海の奥深くは光合成に必要な太陽が届かないため、表層とは環境や生態系が異なっており、水圧・低水温・暗黒・低酸素状態などの過酷な環境条件に適応するため、生物は独自の進化を遂げています。大深度潜水が可能な有人や無人の潜水艇や探査船を保有する国や団体は少ないため、人類にとって解明されていない部分が多くあります。そんな環境を探索するために運用されていたWHOI(ウッズホール海洋研究所)によって建造されたロボット潜水艦「ネーレウス」が潜水中に大破してしまいました。

BBC News - Nereus deep sea sub 'implodes' 10km-down

http://www.bbc.com/news/science-environment-27374326

ネーレウスはニュージーランドの北東にあるケルマデック海溝の深海1万メートル付近を探索中に巨大な水圧が機内にかかり大破したことが機体の残骸から推測されています。WHOIのティモシー・シャンク氏は「ネーレウスは地球や生命の根源である海中を調査する乗り物として、6年にわたり研究者すら分からないような未知の領域への理解を深めてくれる唯一の乗り物だった」とコメントしており、研究者達にとって大切な役割を果たしてきたネーレウスの大破は、8億円の建造費以上に痛いものだったのかもしれません。ネーレウスは自動運転と支援船を使った遠隔操作が可能で、今までの潜水艇が到達できなかった深海を探索するため多くの革新的な技術が採用されていました。機体には約2000個のリチウムイオン電池を搭載し、コントローラーと機体は髪の細さほどの光ファイバーケーブルが使用されていました。

ネーレウスは黄色い機体が特徴で、後方に光ファイバーケーブルが付けられています。



ネーレウス後方に接続されれているケーブルは髪の毛よりは太いように見えますが、かなり細いものを使っているようです。



イギリスのサウサンプトン大学の海洋学者ジョナサン・コプリー氏は「深い海を潜水艇が潜ることは常にリスクがある」と警告しています。 ジョナサン・コプリー氏は自身のブログに「現状、深海まで潜れる機材は遠隔操作で測定できるものしかないので、水中でかかる圧力を知るためにはもっと多くのサンプルを集める必要がある。研究者は1世紀以上に渡りたくさんの盲目的にサンプルを集めてきましたが、深海は環境が違うので全てのエリアにおいて今までの事例が当てはまるとは限らず、もっと詳細な条件を記録したサンプルを取るべきです」と主張しています。



By Deepwater Horizon Response

ネーレウスを失った今、WHOIは再度潜水艇を建造することになりそうですが、どのような機体になり、どの程度予算がかかるかが気になるところです。