飛び級で選出された宇佐美貴史<br>【photo by Keisuke KOITO/PHOTO KISHIMOTO】

写真拡大

 冷たい雨粒はみるみる数を増やし、ピッチのあちこちに水たまりが出来上がっていった。体感温度は10度前後くらいだろうか。
平年に比べてとりわけ低いわけではないものの、ここ数日の穏やかな陽気との落差は激しい。曇天だった午前中に比べても、肌寒さが感じられる。雨足は強まる一方で、ピッチが灰色にぼんやりと煙っていく。コンディションは悪くなる一方だ。

 それでも、選手たちの表情は生き生きとしていた。4月21日に御殿場で行われた、U−20日本代表候補トレーニングキャンプでの光景である。

 彼らの目前には、明確な目標がない。昨秋のアジアユースでベスト4進出を逃したために、今年9月から10月にかけてエジプトで開催されるU−20ワールドカップに出場できないからである。来年の南アフリカ・ワールドカップ出場は少しばかり現実味に乏しく、2012年のロンドン五輪はまだちょっと遠い。 

 U−20ワールドカップの出場を逃したことで、精神的な谷間が出来上がってしまった。

 とはいえ、「U−20ワールドカップに代わる機会を与えていかなければならない」(犬飼サッカー協会会長)のは間違いない。1月のカタール国際トーナメントに続く刺激注入の機会として設定されたのが、今回のトレーニングキャンプだった。

「モチベーションが高く、吸収力も高い。ポテンシャルを凄く感じるし、将来的に楽しみなチームになるんじゃないかと思う」

 流通経済大学との練習試合後、岡田武史監督は弾むような声で質問に答えた。個人名は明かさなかったものの、「若い選手でもこういうことができるのか、彼はこんなプレーができるんだという選手が何人かいた」とも話している。前半と後半でメンバーをほとんど入れ替え、岡田監督らの首脳陣は合宿参加メンバーをチェックした。

 合宿初日となった前夜のミーティングでは、南アフリカW杯最終予選の映像を使いながら、フル代表のコンセプトが説明されたという。そのうえで、南アフリカW杯出場を意識しながら所属クラブでプレーしてほしい、というメッセージも伝えられた。「W杯出場を目ざす」とすぐに言葉にする選手はいなかったが、誰もが楽しそう表情を浮かべ、精気がみなぎらせていた。「楽しさもあるし、刺激もあります」と話す渡部大輔(大宮)の表情には、同世代のプレーヤーとお互いを高め合える充実感がにじんでいた。

 練習試合の内容そのものは、「まあ、こんなものだろう」という感じだっただろう。即席チームゆえのコンビーネションとコミュニケーションの不足は否めなかったが、各選手のモチベーションの高さで何とかチームとして機能していた。

 それでも、時間の経過とともに流れるような連携も成立するようになっていった。「攻撃で崩しができている部分もあったし、守備でマークの受け渡しができているところもあった。全員がコンセプトを意識してやれば、短い時間でも連携が生まれてくると感じました」とは、前半のキャプテンを務めた山本康浩(磐田)である。

 話題を集めている原口元気(浦和)と宇佐美貴史(G大阪)は、興味深い化学反応を見せた。前半途中から宇佐美が出場すると、攻撃のリズムは明らかに変わった。それに伴って、原口の動きも鋭くなっていった。

 とはいえ、いまはまだ試運転といったところだろう。彼らが絡むことで何かが起こりそうな予感は漂うが、その回数はまだまだ少ない。このチームでもとびきり若い彼らの生かし方については、もうすこし見極める時間が必要だろう。

 合宿に帯同している原博実技術委員長によれば、U−20世代の強化は今後も継続していくという。「チームが勝つというより個々を伸ばす」という観点に立ち、所属クラブで出場機会の少ない選手に実戦の機会を与えることを最優先とする。協会の意向賛同を表明しているJクラブもすでにあるとのことだ。

 眩いばかりの若さに触れると、彼らの可能性が素直に頼もしく感じられる。ただ、不満がないわけではない。そのあたりについては、次回の更新分で触れたいと思う。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖