ヘビメタ世代にとって「エディ」というと、おそらくふたつの重要なアイコンを指し示している。ひとつは言うまでもなく、ヴァン・ヘイレン兄弟のギタリストの方、泣く子も黙る天才エディ・ヴァン・ヘイレン。そしてもうひとつはといえば、ブリティッシュ・ヘヴィメタルの巨匠アイアン・メイデンのアルバムにいまなお登場し続けているあのキャラクターの「エディ」だ(もう1人、モーターヘッドのギタリスト、エディ・クラークが欠けてるじゃないかという声も聞こえてきそうだ。オーケー。わかった。「3つの重要なアイコン」と修正しておこう)。

「あの「エディ」が鳥として降臨! アングリーバードとアイアン・メイデンのハロウィンコラボが実現!」の写真・リンク付きの記事はこちら

アイアン・メイデンのゾンビ(?)キャラクター「エディ」はヘビメタファンにはおなじみの人気キャラで、それは、ヘビメタお得意のサタニックで邪悪な何かと、結構笑えるコミカルな部分とを体現しており、その意味でヘビメタの楽しさを何よりも表してきたアイコンだといえる。クラス中(主に男子)がヘビメタに夢中なっていた中学時代、数学の先生をこのキャラクターになぞらえて「エディ、エディ」と呼んでからかったものだが(すみません!)、ティーンエイジャーがネタにして笑いあえるような変な親しみやすさを、このエディという化け物はもっていた。

とはいえ、改めてちゃんと見ていくと実際のところエディの正体はよくわからない。最初はゾンビぽい体で出てきたものの(『Iron Maiden』)、次では殺人鬼(『Killers』)、その次はサタンの手先?(『Number of the Beast』)、さらには拘束服を着せられたり(『Piece of Mind』)、なぜか古代エジプトの遺跡になったり(『Powerslave』)、未来に行ったり(『Somewhere in Time』)と、まあ要は「大して定義されてないキャラなんだな」ということになるのが、その鷹揚さとツッコミやすさもまた愛すべき理由のひとつで、煎じつめていうとヘビメタの愉快さというのは、実際はそういうところにあったのだ。

SLIDE SHOW 「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(1)
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正解は…『Killers』(邦題『キラーズ』、1981年)PHOTOGRAPH COURTESY OF AMAZON">FULL SCREEN 「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(2)
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正解は…『Powerslave』(邦題『パワースレイヴ』、1984年)PHOTOGRAPH COURTESY OF AMAZON">FULL SCREEN 「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(3)
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正解は…『Somewhere in Time』(邦題『サムホエア・イン・タイム』、1986年)PHOTOGRAPH COURTESY OF AMAZON">FULL SCREEN 「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(4)
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正解は…『The Book of Souls』(邦題『魂の書〜ザ・ブック・オブ・ソウルズ〜』、2015年)IMAGE COURTESY OF AMAZON">FULL SCREEN FULL SCREEN

2/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(1)
正解は…『Killers』(邦題『キラーズ』、1981年)PHOTOGRAPH COURTESY OF AMAZON

3/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(2)
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4/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(2)
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5/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(3)
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6/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(3)
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7/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(4)
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8/9「アングリーバード版エディ」元ネタのアルバムはなんだ?(4)
正解は…『The Book of Souls』(邦題『魂の書〜ザ・ブック・オブ・ソウルズ〜』、2015年)IMAGE COURTESY OF AMAZON

9/9ちなみにこちらがファースト。『Iron Maiden』(邦題『鋼鉄の処女』、1980年)PHOTOGRAPH COURTESY OF AMAZON

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エディは、正確にはEddie The Headという名称で、デザインしたのはデレク・リッグスという人物だ。誰かに頼まれて書いたわけではないキャラクターだった。本人的には気に入っていたのでレコード会社のアートディレクターに見せてまわったものの、「こんな絵は売れない」「セラピーを受けた方がいい」と散々な言われようをされたのだと言う。アイアン・メイデンからポートフォリオを見せて欲しいと頼まれ、日の目を見るきっかけを得るまでには、絵を描きあげてから、実に1年以上がかかったとのことだ。

面白いのは、このキャラクターをリッグスは、パンクロックにインスパイアされて描いたということだ。けれどもパンクロック周りの人々からは、全くウケず、というかドン引きされ、結果として、のちに大ブレイクすることになるヘビメタバンドのキャラとして収まるべきところに収まるわけだが、言われてみれば、ファーストアルバムのジャケットは、髪型も着ている服もパンクスぽいのだ。結果論からいうと、それは図らずも産業ロック化したハードロックにも、その後勃興したパンクスにも飽き始めて、もっと刺激的な何かを欲していたリスナーの琴線に絶妙に触れる「うまい図像」だったといえるのかもしれない。

いずれにせよ、アイアン・メイデンとエディの関係は、以後、素晴らしいシナジーを生むことになるわけだが、そもそもバンド名とすら何の関係性もないというのも、改めて考えてみるとすごいことだ。バンド名は直訳すると「鋼鉄の処女」で、言うまでもなく中世の有名な拷問器具に由来するのだが、実際、それがアルバムジャケットに登場したことすらないのだから、逆になんのためにそんなバンド名にしたのだかと訝しがりたくなるほどだ。とはいえ、仮にアイアン・メイデンがそのあたりを変にこだわってエディを採用していなかったら、これほどまでのメジャーアクトになっていたかどうか疑わしいだろう。

アイアン・メイデンとエディの関係は、そう考えると実に不思議なもので、そうであるからこそより強固に結びつく。アイアン・メイデンあってのエディであり、エディあってのアイアン・メイデン、なのだ。何の辻褄もあっていないのに、そんなことを気にもさせない存在感。ヴィジュアルインパクトの非合理な力を、改めて感じざるを得ない。これぞ、まさにクリエイティヴの魔力とでも言っておこうか。

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そして、その魔力は、いまだに失われていないのだ。

アングリーバードを世に放ったフィンランドのゲームスタートアップRovioのスタッフにはアイアン・メイデン好きが多いそうで(さもありなん。世界的にみて北欧はヘビメタの重要な産出・消費地だ)、今年のハロウィンにおける『Angry Birds Evolution(アングリーバード エボリューション)』のコラボ相手として「エディ」はうってつけ、とすぐさま話が決まったのだという。依頼を受けたアイアン・メイデンサイドも、「世界中の何百万人のプレイヤーとともにメイデンの音楽とともにエディの活躍を楽しめるなんて楽しみすぎる!」と二つ返事で返答したという。

ゲームのなかでエディは「エディ・ザ・バード」という鳥として(そりゃそうだ)登場し、4枚のアルバムをモチーフとした4つのステージで大暴れすることになるらしい。

エディはかつて、「Iron Maiden: Legacy of the Beast」というRPGとしてゲーム空間に降臨したこともあるが、このアングリー・バードとのコラボは、エディの魔力をさらに広いオーディエンスに(もちろんメイデンなんて知らんし、興味もなし、という若年層にまで)知らしめることになるだろう。なるはずだ。いや、なるべきなのだ。

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