財源めぐる「世代間闘争」に拍車がかかりそうだ

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十分な蓄えがないまま老後を迎え、貧困状態に転落するリスクが相次いで指摘されるなか、週刊誌の記事が安倍政権による「老人いじめ」を訴えている。

政府は歳入と歳出の差を示す「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)を2020年度には黒字転換させることを目指しており、増加を続ける社会保障費にもメスが入ろうとしている。この週刊誌は読者の3分の2以上が50歳以上だとみられ、今後はメディア間でも「世代間闘争」が起こる可能性もある。

年におよそ1兆円の増加を5000億に圧縮求める

高齢化にともなって社会保障費は年におよそ1兆円のペースで増加すると考えられている。厚生労働省の12年の推計では、12年度に109.5兆円だった社会保障全体の給付費総額は20年度には12年度比で23%増の134.4兆円に、25年度には同36%増の148.9兆円にまで膨らむ見通しだ。

当然、財務省は増加幅を抑えようと躍起で、15年4月末に示した「医療・介護に関する制度改革・効率化の具体案」では、年に5000億程度に抑えるように求めている。一例として、訪問介護の生活援助の利用件数の半分以上が「要介護1」の人によるものだとして、負担割合を増やすように求めている。後発(ジェネリック)医薬品の使用割合も引き上げるように求めている。

これとは別に、15年8月の介護保険制度の改正では、1割負担だったサービス費用が、所得の額によっては2割に引き上げられる。

6月30日発売の週刊朝日7月10日号の記事では、こういった動きを4ページにわたって激しく批判。「アベ骨太の方針で見えてきた『老人いじめ』5年間で2.5兆円カット」という見出しで、記事冒頭では、

「軍備増強に余念がない安倍政権。米国から新型輸送機オスプレイを総額3600億円で買うくせに、年間5000億円の社会保障費をカットする。『骨太の方針』から高襟者いじめの全貌が見えてきた」

と訴える。

週刊朝日の40代以下の読者の割合は3分の1強

14年9月にはNHKスペシャル「老人漂流社会『老後破産』の現実」が放送され、大きな反響を呼んだ。15年5月に出版された「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」 (朝日新書)では、「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」を「下流老人」と定義し、普通にサラリーマンとして暮らしていた人でも老後には「下流老人」に転落するリスクが格段に高くなることを警告している。こういった中、社会保障費のカットは「下流老人」の増加に拍車をかけることは間違いない。

ただ、財源の配分は「世代間闘争」に近い面も帯びつつある。15年5月には2.5%引き下げられた年金減額の措置を違憲だとして、全国の年金受給者が国の決定取り消しを求めた訴訟を起こした。この訴訟では、原告の受給者から「年寄りは死ねと言うのか」といった声があがった。その一方で、訴訟をしった人からは「若者に死ねっていうんだな」といった反発の声もあがったのは記憶に新しい。

こういった「老人いじめ」論は、これまでも共産党や日刊ゲンダイがしばしば展開してきたが、

「医療費ただだと思ってるぞ」
「どうみても現役世代イジメだろ」

といった反発も出ている。今回の「老人いじめ」の主張にも若い世代からの反発は強まるとみられる。

週刊朝日は読者の4割近くが60歳以上だとみられ、50代も4分の1程度を占める。逆に言えば、40代以下の読者の割合は3分の1強に過ぎない。「老人いじめ」を訴える背景には読者の年齢層が影響しているとの見方もできる。