平成を騒がせたサギ師たち、ウソをついて「何が悪いの?」その人間性にあ然
クラシック界に現れた“スター”はウソで塗り固められたニセモノ──。全ろうで抑うつ神経症などを患いながらも、“現代のベートーベン”と呼ばれた作曲家の佐村河内守氏。ワイドショーだけでなく、NHKがスペシャル番組で取り上げるなど一躍、時の人となったのだが……。
本人はウソをついているとは思っていない
平成26年、新垣隆氏のインタビューで佐村河内氏のウソを暴き、事件の経緯を取材して著書『ペテン師と天才』を上梓した神山典士さんはこう話す。
「彼は難聴かもしれないが、ろうあでまったく聞こえていないように18年間も演じてきたわけです。そこに自分が広島被爆2世という物語と、義手の少女でバイオリニストという障害者を巻き込み、他人に足をすくわれないように“弱者”の立場の仕掛けを二重三重にもしていたわけです」
取材で5〜6回、佐村河内氏と会ったという神山さんは彼について、
「本人はウソをついているとは思っていないのだと思います。僕らからすれば理解できないけど、彼にしてみれば“何が悪いの?”という感覚。あの騒動から5年たったけど、今でも彼の人間性に興味が尽きません」
サギ師としてワイドショーを騒がせたといえば、平成21年の鳥取連続不審死事件の犯人、上田美由紀。彼女を取材し、事件の暗部に迫った『誘蛾灯』の著者、青木理さんは、彼女についてこう語る。
「何の変哲もないスナックホステスで、なぜ男性が何人も引っかかったのかはいまも謎です。不審死した男性たちは、上田が働いていたカラオケスナックの常連客でしたが、小太りの女性ばかりが営む場末の店で、あそこに入り浸る気持ちも僕にはわからない」
青木さんは、同時期に起きた首都圏連続不審死事件の犯人、木嶋佳苗から取材してほしいとの“ラブコール”を受けている。
「僕の名前を出すことで、彼女らしい“劇場化”の駒に使われたなら嫌悪感しかありません。木嶋の事件では“婚活”“出会い系”といった、今の時代を象徴するキーワードが、上田の事件には“都市と地方”“格差と貧困”というキーワードが見えてきます。そういう意味では双方の事件とも時代や社会の歪みやにおいを映し出しています。
ただ、いつの世も女に騙される男はいるし、男に騙される女もいますから、類似の事件はこれからも起きてしまうのでしょう」
《PROFILE》
神山典士さん ◎ノンフィクション作家。新垣氏のインタビュー記事で第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)などを受賞
青木 理さん ◎ジャーナリスト、ノンフィクション作家。共同通信で警視庁公安担当、ソウル特派員を経て'06年に独立し活動中