陰謀論やコアな論客にうんざりしています

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いまやツイッターのフォロワー数29万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。

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お悩みファイル13■陰謀論やコアな論客にうんざり
ツイッターで流れてくる政治的ツイートがうっとうしいです。街頭演説や一部のニュースも同じです。そういう発言は、たいてい「悪者がいる!」「裏ではこんな陰謀が!」というようにこちらの怒りを誘って過激な思考の仲間入りをさせようとするものばかりのように感じます。しかし政治問題に無関心ではいられないのも事実です。政治的発言と上手につきあうにはどうすればいいのでしょうか。(男性・公務員・28歳)

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政治的な発言の多くは、リアリティや信念をもって発言しているというより、ある種のプレーに近いところもあると思います。政治的な陰謀論が一定の注目を浴びるのは、「このことの裏に何か大きな意図が働いている」という話ってわくわくするんですよね。政治でもなんでも、複雑でわかりにくいことに直面すると人間の頭はやっぱりしんどいんだと思います。

秘密結社が黒幕にいるとか宇宙人の陰謀だとか(宇宙人はさすがにないか)を登場させると、そういう複雑なものが10秒くらいでシンプルに説明できます。実際、政治的な問題を本気で考えるのはしんどいことです。人生には他に大変なことがありすぎて、せめて政治の問題ぐらいはすっきりさせたいという面もありますよね。陰謀論にはそういう「ガス抜き」の側面があるんじゃないか、くらいに考えてみてはどうでしょう。

とはいえ、自分の身近な人、たとえば上司やわりと近い友人など、ある特殊な政治的思想を持っている場合は、なかなかしんどいものです。大人になると周囲にひとりやふたりはいるものですが。最悪な選択は、こういう人たちを説得しようと試みることでしょう。僕も試みたことはありますが、説得どころか議論もできないことがほとんどでした。相手が自分の政治信条に同意や同調を求めてくると本当に苦しいですね。そこに「この水を飲まないと健康に悪いですよ」とか言ってくるお節介な親戚や隣人のように「あなたがまだ知らない本当にことを教えてあげましょう」というある種の「善意」のようなものがあると余計に厄介です。僕はそういうときは深追いしないで極力逃げることにしています。

ただ、健康になる水であれ、特定の政治的信念であれ、人がそれを信じずにはいられなかった心理的背景というものもあると思います。ある陰謀論を信じている人がいたとしましょう。もしかするとその人にとってはその真偽が検証されることよりも、その世界観を信じることのほうが重要なのかもしれません。なぜなら、そのほうが単純明快で、世界をスッキリと把握できるからです。

実際の生活には、白黒つけられないことがたくさんあります。何が真実かを追求するよりも世の中に起こる悪しきことはすべて何かの陰謀ということにしておくほうが楽ですよね。そうやって誰かのせいにしないと自分が保てないところまで追いつめられている人は、陰謀論でなくても、何かしら依存できるものが目の前にあったらそれにすがるのではないでしょうか。負のエネルギーを発散するために何かしら必要なのでしょう。

政治的な話に関しては、「知らないやつがしゃべるな!」という態度の人もいますね。たとえば安保法案について自分の考えを整理しようと思ってちょっとネットに書き込んだりすると、「こいつは何もわかってない」とか「信じがたい発言」みたいなことを言われたりする。その件に関しては、新日本プロレスをV字回復させたブシロードの木谷高明社長が、「すべてのジャンルはマニアが潰す」という名言を述べておられます。僕がツイッター上で発言しちゃいけないことのトップ5って自分のなかであるんですが(もちろんここには書きません)、共通しているのはマニアというか、コアな人たちが仕切っている分野であるということです。

コアではなくライトな人、新参者の素朴な感想が素晴らしいという寛容さを持っているジャンルは栄えて市場が広がっていく。でもそれがまたマニア化していくとより知識が豊富で思いが強い豊富な人たちによる排他性が強くなってきて、ヒエラルキー化し、階層の下のほうの人たちが排除されていって、結局コアだけが残る。この人たちの高齢化とともにジャンルが衰退していくっていうのがずっと繰り返されてきたことじゃないかと思います。

スポーツでも一部はそういう世界で、たとえばカープが全国区で人気が出たり、ラグビーのワールドカップで日本代表が活躍したりすると、ファンが一気に増えますが、そうすると従来からのファンが新しいファンを「にわか」呼ばわりする現象があります。でも「にわか」の一部が次世代のコアファンになる。だから「にわか」を排除すると新人が入ってこない会社みたいになってしまいます。

ときに過激に偏りがちな政治的な発言とうまくつきあうにはどうしたらいいか、という問いに話を戻すと、そういう発言はある人には単なるプレーやガス抜きだったり、またある人には依存の対象だったりして、それほどリアリティのあるものではないと思って受け流すしかないのではないでしょうか。そして、無理に同調をせまられたり、絡まれたりしたら逃げる、ということですね。スッキリした答えにならなくてすみません。

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為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。http://tamesue.jp

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(答える人=為末大 撮影=鈴木愛子)