自販機稼働台数は、飲料市場の厳しい競争に影響

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売りに出されていた日本たばこ産業(JT)の飲料自動販売機の運営事業などをサントリー食品インターナショナルが買収することになった。缶コーヒー「Roots(ルーツ)」、清涼飲料水「桃の天然水」の2ブランドも併せて取得する。2015年5月25日、両社が発表した。

取得額は約1500億円。サントリーの自販機稼働台数は、首位の日本コカ・コーラグループに肉薄する。

自販機の販売数量は飲料全体の3割

飲料総研などの調べでは、国内の飲料自販機の稼働台数は約250万台あり、設置が一巡して新たな好立地の確保が難しくなっている。この中で、日本コカ・コーラが83万台でトップ、2位サントリー食品は49万台、以下、アサヒ飲料27万5000台、ダイドー26万台、キリンビバレッジ21万台などとなっている。サントリー食品は約18万台とされるJTを加えると67万台になり、コカ・コーラとの差を大きく詰めることができる。

自販機の販売数量は飲料全体の3割を占め、店頭販売より少ないとはいえ、販売価格は比較的安定していて利益率が高い。特に、JTの自販機の立地の良さには定評がある。サントリー食品の小郷三朗副社長は25日の記者会見で、JTについて「我々が獲得できない、業界でも屈指の優良立地の自販機を抱えている」と語った。1998年に自販機を運営する旧ユニマットコーポレーション(現ジャパンビバレッジ)を約290億円で買収するなどの成果で、JTの自販機は定期的な利用が見込めるオフィスビル内などに多い点が大きな魅力だ。

今後のIT(情報技術)の活用をにらんでの買収という側面も指摘される。付加価値の高い商品を消費者にいかに提供できるかが重要性を増すのはもちろんだが、そこでは自販機を通じたデータ収集も大きなポイントになるとされる。この点でも、サントリー食品は、自販機運営の効率化、機材の共同調達などとともに、自販機の一定以上の規模を確保しておくことは不可欠と判断したと見られている。

「ルーツ」などの飲料ブランドについても、サントリー食品は「コアなファンがいる」(鳥井信宏社長)と評価。清涼飲料の販売で「2020年の東京五輪までに1位になる」(同)との目標を掲げ、その重要な戦力と位置付けている。

「高値づかみにならないか」との声も

ただ、JT自販機事業買収にはアサヒ飲料、キリンビバレッジも手を挙げ、激しい争奪戦を繰り広げた結果、買収額は対象のJT2子会社の年商合計1600億円に匹敵する規模に膨らみ、「高値づかみにならないか」との声が業界内では聞かれる。「ライバルに奪われるマイナスと天秤にかけて決断した防衛的買収」(全国紙経済部デスク)との指摘もある。もちろん、買収できなかった他社は、それ以上にいばらの道が待ち構えるのは言うまでもない。

一方のJTは、飲料市場の厳しい競争環境の中では生き残りが難しいと判断したものだ。民営化から3年後の1988年に飲料事業に進出。たばこ自販機の設置ノウハウと、たばこで培った味や香料の技術を生かし、多角化を進めるのが目的だったが、「飲料市場は成熟しており、(各社の)事業規模が優劣を決める状況。商品サイクルも短く、当社にとって厳しい事業環境だった」(2月、大久保憲朗副社長)と語るように、収益の確保に苦しんできた。グループの売り上げに占める飲料事業の割合は1割に満たず、「将来性が見込めない」として今年2月に事業撤退を表明していた。

今回の売却で、JTは不振事業を切り離せる上に、1500億円が入ることで、主力事業への重点投資が可能になる。「たばこ事業に加え、加工食品、医薬事業に積極的に取り組んでいく」(大久保副社長)と語るのも、あながち強がりではなさそうだ。