評価の高いせんべろ街はどこなのだろうか(写真:aluxum / iStock)

「せんべろ」とは、主に大衆居酒屋、小規模な酒場、立ち飲みなど、1000円でべろべろに酔える安く楽しめるお店の俗称である。もともと、その言葉は作家の故・中島らも氏と編集者の小堀純氏による共著『“せんべろ”探偵が行く 中島らも酔いどれ紀行』(文藝春秋、2003年10月)で、最初に使われたと言われている。

書籍出版から15年も経ち、現在では1000円ちょっとでおつまみとお酒が2、3杯を飲めるという意味合いにとらえられている。実際に筆者が通うせんべろ店も、お会計が1000円以上2000円未満に収まるところが多い。

「せんべろ用語」を知っていますか

せんべろには独特の文化があり、それらを表す「せんべろ用語」も存在する。たとえば、「角打ち」とは「かくうち」と読み、街なかの酒屋さんに併設された立ち飲みコーナーで飲むことである。

酒屋では古来、持ち帰りの量り売りがあった。しかし、家まで我慢できず、すぐに飲みたい呑兵衛のため、店内で計量用の四角い升で提供していたが、その角に口を付けて飲む姿が角打ちの由来とされる。10年ぶりに改訂した2018年1月発売の国語辞典『広辞苑 第七版』(岩波書店)では、角打ちが「酒屋で買った酒を店内で飲むこと」を意味することで、初めて掲載された。やっと、角打ちが市民権を得たと言えるのではないだろうか。

ほかにも、「ダーク・スタイル」と呼ばれる飲み方がある。混雑時にお客がカウンターに対して斜に構えた半身の姿勢を取り、詰めて飲食する立ち飲みのことだ。

1950年代から1970年代にかけ活躍した男性コーラス・グループ「ダークダックス」のように、1本のスタンド・マイクに複数の歌手が斜めから肩を入れて、横一列に並び歌う姿と似ていることが由来であり、大阪発祥の言葉だそうだ。

もし、お店が混み始め、従業員から「ダークで」と言われたら、素直に従おう。ダークになることで、倍以上となる立ち飲み客が確保できる。

ちなみに、立ち飲みでの支払い方法には、注文した商品と交換に、その場で支払い精算を行う明朗会計のキャッシュ・オン・デリバリー(COD)システムが多い。無銭飲食もなくなるし、泥酔客には従業員から「これが最後」とストップ宣言もかけやすい。

せんべろ街で食べログ評価が高いのは?

さて、「食べログ」では、東京都で居酒屋のお店は約2万8000店となる(2018年1月現在)。そのうち、支払い1000円台となる夜の予算2000円未満に設定をすると、約3000店となる。

居酒屋食べログ評価が上位21位の店は夜の予算が2000円以上。せんべろはあくまでも1000円台と見なすので、それらの店は点数が高くとも該当しないものとする。

なお、対象としたジャンルは、「居酒屋」が最初もしくは2番目に表示される店舗で、かつ焼鳥やもつ焼きなどの「居酒屋フード」と関連する店舗だけを抜き出した。

そのため、「ラーメン、中華料理、居酒屋」として登録されている店など、ジャンル登録の3番目以降に居酒屋が表示される店は対象から除外している。せんべろ居酒屋の趣旨から大きく逸れるからだ。

以上の条件で精査すると、対象店は約700店となった。それらのうち、評価の高い店舗はどこに多く存在するのか。今回、筆者が食べログの飲食店データを基に独自調査した。


まず、せんべろは大きく2つのエリアに分けられることがわかった。1つは御徒町、上野、浅草と荒川をはさんだ小岩、京成立石の城東エリアだ。もう1つは、赤羽から池袋、新宿そして渋谷へ連なっている城西エリアだ。

池袋や新宿、渋谷、新橋の歓楽街には、安価な居酒屋も多いので、ランクインしてくるのは納得できる。それ以外の街では、やはり戦後に工場が多くあり、1日中働いた大勢の労働者が、その疲れを駅にまで連なる飲み屋街で癒してきたことが、せんべろの街として発展した経緯であろう。

次点のせんべろエリアには蒲田地域、北千住地域が入るのだが、これらも周辺には中小の工場群があったことが影響している。

駅ごとに見ていくと、せんべろの食べログ平均点が高い街1位に輝いたのは御徒町。近隣の京成上野も4位に食い込んでいる。ここで興味深いのは、ターミナル駅である上野駅ではなくその周辺に位置する御徒町、京成上野がランクインしている点である。これは上野駅前の商業街の周りに飲み屋街が形成されているためで、いわば「ドーナツ化現象」が起きている。

また、せんべろの聖地として有名な「京成立石」は3位にランクイン。平均点と店舗数ともに高水準であることがわかった。


せんべろが「多い」街は圧倒的に新橋

一方、せんべろの店舗数で抜きんでる街は新橋だった。「サラリーマンの街」新橋は、明るいうちから飲める居酒屋もたくさんあり、昼飲みも可能だ。

ランキング上位の街には10店以上のせんべろが店を構える。呑兵衛たちはせんべろで飲んでは切り上げ、その街で「はしご酒」を楽しめるのだ。

浅草(つくばEXP)と聞いて、どこにせんべろがあるかわかる方は、かなりのツウだ。つくばエクスプレス「浅草駅」より徒歩3分に位置するのが、浅草寺の西側にある居酒屋店舗が立ち並ぶ通称「ホッピー通り」、別名「煮込み通り」だ。

むかし、ビールが比較的高価だった時代、安価な焼酎をビール風炭酸飲料で割る「ホッピー」が人気を博した(現在でももちろん愛好家はいるが)。この通りにはホッピーを提供している居酒屋が多かったので名付けられた。

しかし、ホッピー通り一帯には20店舗以上があるが、せんべろに該当するのは13店舗のみ。外国人観光客の増加などにより観光地として注目が高まるにつれ、さまざまな価格帯の店が出てきているということだ。

せんべろ業界に逆風も

各地で(一部の人には)欠かせない存在のせんべろだが、残念な情報もある。2017年の飲食業全体の倒産件数は、前年比19.2%増の762件だった(東京商工リサーチ調べ)。同調査によると、2014年以来3年ぶりに750件を超えており、そのうち居酒屋などの酒場・ビアホールでは前年より35.2%増の115件が倒産。原因を見ると、販売不振が618件で全体の約8割を占めた。また、仕入れ価格の高騰や人手不足による人件費増加などコスト増のほか、景気回復実感の乏しさを背景に個人消費の鈍化が影響したと見られる。

それだけではない。京成立石の駅前一帯では、2017年6月に再開発の告示がされ、すでに工事が始まり、多くの店舗が移転や閉店を余儀なくされている。

京成立石の「呑んべ横丁」は1953年、当初は商店街としてオープン。徐々に居酒屋やスナックが増えて現在のような飲み屋街となった。しかし、一部を含む線路沿いの建築物が段階的に立ち退きとなり、周囲の跡地には高層マンションや大型商業施設、葛飾区役所が建設される予定だ。

京成立石のみならず、昭和30年代の雰囲気が残る多くのせんべろ街は、都市の再開発の煽りを受け風前の灯火となっている。いまのうちに、多くのせんべろの街を巡り、お店だけでなく、その街並みの情緒も味わい尽くし楽しんでおくのがいいだろう。