まさに晴天の霹靂(へきれき)だった。現地8月25日、レッドソックスとドジャースとの間で総勢9人の大型トレードが成立した。驚くべきは、レッドソックスが放出した選手がチームの顔ともいえる主力ばかりだったこと。過去5年間で100打点以上を4度記録した主砲のエイドリアン・ゴンザレス。07年に20勝をマークし最多賞に輝いたエースのジョシュ・ベケット。そして盗塁王4度の韋駄天カール・クロフォード。この3選手に加え、内野のユーティリティ・プレイヤーのニック・プントがドジャースへと移った。

 その一方でドジャースから移籍してきたのは、一塁手のジェームズ・ロニーと若手4選手。この4人は若手有望株の名は付くが、「超」のつく選手はいない。

 チームとしての規律を重視し、緻密な野球を目指すボビー・バレンタイン監督に対し、レッドソックスの主力たちは実績十分のプライド高き暴れ馬たちばかり。両者をたとえるなら、まさに水と油。互いに譲歩しあう姿勢を見せなければ、チーム崩壊は時間の問題と早い段階から言われていた。

 その通り、春のキャンプからいざこざは絶えなかったが、表面化したのは5月。腰の張りを訴えて登板を回避したベケットが、休日を利用してゴルフをしていたことが発覚。その際、ベケットは「休日にゴルフをして何が悪い」と居直った。

 そして6月には、バレンタインとよく衝突していたケビン・ユーキリスがホワイトソックスへ放出された。この時、交換要員がつりあわず懲罰トレードと囁かれたが、交換要員のひとりだったブレント・リリブリッジはわずか3週間で戦力外通告という摩訶不思議なトレードだった。

 ゴンザレスに関しても、10年オフに若手有望株を出してまで獲得にこだわった選手。しかし、その彼も監督批判を公然と行ない、7月末にはオーナー陣にバレンタイン監督の解任を数人の選手たちとともに直訴。しかし、これが逆に経営陣の逆鱗(げきりん)に触れることになった。

 レッドソックスの球団首脳は、厳格な企業経営者だ。オーナーのジョン・ヘンリーと球団社長のラリー・ルキーノは企業倫理に厳しい。そのふたりに対し、ゴンザレスらの選手がとった行動は、企業の規律を重んじる経営者にとっては許しがたい行為だった。彼らの価値観からしてみれば、今回の放出は当たり前のことだった。

 そしてもうひとつ、背景にあったのが人件費の削減だ。本拠地のフェンウェイ・パークは今年100周年を迎えたが、チームはこのメモリアルイヤーに世界一になるため、これまで選手を揃えてきた。今季の年俸総額は、ヤンキース、フィリーズに次ぐおよそ1億7500万ドル(約137億円)。それだけに、目標としていた世界一が絶望的となった時点でチームの解体を検討するのは、不思議なことではない。

 さらに2014年からは新たな労使協定が締結されており、年俸総額が1億8900万ドル(約145億円)を超えるとぜいたく税の課金が50%になる。これはヤンキースをはじめとしたお金持ち球団の最重要課題である。レッドソックスも、ゴンザレスは18年まで1億2700万ドル、クロフォードは17年まで1億250万ドル、ベケットは14年まで3150万ドルの契約を残していた。その時期に起こったチームの造反劇。経営陣にとっては、まさに渡りに船だった。

 バレンタイン監督に反旗を翻(ひるがえ)したつもりが、一転してトレードに出されてしまったレッドソックスの主力選手たち。米メディアが報じた「バレンタインの勝利」「選手より監督が大事」という表現はどうかと思うが、レッドソックス・ファンにとってはたまらない。どちらが正しいとかは関係なく、ただ反逆の時期が悪かったとしか言いようがない。

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