「白バイ」にも種類があり、警察のものと自衛隊のもののふたつに大別されます。とはいえ、自衛隊のものは白バイに違いないのですが、厳密にはいわゆる「白バイ」ではないといいます。どういうことなのでしょうか。

白バイのようで「白バイ」じゃない少し異なる陸自の白バイ

 警察の白バイ(正式名称:交通取締まり用2輪車)、それは警察官のなかでも限られたエリートしか乗ることができません。それでも、その精悍さからTV番組の警察特集でもよく取り上げられていますし、各地のイベントでパトカーなどとともに展示された際には1、2を争う人気を誇ります。


陸上自衛隊の警務官(冬服)と「オートバイ(警務用)」。「MP」の腕章は警務官の証。警察の白バイやその隊員の姿とはやはり少し異なる(2012年4月、柘植優介撮影)。

 しかし一転して、街角で取り締まりを受けることになった場合には、恐ろしい存在になります。高い操縦テクニックを持つ彼らからは、まず逃げ切れません。ちなみに筆者(柘植優介:月刊PANZER編集長)は、かろうじて白バイの取り締まり“だけ”はまだ受けたことはありません。

 このように「白バイ」というと、交通取り締まりのイメージ(実際は機動隊も白バイを保有しています)から「警察車両」と思われがちですが、実は陸上自衛隊も白バイを持っているのです。


下志津駐屯地にて、ヤマハXJR400をベースモデルとした「オートバイ(警務用)」(2009年4月、柘植優介撮影)。




 陸上自衛隊のオートバイというと、緑色の「偵察オート」こと「オートバイ(偵察用)」のイメージが強いでしょう。それもそのはず、白バイは偵察オートのように職種を超えて幅広く配備されているわけではありません。自衛隊の白バイは「オートバイ(警務用)」と記されており、運用は警務隊に限定されているのです。

「警務隊(職種名:警務科)」とは、旧軍でいえば「憲兵」にあたる部門で、自衛隊における秩序や規律の維持、交通統制を主要任務としています(ただし軍法会議がなかったり、一般国民に対する警察権がなかったりと、旧軍の憲兵とは異なる組織です)。また、陸海空それぞれに「警務隊」「海上自衛隊警務隊」「航空警務隊」とありますが、以降はおもに陸上自衛隊の「警務隊」のお話になります。

陸自の白バイがオンロード・モデルである理由

 警務隊は、言うなれば「自衛隊のなかの警察」のため、1/2tトラック(三菱「パジェロ」ベースの車両)は白色塗装で赤色灯を装備し、一般車改造の覆面パトカーも配備されています。そしてオートバイも白く塗られており、要人警護や交通統制などが主たる使用目的です。そのため偵察オートと違って不整地運用がほとんどないことからオンロード・モデルが代々採用されており、警務隊の数少ない専用装備といえます。


陸自の「オートバイ(警務用)」2種、ヤマハXJR400とホンダCB400SF(2009年8月、柘植優介撮影)。

 ちなみに導入は警務隊が発足した1952(昭和27)年当時からすでに始まっているため、実は偵察オートよりも自衛隊での歴史は長いです。

 オートバイは当初こそアメリカ製のハーレーダビッドソンや国産の様々なメーカーのものを種々雑多な形で運用していましたが、徐々に国産の新車で置きかえられていき、1960年代以降は偵察オートと同じく、ホンダ製が連続して採用されるようになりました。当初のホンダ製オートバイは250ccでしたが後に360ccなどに更新され、現在はCB400SFという400ccのものが用いられています。

 また2000年代中頃からは長年続いたホンダ製オートバイに変わる形でヤマハ製のXJR400が初めて採用されましたが、新排ガス規制の影響によって同車は2008(平成20)年9月に生産終了となったため、現在調達可能な400ccネイキッド(カウルを装着しないタイプ)は前述のCB400SFのみとなっています。

 この2車種は教習所の教習用としてもポピュラーなため、二輪免許をとる際に乗ったことのある方も多いのではないでしょうか。ちなみに筆者は両方とも乗ったことがあります。

警察の白バイと異なるのにもワケがある

「オートバイ(警務用)」のCB400SF、XJR400ともに400ccのいわゆるネイキッドタイプで、警察の白バイと違い小排気量でカウル(風防)がありません。


夏服の警務官とXJR400タイプの「オートバイ(警務用)」(2016年6月、柘植優介撮影)。

 これは自衛隊の白バイは、スピード違反の取り締まりなどを行わないため大排気量のバイクをベースにする必要がなく、なおかつ400cc以下であれば中型自動二輪(普通自動二輪)の運転免許で乗れるからです。そのためカウルも必要なく、速度違反計測計なども装備していません。ただし車体後部に書類箱や回転灯を装備するため、シートは警察の白バイと同じく1名しか乗ることができません。

 だいぶ自衛隊車輌らしくない外観を有している同車ですが、それでもフロントフェンダー上には陸上自衛隊所属を表す桜章がしっかりと描かれており、ナンバープレートも装輪装甲車や各種トラックなどと同様の、自衛隊専用の横長6ケタのものが付けられています。


警視庁機動隊視閲式で行進するホンダCB1300P。こちらがいわゆる警察の白バイ(2013年5月、柘植優介撮影)。

 なお、乗務する警務隊員についても陸上自衛隊の服装で乗るため、緑色または紫紺色の制服(夏場はシャツの場合も有り)に黒い帯革、もしくは迷彩服に反射ベストという出で立ちが多いです。一方の警察の白バイは冬なら黒革のジャケット、夏ならスカイブルーのつなぎに白いマフラーという格好のため、両者の違いは非常にわかりやすいです。

 またヘルメット(乗務用安全帽)に関しては要人警護や交通統制がメインのため、偵察オートのように鉄帽を被ることはせず、バイザーの付いた白色のジェットタイプで正面には金色の帽章が付いています。

 ちなみに、昨今では各都道府県警にて女性の白バイ隊員もポピュラーなものになりつつありますが、陸上自衛隊にもごく少数ながら警務科所属の女性オートバイ隊員がいるようです。全国的に大変稀なケースなので、見かけた際にはエールを送ってあげましょう。