波に乗り切れないチームの起爆剤として期待がかかる西武の森友哉

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◆ 「白球つれづれ」〜第10回・森友哉

 オールスターのファン投票が始まった。ここで思い出されるのが昨年の同投票だ。並みいるスーパースターを従えて最多得票を獲得したのは西武の森友哉

53万6267票の圧倒的な数字とともに10代選手のトップ当選は史上初の快挙だった。

 さて、この怪物君が今季は予想外に苦しんでいる。開幕のオリックス戦からスタメンを外れ、自慢のバットは湿ったままでついにはファーム落ち。本来ならクリーンアップを打ってもおかしくない若き主砲の歯車はどこで狂っていったのだろうか?

 心の部分をある球団関係者は指摘する。

 「去年の秋季キャンプの時点から捕手のポジションを絶対に獲る、という気概を感じない上に外野手としてハードな練習をするわけでもない。指名打者を含め試合に出られればどこでもいいという感じで必死さが見えて来ない」

◆ 守備位置という問題

 大阪桐蔭高時代は強肩強打の捕手として甲子園を沸かせてきた。ドラフト1位で西武入団後も1年目から3試合連続本塁打を記録するなど大器の片鱗をのぞかせると昨年は主に外野手、指名打者としてほぼ全試合に出場して打率.285、打点83で本塁打は17本と高卒2年目としては清原和博、松井秀喜に匹敵する成績。いつしか周囲からは「天才打者」の声も聞かれるようになった。

 バッターとしてその才能は折り紙付きだが入団以来、問題となるのが守備位置だ。本人も球団も長く慣れ親しんできた捕手での定位置確保を希望しているが何せ正捕手・炭谷銀仁朗の壁は分厚い。打撃はそれほどでもないが好リードと強肩は侍ジャパンの常連だ。加えて投手陣と長年培ってきた信頼は森がおいそれと手に入れるレベルではない。数年前、FA権を取得した炭谷に熱視線を送ったのは中日と巨人。ともに谷繁元信現監督、阿部慎之助とレギュラー捕手に衰えが見えてきて補強に血眼になったが炭谷の出した結論は残留だった。

 それなら打撃に磨きをかけて、昨年同様に指名打者を中心に活躍の場を確保したいところだがオープン戦から低調に苦しんだ。

◆ もう1つの壁

 技術の部分は嶋打撃コーチが分析する。

 「悪い時はかかとの部分に体重がかかってしまうため、特に外角は届きにくくなるし手打ちになってしまっていた」素質の高いスター候補生であれば他球団はデータを洗い出し、弱点を徹底的に突いてくる。厳しく内角を攻められるうちに打撃フォームまで崩していったわけだ。森の最大のセールスポイントは1メートル68センチの小柄な体をモノともせずに力強いスウィングから広角に放たれるパワフルな打球にある。だが、小兵な分だけ外角に対しては踏み込んでいかないと届かない。ここでももう一つの壁にぶち当たった。

 今季の西武はリーグ屈指の強打線を誇りながら、目下のところチーム成績は振るわない。投手陣の弱さとともに指摘されるのは下位打線の弱さだ。秋山、栗山、メヒア、中村、浅村と続く上位打線の破壊力は首位のソフトバンク打線すら凌駕するものの6番以降は頼りない。ここに森が帰ってくれば、と誰もが思う。

◆ 真価を問われる時

 待望の一軍復帰は、交流戦最初のカードとなるDeNA戦(西武プリンスドーム)か、2カード目の阪神戦(甲子園)になると見られている。約1カ月に及ぶファームでの成績(5月30日現在)は打率が3割を超え、6本塁打、21打点と輝きを取り戻しつつある。

 今でもオールスターファン投票のパ・リーグ指名打者部門には森の名前がノミネートされている。1年前の熱狂はなくても天才・森に真価の問われる時がやってきた。大きな壁を自らのバットで打ち破ったとき真のスーパースターに生まれ変われるはずである。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)