なぜCSSのカラー名には「トマト」「レモン・シフォン」のような名前がつけられているのか?
by Ben Watkin
「ミント・クリーム」「ピーチ・パフ」「ナバホ・ホワイト」など、ウェブカラーには分かるような分からないような抽象的な名前が付けられています。CSSカラーモジュールでは141種類の「色」が標準化されていますが、一体誰が何のために「ドジャーブルー」のような分かりづらい名前をつけたのか、Ars Technicaが秘密に迫っています。
“Tomato” versus “#FF6347”-the tragicomic history of CSS color names | Ars Technica
CSSカラーモジュール・レベル4では141種類の「色」が標準化されており、「色名」というセクションではそれぞれの名前・RGBカラーコード・16進数カラーコードが示されています。
リストに並ぶ色名を見ていて目に付くのは、通常の色見本のように「白」「黒」といった名前ではなく、パステル調のオレンジには「パパイア・ホイップ」、淡い黄色には「レモン・シフォン」といったように抽象的な名前が付けられている点。ともすると妙なロマン主義かぶれにも見える色名なのですが、なぜ色にこのような名前が付けられたのか、その歴史は1980年代にまでさかのぼります。
ウェブカラーの基礎が作られたのは1984年。マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発したX Window System(X11)でGUIがリリースされたのがきっかけで、続く1986年にリリースされたX10R3にはGUIカラーのリストが実装されていました。なお、この時のリストは「dark red」と「DarkRed」のように、2種類の表記を使った69個の色名が記されていたとのこと。
現在使われている「色名」が本格的に世に登場したのは1989年にX11R4がリリースされた時。当時はどのマシンを使うかによって色の見え方が全く違っていたため、「『小麦色』が全然小麦色じゃない」ということも。そこで、ユーザーたちからの「色の正確性をなんとかして欲しい」という声に答えるため、X11R4ではユーザー環境によって大きな差異を生み出さないような柔らかみのある中間色が多く追加され、「パパイア・ホイップ」「レモン・シフォン」「ピーチ・パフ」のようなやや抽象的な名前がつけられたわけです。
X11R4のカラーデータを作り出したポール・レイベリング氏は、それらの色名を今は存在しない塗装会社「Sinclair Paints」から借用していました。ただし、許可を取らずに勝手に名前を借りていたため、後に行った米国国家規格協会への申請は却下され、最終的にレイベリング氏は自分が使用していたヒューレット・パッカードのモニター上で勝手に自分で名付けた色名を使い出したと言われています。
その後、プログラマーのジョン・C・トマス氏によって、X Window Systemにはさらに明るい色が実装されることに。レイベリング氏は「ユーザー環境の違いによって混乱を起こさない」よう尽力したわけですが、トマス氏は同僚から「RGB色名データベースのデフォルトカラーにはぞっとするよ。特にピンクなんて、数時間吐いた人か自殺した人の顔色みたいじゃないか」という意見を聞き、ディスプレイによって見え方が異なる色名を標準化することが、無意味だと考え始めていました。
by Rafale Tovar
そんな時、トマス氏の手元にあったのはCrayola crayonという72色のクレヨンのセット。考えた末、彼はクレヨンに付けられたいた「アクアマリン」「オーキッド」などの名前をそのまま採用したわけです。
2000年代に入り、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)はCSS 3 カラーモジュールの草稿を発表しましたが、この中にレベリング氏やトマス氏が作成したカラーリストが含まれていました。W3Cはワールド・ワイド・ウェブ上の技術の標準化を目的としているため、偶発的に生まれたにも関わらず、X11の色名称はCSSに組み入れられるようになります。
しかし、数多くのプログラマーの目にさらされたため、X11の色名称は「グレーがダークグレーよりも暗い」「ミディアム・バイオレット・レッドはあるのに基準となるバイオレット・レッドがない」など、批判的なプログラマーたちの攻撃の的となってしまいます。2002年には「X11の色名称は素晴らしいCSSのデザイン要素に汚点を残す、この世から消し去るべきいまいましい存在だ。X11の色名称が『デザインされた』と言うことは『デザイン』という言葉に対する侮辱だ。あれはただのゴミだ」と意見するプログラマーが出てきたほどでした。
また、ドジャーブルーやナバホホワイト、インディアンレッドと地域名を使った色名に怒りを抱く人も。ネイティブでないプログラマーは「『ゲインズボロ』や『パパイヤ・ホイップ』という名前を見た時の私のリアクションを想像してみてください」と語っており、色名が特定の文化圏の人にしか分からないのも問題となりました。
しかし、実際のところ、X11の色名称は16進数のカラーコードやRGBカラーコードで表すことが可能。これら2種の方法は図式的・客観的であり、地域性を含んでいないグローバルなシステムなので、本来であれば色名が気に入らないのであれば、コードを使用すればいいだけの話なのです。
マサチューセッツ工科大学の生徒としてX Window System開発に関わったジム・Fファルトン氏は「大抵の人は数字を使うのを嫌がるだろう、というのが私の考えでした。人は『F5B』という文字を特定の色と結びつけないだろうと思い、もっと自然な名前を使うことにしたのです」「でも全てのアイデアがうまく機能するとは限りません」と語りました。