野田政権の早期解散を迫る自民党・安倍晋三総裁が11月1日、今年度予算の執行に必要な特例公債法案については、衆院の解散を先送りしてでも成立を容認する「太陽政策」に転じた。なぜ、安倍総裁は特例公債法案審議を盾に解散を迫らないのだろうか。

そこには、世論の批判を避けるといった意図のほかに、自民党の懐事情も関係していた。自民党本部の幹部職員がこう語る。

「理由はふたつあります。ひとつ目は、自民党にいる約200人もの落選中議員の存在。彼らは一日も早い選挙を待ち望んでいる。安倍さんへの突き上げはスゴイものがありますよ。ふたつ目は自民党の台所事情。ウチは数十億円の借金があるんです。だから一刻も早く選挙をして当選議員数を増やし、多額の政党交付金を得たいのです」

そんな自民党の厳しい事情を突くべく、民主党の輿石幹事長は、「国会のせいで特例公債法案が通らず、地方自治体など多方面にご迷惑をかけているのだから、われわれ国政政党は政党交付金の申請を控えるべきだ」と発言した。

政党交付金は自動的に交付される仕組みではなく、4月、7月、10月、12月の年4回、政党が申請しないと支給されないというシステムなのだ。民主党は10月分の政党交付金の申請を見送ったが、自民党は耐えきれずに申請してしまった。それでいて、もし臨時国会で特例公債法案に反対すれば、自民党は批判を免れないだろう。

元自民党の大物議員は嘆く。

「民主党本部が、1、2回生議員たちに300万円ずつ配ったでしょう。あれに自民党はコローッとダマされちゃった。やっと野田政権が本気で解散モードに入ってくれたと勘違いした。確かにあのお金は選挙準備用という意味もあるが、選挙に不安な若手議員を離党させないためという目的が大きい。選挙資金名目のお金を受け取っておきながら離党はしづらいからな」

さらに、そこには自民党をより追い込むための策もあった。

「自民党をダマして勇み足で選挙態勢に突入させてしまい、よけいなお金を使わせようって狙いもあったと思う。そんな状況にさせられてから選挙を先延ばしにされれば、かなりキツイよな。自民党は財政的に逼迫して、重要法案に賛成せざるを得ない状況に追い込まれる。そんな戦略も見破れないほど、今の安倍執行部は甘ちゃんなんだよ。解散が延びれば延びるほど、安倍自民はみっともない姿を晒すことになり、支持率はどんどん落ちていくと思うよ。だからといって民主党が支持率を回復することもない。もしかすると失速した橋下維新が漁夫の利を得るかもしれないね」(前出・大物議員)

11月には中国の権力移行があるし、12月には韓国の大統領選もある。領土問題を抱える隣国の新指導者との関係は非常に注目度が高い。やり方次第では政権の支持率が急回復する可能性もあるだけに、やはり野田政権の年内解散はなさそうだ。