自分自身に可能性を感じていると語る小山美姫

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モータースポーツといえば、少し前までは「男の世界」というイメージが強かった。最近は女性のエンジニアやメカニックが活躍し、女性ドライバーも確実に増えている。

F1を始めとする世界選手権を主催する国際自動車連盟(FIA)、同じくラリーやスーパーフォーミュラなどの全日本選手権を主催する日本自動車連盟(JAF)も、女性のモータースポーツへの参加促進を目的とした「ウィメン・イン・モータースポーツ」というプロジェクトをスタートさせている。また今年5月には世界で初めての女性限定プロレースシリーズ「競争女子選手権」が始まった。

近い将来、女性ドライバーが国内のみならず、世界の舞台で活躍し、モータースポーツを盛り上げる日がやってくるはずだ。というわけで、前回記事の池島実紅(いけじま・みく)に続き、日本人女性ドライバーの有力候補生をご紹介!

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現在19歳の小山美姫(こやま・みき)のプロフィールには「女性らしさよりも速さを求めて生きてきました」と記してある。

実際に会った彼女はとてもチャーミングで、子どもの頃は芸能事務所に所属して子役をしていたという。「子役は母の趣味だったんです。私は好きじゃなかったのでやめました。今はレースにすべてを捧げています」。

現在19歳の小山は、入門用フォーミュラのFIA−F4、ホンダの軽N−ONEのワンメイクレース「N−ONE OWNER‘S CUP」、「競争女子」の3つのカテゴリーに参戦している。競争女子では開幕戦を制し、「N−ONE OWNER‘S CUP」でも勝利を手にしている。

しかしホンダ、トヨタ、ニッサンなどのサポートを受けた同世代の育成ドライバーたちがライバルとなるFIA−F4では苦戦が続いている。それでも「F1ドライバーになる」という彼女の夢は全く揺らいでいない。

「お父さんがバイク好きで、私も4歳の時からポケバイに乗っていました。それでふたりで河原などを走って遊んでいたのですが、ある日、お母さんがバイクとレーシングカートの雑誌を間違えて買ってきたんです。

そのレーシングカート雑誌を眺めていたお父さんが『乗ってみるか?』と言い出して、近所のカートコースに行くことになりました。で、走ってみると、私がすごく遅かった。そしたらお父さんの闘争心に火がついてしまったんです(笑)。『勝つまで終わらないぞ!』って。

タイムが出ない時に周りから『女のコなんだから…』と言われようものなら、『てめえ、なんで遅いんだ』って、こぶしが飛んできました(笑)。お父さんはサーキットで木刀を持っていました。気合いがハンパないんです。

だから最初は無理矢理ですね。お父さんはやるといったらやるんです。平日も幼稚園を休んで走らせたり、男のコに負けない体力をつけるために毎日腕立て100回やれと言われたり…超スパルタでした(笑)。それでもカートのレースをやめようとは思いませんでした。私自身、なんでも一番じゃないとイヤなんです。

私は子どもの頃からスポーツが得意で、小学校の時は6年間リレーの選手でした。スイミングや空手を習ったこともあったのですが、なんでもパッとやると普通以上にできちゃうんです。それでつまらなくなってしまうのですが、レースは違いました。

できないのが楽しいんです。今でも走るたびに成長したい、強くなりたいと思います。それが面白いんです。

これまでいろんなレーシングカーに乗ってきましたが、F4のようなフォーミュラカーは特別です。運転するのが難しく、ドライバーがうまくドライブしないと速く走れないんです。フォーミュラカーに乗っていると、自分がクルマを操っているという感覚があります。

時にはマシンを速く走らせるのがあまりに難しくて心が折れそうになることもありますが、逆に乗りこなしてやろうという気持ちも湧いてきます。そこが自分に合っていると思います。フォーミュラカーで速く走っている時は『うまく操っている、乗れている』という感覚があって、すごく楽しい! この感覚を突き詰めていきたいんです。

夢はF1ドライバーになること。ハコ(ツーリングカー)じゃなくて、フォーミュラの世界でトップに立ちたい。だから今年参戦しているレースでは、F4に一番力を注いでいます。

今シーズンはF4でチャンピオンになることを目指していましたが、昨年所属していたチームがなくなってしまい、一からシートを探さなければならなくなりました。いくつかオーディションを受けて一番のタイムを出したこともありましたが、なかなかうまくいかなくて…。

なんとかシートを見つけましたが、これまで結果を出せていません。この世界でトップに立つのは本当に難しくて、いいクルマ、いいドライバー、いい環境(チーム体制)の3つがそろわないと勝てません。そんな甘い世界じゃないんです。

今の私には速さが足りない。もちろん勝ちたいですし、ひとつでも上の順位を目指して頑張っていますが、ここまで結果を残せてないのは自分に速さがないからです。原因ははっきりしていて、練習量が絶対的に足りないこと。他のドライバーと同じぐらいの時間走り込めていません。ドライバーはきちんと練習できる環境作りもしていかないといけない。

レーシングカート時代は、私には速さがありました。実力でステップアップしてきたと自負しています。でも今は…正直遅いし、結果が出せていません。

私が女性ドライバーだからメディアに取り上げられていることはわかっています。こうして注目されているうちに、いろんなレースに出場してドライバーとしての実力を磨いて、今、F4でトップ争いをしているドライバーたちに追いつかないといけないんです。

『たいして速くもないのに、女だから(特別扱いされて)乗りやがってと…』とは言われたくありません。そう思われないような結果を出したいし、やっぱりなんでも一番が好きだし、レースは勝たないと楽しくありません。

自分自身に可能性を感じていますし、誰よりも勝ちたいという気持ちがあります。きれいごとを言うつもりはありませんが、勝つためなら大抵のことは犠牲にすることができますし、誰よりも頑張ります。上に行くためにはツラいのは当たり前ですから。

私にはレース活動を応援してくれる人がたくさんいます。レースで勝ちたいという私の夢にたくさんの人を巻き込んで、中にはスポンサーになってくれている方もいます。そういう方たちのために全力で頑張らないといけない。

自分で自分に可能性を感じなくなった時は潔(いさぎよ)くやめます。そうじゃないと、応援してくれる方たちに失礼ですから。今は早く一番になりたい。それだけしか考えていません。

レースがない時は脳神経外科のクリニックで朝8時から夕方5時まで仕事しています。主に受付や事務作業ですね。仕事が終わった後は6時から10時までトレーニング。で、家に帰ってスポンサー用の資料作りをして、また朝起きてクリニックに行って…という生活を送っています。働かないと食べていけませんから。

正直、周りはお医者さんの息子さんとか金銭的に恵まれた人が多いです。レースはお金がなければやらなければいいという世界ですが、私は諦めが悪いバカなんです。これまで何度も言われました。『お金もない、親からのサポートもないのにどうやってマシンに乗るんだ』って。私もわからないですよ。わからないけど乗りたいんです。

でも、これまでやりたいと思ったことはなんとかなってきたんです。だから今もなんとかなると信じて、走り続けます」

●小山美姫(こやま・みき)

1997年9月5日生まれ。神奈川県出身。5歳でレーシングカートを始め、2015年から、FIA−F4にスポット参戦する。今シーズン、FIA−F4、ホンダの軽自動車N−ONEのワンメイクレース「N−ONE OWNER‘S CUP」、競争女子の3つのカテゴリーに出場。競争女子の開幕戦で優勝、N−ONE OWNER‘S CUPでは第10戦十勝で優勝

(取材・文/川原田 剛 撮影/樋口 涼)