理系の研究者、劉氏はかつて日本に留学した際、面喰ったことがある。手続きをしようと大学の事務所を訪れた際、職員に「先生」と呼びかけると、日本人の同級生に「あれは、先生じゃないよ」と教えられたのだ。中国の大学では事務作業の多くも「先生」が行う。逆に、国外から戻った研究者の多くは、あまりにも繁雑(はんざつ)で大量の時間を費やさざるをえない研究や教育以外の仕事に、頭を抱えるという。チャイナネットが報じた。

 最大の問題は、柔軟性に欠ける形式主義だ。実験に必要な機材も、担当者に取り出してもらわねばならない。勤務時間を少しでも過ぎれば、どんなに急いでいても、翌日まで待つしかない。立て替え払いをした経費も、特定の日に領収書をそろえて提出せねばならない。窓口では、研究者が長蛇の列だ。1日でもすぎれば、「自腹」となってしまう。

 さらに笑うべきは、年末の報告書作成と会議出席だ。報告書は「純粋に形式上の問題。だれも、読む者などいない。しかし、作成せねばならない」という。劉氏によると、「外国に比べ、中国の科学者は、大量の時間を意味のないことに使うよう強いられている。そして、科学の発見は早いもの勝ちだ。私は、いつも、敗北者だ」という。

 大学は、実験室の光熱費を負担してくれない。それどころか、使用している研究者が大学に研究室の「賃料」を支払うことになる。政府などの「科学技術プロジェクト」のひとつとして認めてもらい、経費を捻出(ねんしゅつ)することになるが、申請の手続きには膨大な労力が必要だ。複数の「プロジェクト」に認めてもらわないと費用が足りないので、結局は学生も動員して、1年中、申請書を書き続けることになる。国家プロジェクトに申請する場合、申請書は200ページ程度だが、研究内容はうち30−40ページで、残りは予算関連の記述を延々と書きつらねることになる。

 研究者の給与の少なさも、問題だ。大学教授で年10万元(約120万円)程度。これでは、教授としてさほど見劣りしない家庭生活を維持することはできない。そのため、“灰色の副業”に手を出す者も多く、「邪道に走る者も出てくる」という。

 中国科学院電子研究所の陳潔教授によると「中国が、一流の人材に欠けるわけではない。しかし、才能の持ち主が、研究費をどう工面するか、家族をどうやって養うかということばかり考えている。これでは、一流の成果は出せない」という。(編集担当:如月隼人)



■最新記事
中国の大学、接待やめれば理論系学者1000人を養える
ノーベル賞には「100年早い」「永遠にムリ」の声18%=中国
中国人、ノーベル賞をなぜ取れぬ…答え「自分の頭脳で考えない」
日本人ノーベル賞受賞に「過去の侵略のおかげ」の見方=中国
ノーベル賞に日本人、中国で「猜疑・批判・自虐」など見方さまざま