来季、川崎への新加入が内定している流経大の守田。ボランチの他、CB、SBもこなすポリバレントな選手だ。写真:竹中玲央奈

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 いまや大学サッカー界では屈指の強豪チームに成長した流通経済大は、現在もチームを率いる中野雄二監督を招聘した1998年にチームの強化を始めた。そこから急速に力を付け、これまでに50人以上のJリーガーを世に送り込んでいる。その実力と勢いは留まることなく、毎年のように多くの有能な選手を多方面に輩出しているが、その卒業生の進路として意外にも縁がなかったクラブがある。
 
 それが、今年のリーグ王者である川崎フロンターレだ。
 
 関係性が悪いとか、そういったネガティブな理由ではない。クラブの強化方針と、その時期に流経大に在籍していた選手たちが上手くマッチしなかったことなどが背景にあるのだろう。ただ川崎が唯一アプローチをしながらも獲得に至らなかったのは、現セレッソ大阪の山村和也。鹿島との争奪戦に敗れた形であった。その後も不思議なほどに縁がなかった両者なのだが、このほど、ついにその歴史を塗り替える選手となったのが、守田英正だ。
 
 記念すべき“流経大卒・川崎入り”の第1号となった彼の存在に川崎が目をつけたのは実は2017年に入ってからと、最近のことである。決して長らく追いかけていた選手ではない。
 
 守田と川崎の邂逅は今年の2月、全日本大学選抜の宮崎合宿だった。ちなみにこの時、守田は同じ流経大のDF今津佑太の負傷離脱による追加招集を受けて、繰り上がりでこの合宿に参加していた。
 
 そんななか、視察に向かった川崎の向島建スカウトが彼に目をつける。そしてその2週間後に行なわれた、各地域の選抜チームが集まって戦いを繰り広げるデンソーチャレンジカップ刈谷大会において、守田は大会MVPに選ばれる活躍を見せる。優勝した関東選抜Aのメンバーとしての受賞であったが、守田はその後、夏に行なわれたユニバーシアードのメンバー入りも勝ち取った。
 
 守田が「小中学校以来のMVP」を獲得し、飛躍を見せたこの大会で、向島スカウトは彼の持つ能力に確信をしたのだと振り返る。
「ボランチでボールは取られないし、守備のところの安定感が凄い。あんなすごい選手だったのか、と思った」
 
 大会直後、向島スカウトは流経大の中野監督にコンタクトを取り、まだ具体的なオファーが彼に届いていないことを知る。そして、リーグ戦にも足を運んで練習にも呼び寄せた。その後、地元のチームでもあるG大阪の練習にも参加したことで「また取れないかもしれないと思った」(向島スカウト)らしいが、結果的に川崎は彼の獲得に成功し、めでたくチームの新戦力となった。
 その守田だが、決して派手な選手ではない。高校時代はトップ下を務めオンザボールでのプレーを武器にしていたが、大学ではSB、CB、ボランチという後方の位置で鍛えられたことで、守備的な選手へと変貌を遂げた。「最初は足で(ボールを)獲りに行くという感覚だったけど、今は足を運んで身体で獲りに行けるようになった」とはデンソーチャレンジ後の守田自身の言葉だ。
 
「バチバチやること、球際やセカンド(をものにする)というところが持ち味。きれいにやるというよりも、そういった泥臭いところが好き」とも続けて語っていたが、そういった“肉弾戦”で大きな存在感を見せるタイプではない。ボランチやCBで組むパートナーの動きに合わせて、定位置を取り、高い危機察知能力で“掃除”をする。非常に気の利いた選手である。
 
「良いように言えば、気を使える選手だと思っている。隣にいる選手が上ってスペースが出来てしまったから、自分が埋めてあげたり、予測だったり危機管理だったり。前もって自分が保険をかけるというような、気を使ったプレーができる」
 守田自身もこう、自身の強みを口にする。
 
「どのポジションをやらせてもレベルが高いし、どこをやらせても一流なんですよ。もともとトップ下でオンザボールの選手だったのが、あれだけ献身的にプレーできる。フロンターレにいったら絶対に活躍しますよ。あんな選手がひとりいたら、リザーブはひとりで良いんじゃないかというくらいです」
 
 中野監督がこのように手放しで賞賛すれば、向島スカウトも「安定感のある守備でCB、SB、ボランチとどこでもできる。1年目からチャンスはあると思う」と期待を寄せる。
 
 王者となった川崎を後方から支える黒子として活躍する姿が描かれている守田だが、ひょっとすると、将来的には今野泰幸のような存在になるかもしれない。そんな期待感を、筆者は持っている。
 
取材・文●竹中玲央奈(フリーライター)