その力強い突破力と局面の打開力は今季も健在。齋藤学という存在が横浜の“戦術”と言っても過言ではない。(C)SOCCER DIGEST

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[J1リーグ開幕戦] 横浜F・マリノス 3-2 浦和レッズ/2月25日(土)/日産スタジアム
 
 浦和相手に3つのゴールが生まれたが、自身のゴールはなかった。それでも、背番号10を背負い、腕章を巻いた齋藤学の存在感は絶大だった。

 
 カウンターから学の突破。
 
 これは横浜の重要な“戦術”と言える。事実、この形から多くのチャンスを作りだし、浦和の守備陣を何度も手こずらせた。
 
 なによりも、3得点のうち、そのふたつが齋藤のアシストから生まれている。ダビド・バブンスキーの先制点と前田直輝の決勝点は、いずれも左サイドからの齋藤の突破から生まれている。
 
 様々な想いを胸に、この日の開幕を迎えたに違いない。中村俊輔(現・磐田)というクラブの象徴だった選手がいなくなった以上、本人が望もうが望むまいが、日本代表にも名を連ねる齋藤にかかる期待が大きくなるのは間違いない。
 
 ピッチ入場の際には、先頭に立って歩く。昨季までは見慣れない光景――本人はどんな感情だっただろうか。
 
「正直な話、そんなに変わりはない。プレッシャーとかはあるけど、それよりは自分のプレーをまずやらないといけないから」
 
 キャプテンだからとか、そこまでの気負いはないと言う。負担を重く感じていないのは、周囲のサポートがあるからかもしれない。
 
「ボンバー(中澤佑二)とかも、『そんなにやらなくていいよ』とか『こうすればいいんだよ』と言ってくれるから、そこまで意識せずにいられる。それは助かっている」
 
 自分なりのキャプテン像はある。「ガミガミ言うのも、あれだし。要所要所で言えばいい」とイメージしている。
 
 あくまでも自然体でピッチに立ち、チームを牽引する。
 
「キャプテンマークを巻いたからって、10番を背負っているからといって、サッカーが上手くなるわけじゃない。逆に、そのプレッシャーで潰れてしまう選手もいる。そうなるかもしれないけど、それでもキャプテンとして、10番を付けるのが、自分にとっての成長になると思っている」
 
 もちろん、実際のプレーで“違い”を見せられるに越したことはない。その意味では、浦和戦のパフォーマンスには一定の手応えを感じている。

【横浜3-2 浦和 PHOTO】終盤の逆転劇で横浜が浦和を撃破!
「チームが苦しい時に、どれだけ自分がやれるか。だから、今日は良かったと思う。(1-2の状況で)ウーゴ(・ヴィエイラ)が点を取ってくれて、最後に自分がチャンスを作れたから」
 
 2-2で迎えた90+2分、多くの選手が疲れを感じている時間帯でも、持ち前のドリブル突破で左サイドを切り裂き、中の状況をよく見て、決勝点を挙げた前田直輝に見事なアシストをしてみせた。
 
「ああいうのを見せられれば、『やっぱり学が』ってなるだろうし、『学が最後にやってくれたから』となると思う。そういうのは、これまで俊さん(中村俊輔)が背中で見せてきたもの。それは自分も見せていきたいし、諦めないで、俺から発信していかないといけない」
 
 ただ、そうした振る舞いはなにも今に始まったことではない。本人も「やることは特に変わらない」と語る。ただ、一つひとつのプレーでより責任感や自覚を強くしているのだろう。
 
 浦和という強敵から勝点3を奪い、幸先の良いスタートを切ったが、まだリーグ戦の1試合が終わっただけ。表情を引き締めて齋藤は言う。
 
「これから、負けることもあるかもしれない。そういう時に、どれだけ自分をちゃんと保てていられるか。そこが大事。これからです」
 
 発する言葉に充実感が漲るが、慢心はない。その瞳には強い意志が宿る。エースナンバーを背負うキャプテン齋藤学。去年よりもその身体が大きく見えた。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)