クラブ摘発のため風営法を厳格に運用した結果、街のダンス教室まで規制の対象に。バカげた話だ

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5月27日、深夜に客を踊らせたとして風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)違反の疑いで、都心最大級のクラブ「バニティ・レストラン・トウキョウ」が摘発された。

今回のような警察によるクラブ摘発には、「風営法の乱用だ!」「ダンス規制だ!」との声もあるが、クラブには騒音や迷惑行為、また薬物取引や反社会的勢力との関わりなど犯罪の温床になっている負の側面もあるため、「その前に業界全体として襟を正せ」との意見もあるのが現状だ。

しかし、風営法に基づく「ダンス営業規制」が、街のダンス教室に通う愛好家をも悩ませていると聞くとどうだろうか。

実際、昨年5月、高知市内の公民館で行なわれる予定だった高齢者向けの社交ダンス講座が、市の要請で中止となる事態も発生。ダンス愛好家の間では、「うちの教室もいつかやられるのでは」との不安が広がっているという。

そもそも、ダンス教室は風営法第2条第1項第4号において風俗営業と規定されている。警察によれば、ここで言う「ダンス」は男女ペアで踊る形態のものを指すので、タンゴやサルサなど男女ペアの踊りをダンス教室で教えることは、法律上の解釈では「風俗営業」となる。

ただ、例外として国が認める団体の講習を受けた講師が行なうダンスレッスンは風営法の適用外とされる(高知市のケースは、講師が「無認定」だったことが問題視された)。裏を返せば、それ以外のペアダンスのレッスンは風営法が適用されるのである。しかも、この「認定団体」は事実上、社交ダンス講師専門のため、タンゴやサルサなど他ジャンルの講師はみな「無認定」というのが現状だ。

東京都港区のタンゴ教室に勤める女性はこう漏らす。

「でも、公序良俗に反するようなレッスンなんてしていません。ただ、風俗営業の届け出をしているダンス教室もないです」


つまり、クラブと同様、風営法を厳格に適用すれば、日本中のダンス教室を無許可営業で一斉摘発することもできる。この歪(いびつ)な状態を解消するため、昨年11月、風営法施行令が改正。事実上、社交ダンスに限られていた認定制を、ほかのダンスでも認めることとなった。

これによりタンゴやサルサといったダンスも、ようやく風営法の呪縛から逃れられる道筋ができたわけだが……。ダンス愛好家の中からは、この流れにも疑問を投げかける声が聞えてくる。

例えば、タンゴ業界。認定団体設立に反対する愛好家の代理人を務める杉田育子弁護士はこう語る。

「元来、アルゼンチンタンゴは決められた型があるわけではなく、本場アルゼンチンでも、教授方法の資格制度は存在しない。にもかかわらず、認定団体で講習を受けた講師しか正式に教えてはいけないとなると、タンゴ本来の姿からかけ離れてしまう。また、国が内容に関与して審査すれば、ダンスをするという表現の自由との関係でも問題となり得る」

昨年末、警察庁が保安課長名で各都道府県の警察本部長に通達した「解釈」によると、タンゴなどペアダンスは「行われ方いかんによっては、享楽的雰囲気が過度にわたり、善良の風俗と清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある」としているが……。

「そんな不明確な基準のもと、漠然と摘発を恐れて認定団体を設立すれば、自らタンゴが風営法上問題となり得ることを認めることになりかねない」(杉田弁護士)

東京都内のタンゴ教室を経営する男性も認定制には懐疑的だ。

「無形文化遺産にも登録されているアルゼンチンタンゴを教えるのに、なぜ国の許可が必要なのか? アルゼンチン人の友人も、『どうしてこんな話になるのか、理解できない!』と嘆いています」

理解できないのは日本人のわれわれも同じ。街のダンス教室で普通に踊りを教えちゃダメなんて……いったい、どうなってるの?

(取材・文/コバタカヒト)