日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

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「シェアリング・エコノミー」のもう一方の雄、Uberについて日本で誤解が多いことはAirbnb同様だが、こちらはむしろ過大評価気味だ。その理由は、株式未公開ながら時価総額4兆円超という投資家からの高い評価にあると思われる。

しかしこの投資家からの高評価はあくまで海外におけるインパクトに対するものであって、日本でのUberのサービスが多大なインパクトをもたらすとは言い難い。もしくはUberが狙う将来の姿に対する期待が大きいのであって、現在のサービスはその一部に過ぎない。その理由を以下に述べよう。

Uberのサービス内容については色んな記事やレポートで紹介されているので、詳細は省く。端的に言うと、「ハイヤーの配車」(Uber Black)と「個人ドライバーの配車」(UberX)の2つが今の中核サービスだ。スマホアプリが使いやすく、実に便利で安心、どの国でも高評価である。そのため急速にタクシー業界のシェアを浸食しており、進出先で大きな軋轢を生んでいることもよく知られている。

しかし冷静にみると、その高評価と急速な普及は、世界のタクシー業界のサービス品質が低いことの裏返しなのだ。

世界の大都市では、タクシーは「(空港以外では)なかなか捉まらない」「言葉が通じない」「態度が横柄で不親切」などと散々であり、時には「わざと遠回りして料金を稼ぐ」「途中で法外な料金をふんだくる」といった悪質な「雲助」が存在することも事実だ。

こうした実情に対し、スマホ利用者であれば「呼べばすぐ来る」「どんなドライバーが来るか、いつ頃到着するか、事前に分かる」「支払いはキャッシュレス」「領収書はメールで届く(無くさない)」「ドライバーを評価できる」というUberは、実に利用者視点のサービスだ。

特に欧米先進国からの海外旅行者にとっては現地の言葉を話せなくとも、使い慣れたUberのアプリで目的地を指定すれば誤解なく伝わるのはとても有難い。こうした要素もあり、Uberは世界各地で人気爆発中だ。ドライバーの側から云っても、現金を扱わなくて済むのは、手間とミスを解消するメリットもあるが、それ以上に、強盗に襲われるリスクを減らせることが有難がられている。

では日本でも人気沸騰中かというと、そうでもない。現在Uberが日本で提供できているのはプロのドライバーによる“Uber Black”というハイヤー配車サービスだけで、価格的には既存タクシーよりも少し高く設定されていることがその主要因だろう。

世界各国で人気を博すと同時に物議を醸している、白タクを中心とする個人ドライバーと利用者をつなげる“UberX”ならば、既存タクシーよりも安い料金を提示できよう。その場合はずっと人気が出るだろうが、海外と同じ仕様(二種免許の非保有者がドライバーでもOK)では「白タクという違法行為を誘発している」ということで国交省からサービス中止を求められることも間違いない。

日本市場でそれを避けるためには、二種免許保有者を保有する個人タクシー事業者を中心に加盟ドライバーを募集するしかなかろう。しかし個人タクシーの事業者というのは法人タクシー等の運転経験が10年以上あることが要件なので、高齢化が進んでおり、Uberのようなハイテクものに対する毛嫌いも少なからずあろう。多分、日本でのUberXの立ち上げは容易でないと想定できる。

この制約を前提に考えると、“Uber Black”と白タク要素抜きの“UberXもどき”だけでは、日本市場でのインパクトはそれほど大きくないと言わざるを得ない。

何となれば結局、日本の都会ではタクシーはかなり捉まえやすく、世界水準から云えば圧倒的に均一で高品質なサービスだからだ。つまり元々日本でのタクシーに関しては、料金が高いこと以外は特に大きな不満点はないのだ。

しかも一部のタクシー会社はスマホによる配車アプリを既に配布しており、Uberに近いサービスレベルを実現できつつある。現在、日本の既存タクシー業界も再編が進む過程で、サービスレベルやシステム構築力に問題のあった中堅・中小会社が淘汰されつつあり、結果として全体のサービスレベルは底上げされつつある。

既に日本でリリースされているUber Black(ハイヤー会社から派遣されたドライバーと車を利用)のサービスレベルが高いことは事実だが、既存のタクシー利用者がこぞってUberへの利用切り替えをする事態には至っていないし、今後もそうはなりそうもないというのが小生の見立てである。

ここからは少し別の、今後の新サービス展開の話をしよう。一つには先に触れたUberXだ。実は、米国のみで展開している競合のLyft社が始めたpeer-to-peerサービスのパクリなのだが、世界展開しているUberのほうが圧倒的に認知度が高い。

既に述べたように、(世界市場と違って)日本では白タクが公に認められるだけの社会的環境にはないし、日本の利用者も「素人ドライバーが小遣い稼ぎのため、週に数日だけ街中を走らせる」と知ったら敬遠する可能性は高い。しかしそれは他の選択肢が豊富にある都会での話だ。

タクシー会社が周辺数十キロ四方に存在しない地域は日本にゴマンとある。そうした地域で、従来は自らもしくは家族がクルマを運転していた人たちの高齢化が急速に進んでおり、運転も危なっかしくなっている。かといって公共交通機関であるバスの増便は現実的ではない。

こうした地域で特区申請してもらい、自家用車を所有していて少々時間のある人と利用者をつなげるサービスがあれば、地域維持のために十分な社会的意義がある。その際には事情を汲んだ自動車損害保険が適用されている必要があり、それには相当な実績や規模を持つ会社が仲介主体となることが望ましい。

つまりUberXは都会でなく田舎でこそ社会的に受け入れられる素地があるのだ。もちろんこれにUber Japanの経営者が乗るかどうかは分からないが、日本政府に恩が売れることは間違いなく、彼らの事業展開の突破口の一つにはなるだろう。

さらにUber社は米国市場を中心に、既に幾つかの新しい取り組みも始めており、これらは日本を含む他国市場での将来の展開の可能性を持つ。例えばUberPOOLという乗り合いサービスだ。Uber BlackもしくはUberXと違って、同じ方向に向かう利用客を途中経路で拾っていく。当然、余計に時間が掛かるが、圧倒的に料金が安い。

実はこれもLyft社のLyft Lineとほぼ同じ(両社のリリースには数時間の差しかなかったらしいので、パクリではないだろう)で、San Francisco市(SF)での評判はLyft Lineが上回るが、そのアイディアの果実の大半は世界展開できるUberが刈り取っていくことになるだろう。

だがUberに出資している投資家たちが見ている可能性は、こうした公共交通網の補完となることだけではない。Uber社が今、SFを含む世界各地で始めたりテストを続けたりしている様々なデリバリーサービスは近いうちに世界各地で実施に移されていくはずだ。例えば食事を宅配するUberEats、荷物を宅配するUberRushといったものだ。

いずれもUber社自身は車もドライバーも所有せずに、デリバリーの注文が発生したときにオンデマンドで適切な位置にいるドライバーをつなげばいいのだから、資本効率は抜群によい。当然、ドライバーに二種免許は不要だ。これが世界各地で展開された日には、ヤマト運輸やUPSも等閑視していられないだろう。

さらにUberは無人運転技術へのR&D投資も進めている。名だたる自動車メーカーをさし置いて、Googleが無人運転のテストをカリフォルニア州やテキサス州で進めていることは多くの人に知られている。実はUberもPittsburgh市に自動運転の研究所を立ち上げ、Googleの技術者を積極的に雇い、Arizona大学のキャンパスで無人運転試験走行を進めようとしている。もしかすると自動運転タクシーの実現に掛ける意欲と(出遅れに対する)危機感は、Uberが世界一かも知れないのだ。

ところで小生は先日、「シェアリング・エコノミー」の代表例の一つ、Airbnbに関する日本での展開について辛口の批評をしたばかりだ。

オーナーが同居しない空き部屋シェアリングは規制強化せよ

誤解して欲しくないのだが、小生は真に社会的に必要な規制以外は廃止すべきと考えている。そしてAirbnbが本来推進しようとする民泊の精神自体はむしろ称賛すべきものであり、(記事の中で述べているように)「ホストが同居するタイプの部屋貸しは補助金を出してでも促進」すべきと考えている。