功を奏した形だ。さらに『劇場版コード・ブルー −ドクターヘリ緊急救命−』などの映画の大ヒットが後押しした。

視聴率回復はまだ「道半ば」

とはいえ、肝心の視聴率は復活したとはいえない。2018年度のゴールデン帯(19〜22時)は8.1%と前年度から0.3ポイント改善させたが、日本テレビ(11.9%)、テレビ朝日(10.5%)、TBSテレビ(10.0%)に次ぐ4位に甘んじたまま。トップ3の背中が近づいたとはいえない。宮内現社長は5月の決算説明会で、「改善の兆しは見えているが、まだ道半ば」と評している。


遠藤新社長は、「かつて時代の心をきちんとつかんでいたわれわれが、ここ数年その動きについていけなくなったのは否めない。長寿番組を打ち切らざるをえなかったのも1つの表れだろう」と振り返りつつ、「ただ昨年からはトライアンドエラーを繰り返しながら挑戦している。昨年後半から数字が上向いているのも、その兆しではないか」と語る。

収益には少しずつ結び付きつつある。今年4月のスポット広告収入は前年比3.6%増となった。関東地区全体では前年を下回る中、シェアアップを実現。この背景には広告主の視聴率の捉え方の変化もある。

ここ数年、テレビ業界で重視されるようになったのが、個人視聴率だ。一般に公表されているのは世帯視聴率で、テレビを所有する世帯のうち、番組をリアルタイムで視聴した割合を示すもの。一方の個人視聴率は一般には非公表で、世帯の中で誰がどのくらいテレビを視聴したかを示す数値だ。

この中でも広告主が注目するのが、10代前半〜50代後半の男女の個人視聴率だ。ある民放キー局関係者は、「これらの世代の個人視聴率に限ると、日テレ、フジ、TBSの順になっている」と明かす。消費意欲の強い世代に効率的に広告を打ちたい広告主のニーズに合致していれば、世帯視聴率と広告収入は比例しない。視聴層が比較的若いフジテレビには追い風だといえる。

それでも安心はできない。そもそもテレビ広告市場は年々右肩下がりだ。電通の統計「日本の広告費」によれば、2018年の地上波テレビの広告費は1兆7848億円と前年比1.8%減となった。

これを猛追するのがインターネット広告で、同16.5%増の1兆7589億円だった。今年にはネットが地上波テレビを逆転するとみられている。限られたパイの奪い合いにも限界があるのだ。「冬季五輪やサッカーW杯があった中でのこの状況は、テレビ広告のネットシフトを認めざるをえない」(電通関係者)。

ネット配信にどう対応するのか

ネットの波はコンテンツにも及ぶ。フジメディアHDの金光新社長は会見で、「デジタルデバイスの多様化に伴う行動の変化にいかに対応すべきかを考えなければならない」と語ったうえで、「(NHKが計画するネット)同時配信を含めて、無料であれ有料であれ、どう取り組むかは重要な経営課題と認識している。この1年間でプロジェクトを組んで検討してきた。まだ発表の段階ではないが、何らかの形で組織に反映して具体的に進めていく」と説明した。


6月末の株主総会を経て就任する、フジ・メディア・ホールディングスの金光修新社長(右)と、フジテレビの遠藤龍之介新社長(左)(撮影:大澤 誠)

フジテレビはオンデマンドの有料配信サービス「FOD」を展開する。黒字を維持しているものの、登録者数は約80万人にとどまる。テレビ朝日とサイバーエージェントの合弁による無料リニア配信の「AbemaTV」は、この6月に週間アクティブユーザー数で1000万人を、日テレ傘下の有料配信サービス「Hulu(フールー)」が今年3月末に会員数で200万人を突破したことを考えれば、規模は小さい。また、TBSとテレビ東京、WOWOWも昨年、有料配信サービス「Paravi(パラビ)」を開始するなど、視聴時間の奪い合いは熾烈だ。

フジテレビがゴールデン帯、プライム帯(19〜23時)、全日帯(6〜24時)のすべてで民放トップとなる「視聴率三冠王」を獲得したのは、2010年が最後。メディアを取り巻く環境が激変する中、かつての勢いを取り戻せるか。新体制の肩にのしかかった荷は重い。