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text & photo:Kumiko Kato(加藤久美子) photo:Hiroto Kato(加藤博人)

もくじ

ー 「Yナンバー車には近づくな」?
ー YナンバーのYは「横浜」のY
ー 自賠責保険も任意保険も全車に義務付けられている
ー 特有の「任意保険逃れ」のからくり
ー 足りない分は合衆国政府、防衛省が払ってくれる?

「Yナンバー車には近づくな」?

沖縄や三沢、横須賀など米軍基地のある地域で見かける機会の多い「Yナンバー」や「Aナンバー(軽自動車)」は駐留米軍人、軍属が個人的に所有するクルマを意味している。

Yナンバー車が走る地域では、「Yナンバー車には近づくな」「被害者なのに泣き寝入り」など、あまり良い話を聞かない。実情を取材した。

YナンバーのYは「横浜」のY

現在、Yナンバー車は「沖縄」をはじめ、横須賀基地のある「横浜」、三沢基地のある「八戸」、岩国基地のある「山口」、横田基地のある「多摩」などのナンバーに集中している。

Yとは「YOKOHAMA」の頭文字でこの制度が横浜の税務署で始まったことに由来している。Yナンバー車は自動車税や重量税が低額に設定されていたり、ガソリンに関わる税も軽減されていたりなど、税金の部分では優遇措置はあるが、車両を登録する(ナンバープレートを取得する)際の諸々の手続きは日本のクルマと同じだ。

車検(継続検査)も受ける必要があり、高速道路などの有料道路も私用で使う場合は無料にはならない。

車庫証明に関しても米軍基地の外に居住して私有車を登録する場合は2005年より取得が義務付けられている。

ただし、Yナンバー以外の公用米軍車両を公務で使うクルマは高速道路の通行料が事実上無料となる。(在日米軍が発行した通行券に氏名やクルマのナンバーなどを記入して高速道路料金所の有人ゲートを通過する際、係員に渡すと無料で通行できる。後日、道路管理者が防衛省に利用料を請求する方式)。

それでは、事故の際に大きく関わってくる自賠責保険や任意保険についてはどうなっているのだろうか?

自賠責保険も任意保険も全車に義務付けられている

Yナンバー車も日本のクルマと同じように車検を受けるので、その際に自賠責保険に加入する義務があるが、実は任意保険も全車に加入が義務付けられている。

これは、1997年に導入された日米地位協定に基づく制度で、日本にいるすべての米軍人、軍属及びそれらの家族を任意自動車保険に加入させる措置をとっている。

ここでいうところの「任意自動車保険」とは、東京海上日動やチューリッヒなど日本でおなじみの損害保険会社となる。

となれば、事故処理は保険会社さんに任せて進められるはずだが、なぜ、Yナンバーと事故を起こすと面倒なことになる……といわれるのか。

Yナンバー車との交通事故で補償に関わる示談が難航しているケースもニュースで報道されている。

この理由を保険のプロに聞いてみたところ、そこにはあまり知られていないYナンバー車特有の「任意保険逃れ」のからくりがあることがわかった。

特有の「任意保険逃れ」のからくり

横浜市内で損害保険代理店を営む西信勝さん(株式会社KTN綜合保険サービス代表取締役)はこうコメントする。

「簡単に言うと、クルマの購入時に任意保険を契約して、保険会社から任意保険証書を受け取るなど手続きが終わって1〜2カ月以内に任意保険を解約して保険料の払い戻しを受ける、ということです」

「米軍基地の入場ゲートをクルマで通過する際には、すべてのクルマが免許証の確認から乗員全員のシートベルト着用(チャイルドシート含む)に至るまで様々なチェックを受けます」

「自動車に関しても
・車検証
・自賠責(自動車損害賠償責任保険)
・任意保険の証書(原本)
の提出が必要で、コピーされた書類では基地への入場が許可されません。しかし、そこで任意保険を解約していたとしても、一度発行された保険証券は手元に残ります」

「それを見せれば実際には任意保険の契約状態にないYナンバー車でも通過できてしまうというわけです」

「代理店型の損害保険には保険期間が3年という保険もあります。それをいったん契約し1カ月分だけ保険料を納めて解約すれば、『保険期間3年の自動車保険証書』が手元に残り、3年間はその保険証書でゲート通過も可能となるのです」

なるほど。任意保険加入が義務付けられているから安心と思ったら、こんな「任意保険逃れ」のからくりがあったというわけだ。このようなYナンバー車と事故に遭遇し、自賠責保険では賄えない被害が発生した場合はどうしたらよいのだろうか。

足りない分は合衆国政府、防衛省が払ってくれる?

防衛省の公式サイトには、公務執行中以外の米軍車両との事故、個人所有のYナンバー車との事故の場合について以下のような記載がある。

「原則として、交通事故の場合における保険解決のように、直接、加害者との間で示談により解決することとなりますが、加害者に賠償金を支払う資力が無い場合や加害者の保険では解決できない場合など、示談により解決することが困難な場合があります」

「このようなときには、『日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定』第18条第6項の規定により、加害者にかわって合衆国政府が補償金を支払います」

「この場合には、地方防衛局または地方防衛事務所が損害賠償請求書を受け付け、内容を審査して報告書を作成し、防衛省を経由して合衆国の当局に送付することとなっており、それを基に合衆国政府が補償金の額を決定します」

「損害賠償の請求を行うことができるのは、損害の発生したときから2年以内ですので、この期間を過ぎると請求ができなくなります」

ここに書いている以外にも、米国政府の支払い額が民事訴訟での判決額を下回った場合に日本政府が差額を補填する制度なども導入されているとのこと。

裁判となると大変な時間と労力が掛かりそうだが、時間はかかっても、賠償金は最終的には日本政府が責任をもって支払ってくれる……と考えてよさそうだ。

さらに、これはYナンバー車との事故に限ったことではないが、自分には全く過失がない事故で諸々の損害を受け、加害者が任意保険に入っていない場合、「車両無過失特約」(現在はエコノミー含め、車両保険契約車全車に無料付帯)を使うことも可能だ。

無過失が証明されれば自身の車両保険を使って修理をしても「ノーカウント事故」とされるので、等級ダウンすることもなく、翌年からの保険料も変わらない。

ただし、日米政府が補償するにしても、保険会社が補償するにしても、相手が特定されることが必須条件。ドラレコに記録されていれば問題ないが、そうでなければ、車両とナンバーの写真をすぐに撮っておくことをお勧めする。