子どもの安全を一歩先で見守るランドセルに取り付ける「親カメ」- 数々の出会いの化学変化が誕生させた

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ニュースで子どもが犯罪に巻き込まれる事件を目にすると、割り切れない悲しみと怒りがこみ上げてくる人も多いだろう。子どもを持つ親なら、その思いは、なおさらだ。

子どもを、こうしたトラブルから守るために、位置情報を利用した「見守り携帯」や「キッズ携帯」がある。

しかし、使い勝手など、まだ課題も多い。

そんな中、ある製品に注目が集まっている。
子どもがいる場所の写真と位置情報がわかる「親カメ」だ。

「親カメ」は、ランドセルなどに装着できる見守りカメラで、子どもがいる場所の写真と位置情報を30秒に1回、親のスマホに送信してくれる。

親にとっては、子どもの居場所が位置情報だけでなく、写真でも確認できるので、とても安心感を得ることができる。

今までありそうでなかった「親カメ」を開発したのが、この二人だ。
・オリエント・エンタプライズ株式会社 代表取締役会長 堀江圭馬氏
・オリエント・エンタプライズ株式会社 技術顧問(株式会社ネオエンタープライズ 代表取締役社長) 川谷聡氏


■運命的な異業種の出会いが、「親カメ」という化学変化を生みだす

オリエント・エンタプライズ株式会社 代表取締役会長 堀江圭馬氏


堀江圭馬氏(49歳)は、サインペンでお馴染みの「ぺんてる」の創業者の孫として生まれる。32歳の若さで、ぺんてるの社長に就任し、数々のヒット商品を生み出す。
退職後、
「世の中にないものを作り出したい」
との想いから株式会社ラーテルハートを設立、
消費財を対応とした新製品開発の支援事業を行う。
また、オリエント・エンタプライズ株式会社の会長でもある。


オリエント・エンタプライズ株式会社 技術顧問(株式会社ネオエンタープライズ 代表取締役社長) 川谷聡氏


川谷聡氏(66歳)は、セイコーインスツル株式会社にて
・CAD系ソフトウェアの開発
・業務用携帯端末の企画・開発
・サーバ型サービスの企画・開発・販売
事業責任者および関連グループ会社の取締役等を歴任。

退職後、株式会社ネオエンタープライズを設立。代表取締役社長としてICTコンサルティング、ICT関連システムの企画・開発・販売、建築設計図書の電磁的記録による作成と保存のコンサルティングをするかたわら、オリエント・エンタプライズ株式会社の技術顧問を兼務している。

堀江圭馬氏が経営するオリエント・エンタプライズは、海外製品を輸入している会社だ。
堀江圭馬氏は、
高性能なドライブレコーダーの日本輸入を検討した際に、「ドライブレコーダーによる子どもの見守り」というアイデアを思いついた。

堀江圭馬氏
「一緒に仕事していた方のお子さんの同級生が連れ去られる事件があって。その方は本当に親身になって『できたら、凄いですよね。』と言われたので、(親カメ)ができたら役に立つという感触はありました。お子さんは中学生だったんですよ。この間、保護されたんですけれども、2年間くらい監禁されていてニュースにもなりました。中学3年生で戻ってきても、もう進学もできないですし。

我々が(「親カメ」の利用を)想定している層は、小学校1年生から3年生ですが、そういう危険性を考えると、中学生や小学校高学年というのも、何かしら対応の仕方があると考えています。私の娘もどんどん大きくなってきますから。」

アイデアの背景には、
・堀江圭馬氏の知人の子どもの事件
・自身が子育ての世代になったこと
こうした背景もあったわけだ。


東京都中小企業振興公社の助成金を獲得し「親カメ」の開発に踏み出すのだが、その活動中に、川谷聡氏と運命の出会いをしたという。

堀江圭馬氏は、「親カメ」開発のため、いくつも助成金を申請していた。
そんな中、キャリアコンサルタント協同組合に助成金の相談をしに行った際の担当者が、川谷聡氏の元同僚だった。

川谷聡氏が「親カメ」開発のための助成金の申請に協力したことで、堀江圭馬氏と出会った。

川谷聡氏
「組合仲間3人で協力して助成金の申請書を書いて、東京都中小企業振興公社に申請したところ通ったので、一度お話を聞きたいとお会いしました。」

堀江圭馬氏
「松生さん(オリエント・エンタプライズ顧問)がキヤノン出身なので、カメラ系はわかるんですが、だんだん通信系になってきて、我々で手に負えなくなってきて。誰か通信に詳しい人がいたらというときに、川谷氏を紹介されました。」

川谷聡氏
「私は現役のときにセイコーインスツルにいまして、いろんなことをやっていましたが、その中で、OEMで某大手のGPS端末の開発のリーダーをやりました。映像はなかったですが、GPSのことは見えていました。それ以外に端末とサーバ系の仕事をやっていましたので、端末とサーバ、通信、GPS、この辺のことはよくわかっていました。たまたまそういう経験があったので、オリエント・エンタプライズさんが開発されるにあたって、顧問として契約していただきました。」

・文具業界の堀江圭馬氏
・IT業界でGPSや通信に詳しい川谷聡氏
このまったく異なる道を歩んできた二人の出会いが、
「親カメ」という「化学変化」を生み出すことになる。


■「親カメ」は、子どもの周囲の出来事や行動から危険を知らせる
二人が創った「親カメ」は、なぜ注目されているのだろうか?

「親カメ」は子どものランドセルなどに装着できる「見守りカメラ」である。
30秒に1回、静止画を撮影して、親のスマートフォンに画像と位置を送る。
また画像は、「親カメ」内にも保存されるため、あとから確認することもできる。

「親カメ」本体側面のヘルプボタンを押すと、
・親のスマートフォンにアラートを発信
親は、離れた場所にいても子どもの危険を速やかに知ることができる。
・10秒間、子どものまわりの音声を録音し、親のスマートフォンに送信する
親は、ヘルプボタンが押された際に子どもに何が起きているかを把握することができる。

さらに「親カメ」の最大の特徴が、子どもの危険察知での通知の仕組みだ。
実は「親カメ」は、子どもがヘルプボタンを押さなくても、子どもの危険を親に通知してくれるのだ。
・子どもの周囲で大きな音声が発せられる
・「親カメ」に、物理的な強い衝撃が与えられた
・子どもが「親カメ」で設定されているエリアから外に出た
子どもに、こうした状況が起きた際でも、親のスマートフォンに危険を知らせるアラートが発信される。

子どものエリアは、
・「立ち入り許容エリア」
・「立ち入り禁止エリア」
として設定することができる。
これらは、親がスマートフォンの地図上を指でタッチするだけで簡単に設定、変更ができる。

このほかにも、定期発声を設定することで、
「塾の時間ですよ」
といったように、子どもの日常の決められた行動を促すことができる。
この定期発声は、
・1日で、6回
・1週間で、42回
までイベントとして設定することができる。

「親カメ」は、
・子どもからのヘルプ
・子どもの周囲でおきた危険
・子どもの予定外の行動、危険地域の立ち入り
こうした子どもに危険が迫った場合、親にいち早く通知することで、親は子どもを危険から救う対処ができるのである。


■化学変化を生んだ「ちゃぶ台返し」 ドラレコからスマホへの転換
堀江圭馬氏
「『親カメ』というネーミングですが、
最初は動画送信をイメージしていて『キッズガード』という名前を考えていました。
でも、子どもが使うものなので、子どもに馴染みやすいものにしようと。
見守り端末ですが、静止画を送るので、カメラであることを伝えたいという思いから、『親カメ』としました。」

この「親カメ」は、今から6年前に構想がスタートした。
当初はドライブレコーダーをベースに開発が進められたそうで、そこには様々な困難が待ち受けていた。

川谷聡氏
「台湾のドライブレコーダーのメーカーさんと話を始めて一番困ったのは、CPUやサーバの経験がなかったことです。

DSPしか使ったことがないから、(見守りで必要な)通信系がまったくわからないんです。
閉じた世界で映像を撮ることはわかっていても、それ(データ)をサーバに飛ばす方法がわからないんです。

提案されてもP2Pでダイレクトにスマートフォンに飛ばそうとするんです。
DSPはコストが安くて高性能ですが、割り込み等の複雑な処理ができないのです。」

結局、自社開発を選択せざるを得なかった。それが3年前の話だ。
しかし、これは想定以上に苦難の道だった。

それでもCPUとしてRaspberry Piを選択して、通信モジュールやカメラユニット、電源回路、バッテリーなどを加えることで、初代の「親カメ」を開発した。


製品版の「親カメ」(左)と、自社開発しようとしていた頃の「初代 親カメ」(右)


川谷聡氏
「初代の『親カメ』は、寄せ集めなので、
・GPSの精度が出ない
・割り込み処理がうまくいかない
・通信感度が悪い
など、いろいろな問題がありました。
基本的な動作はできていましたが、商品化は難しい状況でした。」

つまり初代の『親カメ』では、
・子どもに使わせるほど安くは生産できない
・子どもが使えるほど小型・軽量化が難しい
製品化には、大きな課題が立ちはだかっていたのだ。

そうした中、
ハードウェアを開発するのではなく、スマートフォンをベースにすれば問題を解消できるのでは? というアイデアが浮上した。

スマートフォンをベースにすれば、
・GPSの位置情報
・音声センサー
・写真
・アラート
など、「親カメ」で必要とされている各機能すべてと
・低コスト化
これらが実現されていたからだ。

とはいえ、問題もあった。
当時の国内のスマートフォンは、想定している「親カメ」より、かなり大きかったのだ。

海外では3G対応の小型スマートフォンはあったが、国内で使うには技術基準適合証明等マーク、いわゆる「技適マーク」の取得が必要になる。
さらに3G通信では、画像送信などで速度が不十分で、サービス展開は難しいという課題が残っていた。

川谷聡氏
「スマートフォンベースを検討していたときにJelly Proに出会った。
これは嬉しかったですね。

当時、国内で正式販売はしてなかったですが、技適マークをとる予定だとアナウンスされていたので、それを信じました。

今のスマートフォンは、技術的に何でもできるじゃないですか。
動画も撮れるし、動画やライブ中継も送ろうと思ったらできる。
それを限られたリソースで、どの仕様に落とせばいいのか。
そのとき、なんとなく見えていました。」


「親カメ」のケースを外すと「Jelly Pro」という超小型のスマホが入っている


海外で発売されたUnihertz(ユニハーツ)製の「Jelly Pro」は4G通信対応のスマートフォン。
手のひらにすっぽり収まるほど小さいのが最大の特徴だ。
このため、「親カメ」のベースとしてまさに最適なハードウェアだったのだ。


堀江圭馬氏
「彼ら(Unihertz)は日本市場の大事さをわかっていて、自分たちは単独でAmazonで販売しているだけなんですね。日本に代理店があるわけではないので、代理店ではありませんが、我々のほうで本体を仕入れて売るかたちになります。」

Jelly Pro本体を直接仕入れる契約をUnihertzと交わせたことで、スマートフォンベースの新「親カメ」の開発が実現できたのだ。


■ついに完成 スマホに見えない新「親カメ」の理由とこだわり
新「親カメ」のベースがJelly Proに決まっても、苦難は待ち構えていた。

川谷聡氏
「一番悩んだのは、ヘルプボタンをどうするかです。
Jelly Proは、タッチ操作はできますが、特別なボタンはありません。
・イヤホンジャックでボタンを付けようか
・Bluetoothボタンにしようか
いろいろ悩みました。

そこでJelly Pro(Unihertz)の社長にお会いして相談したら、ボリュームボタンのアサインを変えればいいというアドバイスをいただきました。」

新「親カメ」のヘルプボタンは、Jelly Proのボリュームボタンの機能を変更することで実現した。これで、ヘルプボタンの課題はクリアした。

しかし、まだ課題はあった。

「親カメ」のターゲットは小学校1〜3年生だ。
この子どもたちに、どう持たせるかだ。

そこで思いついたのがランドセルだ。
「親カメ」をランドセルに取り付けられるようにする。
こうすれば、学校の行き帰りは必ず携帯されることになる。

こうして「親カメ」のもうひとつの特徴でもある。
「ランドセルに取り付けられる機能」が生まれた。
ちなみに、ランドセルに取り付ける機能は特許を取得している。

川谷聡氏
「『親カメ』専用機という位置づけの製品です。
そのため、スマートフォンには見えないデザインにしています。
理由は、(専用機というだけでなく)スマートフォンを持って行ってはいけない学校もあるからです。」


■「親カメ」は、子どもの安全を一歩踏み込んで守りたい人のために



堀江圭馬氏
「オリエント・エンタプライズは小さい会社です。
全国の小学生がひとり1台持つとは、(現時点で)想定はしていません。

(いまは)意識の高い親御さんが買ってくれればといいと思っています。
そうしたニーズなら、ある程度、期待はできると考えています。
我々も事業としてやるので、『親カメ』を少なくとも1〜2万台は出荷したいと考えています。」

「親カメ」は、2月27日までクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で支援者を募り、5月以降は大手家電量販店などの店頭にも並ぶ予定だ。

また現在、「親カメ」から情報を受け取るスマホアプリはAndroid版のみだが、iPhone版の開発も進んでおり、2019年5月頃にはリリース予定とのこと。

現在、子どもをとりまく環境では、便利さと危険が隣り合わせになっている。
子どもの安全を守る親も、仕事を持ち、地域のセキュリティも低下している。
「常に子どもの安全を確認するニーズ」が高まっていることは間違いない。

既存の見守りシステムより、一歩踏み込んだ「親カメ」は、そうした親子にとっての福音となりかもしれない。

「親カメ」
販売予定価格は3万2,184円(税込)。
実際の利用には、通常の初回契約料のほかに、月々のサービス料が必要となる。

スマホで子供を見守る時代へ。ランドセルで携帯する見守りカメラ「親カメ」遂に完成!


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm