声優交代という重圧のなかで出会った、若き日の石川五ェ門――浪川大輔インタビュー
取材が行われたのは、『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』先行上映会の直前。会場となる映画館の楽屋裏では、多くのスタッフや取材陣が慌ただしく行き来している。そんな緊迫した空気のなか、とびきりの笑顔で登場した浪川大輔は、今回演じた若き日の石川五ェ門についてじっくりと、ときに楽しげに、その胸の内を語ってくれた。子役から活躍し、キャリアはすでに30年を超えるも、「挫折しかなかった」と自嘲気味に振り返る浪川。だからこそ、五ェ門の挫折と苦悩、そしてそこからの覚醒を深く理解し、演じることができたのではないだろうか。
撮影/祭貴義道 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
──前作『LUPIN THE IIIRD次元大介の墓標』に続き、若い頃のルパンたちを描いたシリーズの第2弾となる今作『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』では、まだ仲間になる前のルパンと五ェ門の様子が描かれています。最初にシナリオを読んだときには、どう感じられましたか?
“若い頃”とは言われていましたが、台本に書かれたセリフだけでは、その若さっていうのがどのへんに出てくるのかなあ? ってピンとこなかったんです。具体的に「何年前のお話です」といった設定もありませんし。
──そもそも、五ェ門が何歳なのかもわかっていません…。
でも、シナリオを読んでお話の流れを知ると、「なるほど、未熟なんだな」ってわかりました。
──浪川さんが感じられた、その“未熟さ”を演じるにあたって、特に意識した点はありましたか?
テレビスペシャルシリーズなどで演じた五ェ門を、今回の若さの先のゴールとして置いていましたが、どこまで年齢を下げようかな? とか、なにが未熟なのかな? っていう物差しがとても難しくて。その部分は、スタッフさんや監督さんと相談しながらやらないといけない、大きな作業のひとつでした。
──キャッチコピーにも「未熟なり、五ェ門…!」とあるように、今作において、その“未熟さ”というものが大事な要素となっています。
やっぱり、ただ単に未熟さを演じると、薄っぺらいものになると思いました。本人としては精一杯やってるんだけど、まわりが見ると未熟っていうものが……僕が表現したい未熟さであって。「未熟なり、五ェ門」って言われているものを、そのまま未熟に演じると、「そんなの知ってるよ」って思われてしまうだろうなと思いました。
──あえて“未熟さ”を演じない?
そうですね。五ェ門は必死にやってるんで、僕も必死にやりました。そこにシナリオと絵が乗っかることで、「まだ青いな」ってまわりから見えるんです。いままでの五ェ門は、いかにスマートに見られるかが大切でしたが、今回の五ェ門には必死さが出ていて、そこが未熟なんだろうなって。「そんな五ェ門、カッコ悪いじゃん。なんで必死にやって負けてんの?」みたいなところが、カッコ悪くてもやらなきゃいけないと、気をつけたところではありました。
──タイトルに“血煙”と入っているように、今作は五ェ門が刀を抜くシーンも多く描かれています。
バイオレンスな描写が多いので、観る方によっては大丈夫かな? と、ちょっと心配でしたが……そのバイオレンスな部分がないと、五ェ門の成長や、物語のクライマックスにまでつながらないので、挑戦的なシナリオではありますが、必要な描写だと思いました。
──最近の『ルパン三世』作品のなかでは、特にストイックだなあと思ったのですが…。
そうですね。ただ、今年は『ルパン三世』原作の50周年なんですが、50年前に誕生したときの『ルパン三世』には、こういうストイックさもあったと思うんです。もちろん、エンタメ要素の強い『ルパン三世』も素晴らしい時代を築いてきましたが、今回みたいな作品があることで、エンタメのほうの『ルパン三世』もさらに深くなっていくのかなあと思います。
──そういう意味では、前作も含めて『LUPIN THE IIIRD』シリーズは、思いきっていますね。
前作の『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の評判もよく、こういう思いきったテイストの作品で、石川五ェ門を演じられるというのがすごく楽しみでもあり、プレッシャーでもあり……。収録を迎えることにワクワクしつつ、怖くもあった感じでした。
──2011年以降、石川五ェ門を演じられてきた浪川さんですが、今回の五ェ門はやはりちょっと違うイメージだったのでしょうか?
いままでの五ェ門って、コナンとのコラボ(『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』)でもそうでしたが、女性や子供が苦手だったりする描写がたまに出てくるから、「五ェ門かわいいね」とか「おいしいとこ持っていくよね」みたいな部分があって(笑)。
──少し“不思議ちゃん”なところもありますよね(笑)。
そうそう、車でみんなで逃げるときも、ひとり、あぐらをかいてたりとか(笑)。飛行機を斬っちゃったり、月を斬っちゃったりとか、なんかちょっとぶっ飛んでる部分があったと思うんですよね。でも今回はそういうのが一切なく、リアルな感じなので。さっきも言ったように、今回のようなストイックさがあるからこそ、これまでの五ェ門も映えるのかなって思いました。
──初代の大塚周夫さん、二代目の井上真樹夫さんに続いて、三代目として石川五ェ門を演じられている浪川さんにとって、今作のリアルでストイックな五ェ門を演じられたことの意味というのは…。
とても大きいです。僕が五ェ門を演じさせてもらうときって、やっぱりレジェンドたちを追いかけるほうが強いんですよね。モノマネというか、「みんなが望んでいる五ェ門を、いかに演じきれるか」っていうところに90%ぐらい注力するんです。
──でも今回は、みなさんが演じてきた五ェ門よりも若いという設定ですから、追いかける五ェ門像がなかったということですよね。
だから今回の作品で、自分の色じゃないですけど、「五ェ門と一緒に歩める」みたいなところが増えたのは……もちろん、先輩方が演じられてきた五ェ門を尊敬しながら、そこにつながるように気をつけて演じてはいますが、肩の荷が多少はおりた気がします。
──なるほど。役を継ぐというのは、本当に大変なことなんですね。
声優交代ってよく話題になりますけど、受け継ぐほうはめちゃめちゃプレッシャーがありますから(笑)。やっぱり……先代を抜けないんですよ。先代のほうが絶対にいいんです。だからこそ、悔しい思いもしますし、申し訳ない気持ちもありますし。ただ、やるからには精一杯やらせていただきますが、今回みたいに“誰も演じたことのない五ェ門”を演じさせていただけたのは、すごく心強かったです。
──今後の五ェ門へと覚醒する姿が今作では描かれていますが、演じるうえで難しかった点はありましたか?
覚醒する瞬間っていうのは本当に一瞬なので、お芝居というよりも、息づかいみたいなものには気を遣いましたけど、覚醒後のほうが難しかったです。たとえば少年アニメだと、覚醒したら「倒せる! いくぜ!」みたいな感じですが、今回はまるで悟りを開いたかのように……やりすぎないっていうのは、何十回も挑戦させてもらいました。
──「やりすぎない」というのは、具体的にどんなイメージなんでしょうか?
覚醒したから強くなって、調子に乗っちゃうっていうのもイヤですし、だからと言って、「負ける気がしない」みたいな圧倒的な支配感とも違う。五ェ門もやっぱり人間なんで、そのあたりの感情が繊細だと思うんです。五ェ門って、調子に乗るようなタイプじゃないっていうのはわかりますけど、「あ、覚醒したんだな」っていうのを伝えたいなあと。最後のセリフもそうですが、非常にこだわった部分ではありました。
──浪川さんご自身は、自信をなくして剣が抜けなくなった五ェ門のように、演じることが怖くなったり、声優として挫折した経験などはありますか?
いやもう僕、挫折しかなかったんで(笑)。30歳までサラリーマンをやりながら、声優もやっていたっていうのもそうですし……。20代のときに自分の声が嫌いで嫌いで、自分で潰して、こういう声になったんです。
──自分で声を潰すというのは、かなり勇気のいることですよね。
この声じゃなかったら、たぶん五ェ門にも出会ってなかったと思いますけど……毎朝やっぱり怖いですよ。「声が出るかな?」とか思ってしまうと。使いすぎて声が出なかったり、風邪をひいて声が出ないときの無力さたるや、それこそ「どうやったら覚醒するんだろう?」みたいな(笑)。
──まさに五ェ門の刀ですね。
そうですね。五ェ門の刀は、声優にとっては声なので。そういうときはまあ、寝て回復を待つしかないんですけど(笑)。みんなのスケジュールが合うのはその日しかないので、それを自分のせいで飛ばすっていうのは、声優にとっては致命的ですから……。これから声優を目指す人にはぜひ言いたいんですけど(笑)、身体が強いほうがいいですよ。風邪なんかひいてる場合じゃない。
──体調管理が第一ということですね。
プロってそういうことだと思います。五ェ門も刀に関してのプロだと思うので、抜けなくなるっていうのは、抜く怖さを知ってる、ダメになった怖さを知ってるんでしょうね。それと一緒で僕ら声優も、体調管理ができなくてダメになったときの怖さを知っているから、声を出すのが怖いっていう……、「スタジオに行きたくない」って思うときもあります。だから、五ェ門の気持ちはすごくわかります。刀と声帯は似たようなもので、繊細なんですよね。
撮影/祭貴義道 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
今作ではスマートさを封印!“未熟”な五ェ門を表現
──前作『LUPIN THE IIIRD次元大介の墓標』に続き、若い頃のルパンたちを描いたシリーズの第2弾となる今作『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』では、まだ仲間になる前のルパンと五ェ門の様子が描かれています。最初にシナリオを読んだときには、どう感じられましたか?
“若い頃”とは言われていましたが、台本に書かれたセリフだけでは、その若さっていうのがどのへんに出てくるのかなあ? ってピンとこなかったんです。具体的に「何年前のお話です」といった設定もありませんし。
──そもそも、五ェ門が何歳なのかもわかっていません…。
でも、シナリオを読んでお話の流れを知ると、「なるほど、未熟なんだな」ってわかりました。
──浪川さんが感じられた、その“未熟さ”を演じるにあたって、特に意識した点はありましたか?
テレビスペシャルシリーズなどで演じた五ェ門を、今回の若さの先のゴールとして置いていましたが、どこまで年齢を下げようかな? とか、なにが未熟なのかな? っていう物差しがとても難しくて。その部分は、スタッフさんや監督さんと相談しながらやらないといけない、大きな作業のひとつでした。
──キャッチコピーにも「未熟なり、五ェ門…!」とあるように、今作において、その“未熟さ”というものが大事な要素となっています。
やっぱり、ただ単に未熟さを演じると、薄っぺらいものになると思いました。本人としては精一杯やってるんだけど、まわりが見ると未熟っていうものが……僕が表現したい未熟さであって。「未熟なり、五ェ門」って言われているものを、そのまま未熟に演じると、「そんなの知ってるよ」って思われてしまうだろうなと思いました。
──あえて“未熟さ”を演じない?
そうですね。五ェ門は必死にやってるんで、僕も必死にやりました。そこにシナリオと絵が乗っかることで、「まだ青いな」ってまわりから見えるんです。いままでの五ェ門は、いかにスマートに見られるかが大切でしたが、今回の五ェ門には必死さが出ていて、そこが未熟なんだろうなって。「そんな五ェ門、カッコ悪いじゃん。なんで必死にやって負けてんの?」みたいなところが、カッコ悪くてもやらなきゃいけないと、気をつけたところではありました。
声優交代で“役を受け継ぐ”という重圧に向き合う
──タイトルに“血煙”と入っているように、今作は五ェ門が刀を抜くシーンも多く描かれています。
バイオレンスな描写が多いので、観る方によっては大丈夫かな? と、ちょっと心配でしたが……そのバイオレンスな部分がないと、五ェ門の成長や、物語のクライマックスにまでつながらないので、挑戦的なシナリオではありますが、必要な描写だと思いました。
──最近の『ルパン三世』作品のなかでは、特にストイックだなあと思ったのですが…。
そうですね。ただ、今年は『ルパン三世』原作の50周年なんですが、50年前に誕生したときの『ルパン三世』には、こういうストイックさもあったと思うんです。もちろん、エンタメ要素の強い『ルパン三世』も素晴らしい時代を築いてきましたが、今回みたいな作品があることで、エンタメのほうの『ルパン三世』もさらに深くなっていくのかなあと思います。
──そういう意味では、前作も含めて『LUPIN THE IIIRD』シリーズは、思いきっていますね。
前作の『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の評判もよく、こういう思いきったテイストの作品で、石川五ェ門を演じられるというのがすごく楽しみでもあり、プレッシャーでもあり……。収録を迎えることにワクワクしつつ、怖くもあった感じでした。
──2011年以降、石川五ェ門を演じられてきた浪川さんですが、今回の五ェ門はやはりちょっと違うイメージだったのでしょうか?
いままでの五ェ門って、コナンとのコラボ(『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』)でもそうでしたが、女性や子供が苦手だったりする描写がたまに出てくるから、「五ェ門かわいいね」とか「おいしいとこ持っていくよね」みたいな部分があって(笑)。
──少し“不思議ちゃん”なところもありますよね(笑)。
そうそう、車でみんなで逃げるときも、ひとり、あぐらをかいてたりとか(笑)。飛行機を斬っちゃったり、月を斬っちゃったりとか、なんかちょっとぶっ飛んでる部分があったと思うんですよね。でも今回はそういうのが一切なく、リアルな感じなので。さっきも言ったように、今回のようなストイックさがあるからこそ、これまでの五ェ門も映えるのかなって思いました。
──初代の大塚周夫さん、二代目の井上真樹夫さんに続いて、三代目として石川五ェ門を演じられている浪川さんにとって、今作のリアルでストイックな五ェ門を演じられたことの意味というのは…。
とても大きいです。僕が五ェ門を演じさせてもらうときって、やっぱりレジェンドたちを追いかけるほうが強いんですよね。モノマネというか、「みんなが望んでいる五ェ門を、いかに演じきれるか」っていうところに90%ぐらい注力するんです。
──でも今回は、みなさんが演じてきた五ェ門よりも若いという設定ですから、追いかける五ェ門像がなかったということですよね。
だから今回の作品で、自分の色じゃないですけど、「五ェ門と一緒に歩める」みたいなところが増えたのは……もちろん、先輩方が演じられてきた五ェ門を尊敬しながら、そこにつながるように気をつけて演じてはいますが、肩の荷が多少はおりた気がします。
──なるほど。役を継ぐというのは、本当に大変なことなんですね。
声優交代ってよく話題になりますけど、受け継ぐほうはめちゃめちゃプレッシャーがありますから(笑)。やっぱり……先代を抜けないんですよ。先代のほうが絶対にいいんです。だからこそ、悔しい思いもしますし、申し訳ない気持ちもありますし。ただ、やるからには精一杯やらせていただきますが、今回みたいに“誰も演じたことのない五ェ門”を演じさせていただけたのは、すごく心強かったです。
五ェ門にとっての“刀”は、声優にとっての“声”
──今後の五ェ門へと覚醒する姿が今作では描かれていますが、演じるうえで難しかった点はありましたか?
覚醒する瞬間っていうのは本当に一瞬なので、お芝居というよりも、息づかいみたいなものには気を遣いましたけど、覚醒後のほうが難しかったです。たとえば少年アニメだと、覚醒したら「倒せる! いくぜ!」みたいな感じですが、今回はまるで悟りを開いたかのように……やりすぎないっていうのは、何十回も挑戦させてもらいました。
──「やりすぎない」というのは、具体的にどんなイメージなんでしょうか?
覚醒したから強くなって、調子に乗っちゃうっていうのもイヤですし、だからと言って、「負ける気がしない」みたいな圧倒的な支配感とも違う。五ェ門もやっぱり人間なんで、そのあたりの感情が繊細だと思うんです。五ェ門って、調子に乗るようなタイプじゃないっていうのはわかりますけど、「あ、覚醒したんだな」っていうのを伝えたいなあと。最後のセリフもそうですが、非常にこだわった部分ではありました。
──浪川さんご自身は、自信をなくして剣が抜けなくなった五ェ門のように、演じることが怖くなったり、声優として挫折した経験などはありますか?
いやもう僕、挫折しかなかったんで(笑)。30歳までサラリーマンをやりながら、声優もやっていたっていうのもそうですし……。20代のときに自分の声が嫌いで嫌いで、自分で潰して、こういう声になったんです。
──自分で声を潰すというのは、かなり勇気のいることですよね。
この声じゃなかったら、たぶん五ェ門にも出会ってなかったと思いますけど……毎朝やっぱり怖いですよ。「声が出るかな?」とか思ってしまうと。使いすぎて声が出なかったり、風邪をひいて声が出ないときの無力さたるや、それこそ「どうやったら覚醒するんだろう?」みたいな(笑)。
──まさに五ェ門の刀ですね。
そうですね。五ェ門の刀は、声優にとっては声なので。そういうときはまあ、寝て回復を待つしかないんですけど(笑)。みんなのスケジュールが合うのはその日しかないので、それを自分のせいで飛ばすっていうのは、声優にとっては致命的ですから……。これから声優を目指す人にはぜひ言いたいんですけど(笑)、身体が強いほうがいいですよ。風邪なんかひいてる場合じゃない。
──体調管理が第一ということですね。
プロってそういうことだと思います。五ェ門も刀に関してのプロだと思うので、抜けなくなるっていうのは、抜く怖さを知ってる、ダメになった怖さを知ってるんでしょうね。それと一緒で僕ら声優も、体調管理ができなくてダメになったときの怖さを知っているから、声を出すのが怖いっていう……、「スタジオに行きたくない」って思うときもあります。だから、五ェ門の気持ちはすごくわかります。刀と声帯は似たようなもので、繊細なんですよね。