首を鶴のように曲げて、パソコンや携帯メールをしている人の姿をよく見かける。長時間そんな姿勢をしていると、やがては「クビだ!」といわれるかもしれない。もちろんそれは、上司からではなく医者に、だ。今、“パソコン病”と呼ばれる首の病気が急増中だという。
 「以前は、整形外科にやってくる人といえば、腰や膝、関節に痛みのある高齢者か、ケガをした運動選手、あるいは交通事故などで骨を損傷した人がほとんどでした。ところが、近頃は若い人も多いんです。頭痛や疲労がとれず、内科や心療内科に通院してみたものの症状が改善されないので、最後にたどりついたのが整形外科という人が増えました。診察すると、その9割は首に原因があります」
 そう話すのは、三井弘整形外科・リウマチクリニック(東京・千代田区)院長の三井弘先生だ。

 なぜ、若い人に首の病気が増えたのだろうか。原因は、やはりパソコンだ。『VDT症候群』、別名パソコン病が急増しているという。
 パソコン病とは『体の痛みの9割は首で治せる!』(三井弘著・角川SSC新書)によると、パソコンのディスプレイを長時間見続けることで首に負担がかかり、肩や背中のこり、痛み、頭痛、手のしびれ、脱力感などの症状が表れる病気だ。
 そもそも頭の重さは、成人で約5キロもある。ちなみに、成人男子の脳の重さの平均は1350グラム。それに頭蓋骨や血管等を合わせると、ボウリングの球くらいの重さになるわけだ。この重さを首はいつも支えていることになる。
 余談になるが、美人の条件は、首が細くて、長いことという。また、首が太くて短い猪首(いくび)の男は仕事ができる、という俗説もある。昔から、首は人物評価においてよくたとえられてきた。
 整形外科医からすると、首の故障の少ないのは、首がほっそりと長く、背筋から首が伸びている人だそうだ。猪首は肩や胸の筋肉が盛り上がっているため頑丈そうにみえるが、必ずしも首の故障が少ないわけではないという。
 要は、強い筋肉で首が支えられているかどうかにある。

 人間の体において、どこよりも首が大事といわれるのは、生きていく上で大切な器官が集まっているから。脳に血液を送る頸動脈、呼吸を保つ気管、食物を胃に送る食道、さまざまなホルモンを分泌する甲状腺、体を動かす全神経が集結した脊髄などがある。
 体の中で、これだけ重要な器官が集まっているところは他にはない。だから、首の具合が悪くなると、大事な役割を果たせなくなってしまうのだ。
 首が原因の病気だからといって「首が痛い」という症状ばかりではない。肩こり、目が疲れる、体がだるい、腕がしびれるなどの症状もある。医者に行っても、「不定愁訴」とよばれる原因不明の体調不良として片付けられてしまうことも多いという。