近頃、電車の「女性専用車両」について抗議する男性と乗客の女性によるトラブルが全国で相次いでいます。女性専用車両に抗議する男性は「逆差別だ」として同車両に乗り込もうとして、車内にいる女性客らともみ合いになるケースが多いようですが、この「怒り」はどこからくるものなのでしょうか? 今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、著者で健康社会学者の河合薫さんが、女性専用車両に異議を唱える男性らの主張と日本社会の根底にある心理について分析しています。

男性たちが女性専用車両に“怒る”本当の理由

電車の女性専用車両に男性が乗り込み、トラブルになるケースが今年に入ってから相次いでいます。

2月には、通勤で混み合う午前8時過ぎの根津駅(東京メトロ千代田線)で、「女性専用車両に男性が乗っている」と乗客から連絡があり、駅員が駆けつけたところ、男性3人がホーム上で複数の女性に対し、

「男性に対する差別だ!」

「逆差別だ!」

と主張。女性たちと口論になっていました。

トラブルの影響で電車は約15分遅延。女性客と口論する動画は、インターネットに投稿され、瞬く間に拡散。同様の騒ぎは都内だけでなく、関西方面でも発生しています。

こうした動きに反対する市民団体が先月末、男性の乗り込みを明確に禁止する要望書を東京メトロに提出したと毎日新聞が報じました。

ううむ。気持ちがわからなくもありませんが、ここまでやる問題なのかなぁと正直思います。

一方、「専用車両? 逆差別じゃん! すべての男を痴漢と思うな! 人権侵害だ!」というのが、女性専用車両に反対する男性たちの主張です。

確かに、今の日本社会は完全に“女性オリエンテッド”なので、女性たちが必要以上に「権利」を主張している部分はあるかもしれません。

でも、「そこじゃないだろっ?」と。「エネルギーを怒りの先にある、問題の解決に向けようよ」と。

そんな中、朝日新聞が「憲法を考える特集」で、女性専用車両を逆差別と訴える男性たちのインタビュー記事を掲載しました。

1人の男性は、年齢の壁で再就職に苦しんだ経験から、10年前から年齢差別の解消を求める活動に取り組んでいたそうです。そんなある日、女性専用車両を知り「自分は絶対に痴漢をしないのに」と憤った。「クオータ制」(議員・閣僚などの一定数を女性に割り当てる制度)にも反対。

「マイノリティーが強くなりすぎ、マジョリティーが差別されている」と、男性は訴えます。

もう1人の男性は障害があり、子どもの頃にいじめに遭った。

「女子は守らないといけないと洗脳されてきた。でも、男性として優遇されたことはなく、冷遇ばかりだ」。

……気の利いた言葉が見つかりません。ただ、こういった構図は生活保護受給者へのバッシングでも見られます。

しんどい思いをした人が、自分より優遇されている人を批判する。

結局のところ、そもそもの問題はそれをなおざりにしてきた“上”であり、“力”のある人たちの責任なわけです。

女性専用車両は、一向になくならない痴漢被害から、女性を守るために作られた「痴漢シェルター」です。

でも、女性専用車両を作らなくても、痴漢が見過ごされない環境を作るという方法もあったと思うのです。

殺人的な通勤ラッシュで痴漢は多発する。えん罪も起きる。だったら通勤ラッシュをなくすための方策を考える。

例えば、フレックスタイムやテレワークを企業に徹底させるだけでも、ずいぶんと違うはずです。

えん罪から守るためには、もっと監視カメラを設置し、

「痴漢です!」⇒「加害者決定!」

じゃなく、

「痴漢です!」⇒被害者からの証言、周りの人の証言、カメラの分析など、行なえばいい。

さらに、「痴漢にあっても言えない」とする女性が(これはホントに言えません。学生時代は私も恐くて言えなかった。今だった即「ぎゃー」と叫びます!笑)、スマホの操作で簡単に悲鳴をあげられるアプリ(実際にあります)を、Suicaとセットにするとか、いくらでも対策は考えられます。

こうやってひとつひとつを切り取って考えていくと、今の日本の不寛容社会の根底に潜む問題が垣間見え、「他人事感満載」のメディアの報じ方に、ある種のフラストレーションがたまってくるのです。

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