スーパーマーケット事業の大再編に乗り出すイオン。足元の業績は好調で、今2019年2月期は営業利益ベースで過去最高を更新する見通しだ(撮影:尾形文繁)

GMS(総合スーパー)最大手のイオンは10月10日、スーパーマーケット事業の大胆な改革をブチ上げた。

北海道、東北、東海中部、近畿、中四国、九州といった全国6エリアの事業会社をエリア別に統合し、地域ごとにおよそ5000億円の売り上げ規模を有する企業を形成する。同時に、物流センターなどインフラ網も再構築することで、新たな競争力を生み出す狙いだ。

「顧客ニーズに応えられていない」

2019年3月の中四国を皮切りに、2020年度までに各地域での統合を終える。経営統合した事業会社は全体で、2025年に売上高3兆1000億円(2017年度比30%増)、営業利益1100億円(同180%増)を目指す。


「全国にものすごい数のスーパーマーケットがあるが、いまは顧客ニーズに応えられなくなりつつあるところがほとんど。イオンは(新しい需要に応えるために)変革していく」。同日行われた今2019年2月期上期の決算説明会で、イオンの岡田元也社長はそう語った。

同社のスーパーマーケット事業は2000年度の3000億円から2017年度の3.2兆円へと、中核のGMS事業を上回る規模で成長。GMS事業をベースにした規模の大きさを生かし、物流センターやプロセス(加工)センターなどを集約化して運用することで”規模の利益”を生み出してきた。

だが今後の事業拡大について、イオンは危機感を募らせる。ここ数年は低価格志向に加え、嗜好の多様化、共働き世帯の増加による時短ニーズの高まりといった変化が起きている。加えて、コンビニエンスストアやドラッグストアなど異業種との競争も激化の一途をたどる。

こうした変化に対して、イオンは地域商品の発掘やエリア限定のPB(プライベートブランド)開発などを進めることで、地域の事情に応じたきめ細やかな運営を目指す。「スーパーマーケットの新しい運営を目指すためにも、5000億〜6000億円の売上げ規模は必要。エリアごとに6〜7つのかたまりとなって、地域に密着して、自主的にやっていく形に変えていく」(岡田社長)。

生産性向上や物流網の再構築を推進

地域密着化と同時に、プロセスセンター・物流センターのAI活用による生産性向上や物流網統合・再構築を進める。イオンの藤田元宏執行役は「環境変化に自由に、自在に対応するために、われわれのインフラ網は大規模化・汎用化の対極にシフトする。その結果、専門化・適正規模化へと変革し、バリューチェーンの骨格を成していく」と強調する。

今回のスーパーマーケット事業の改革は、2017年12月に公表した中期経営計画の主要取り組みの1つだ。上場会社と未上場会社の組み合わせなど難しいケースもあり、思うように統合が進まないことも想定されるが、基本的には中期経営計画に沿って着実な施策を打ち出したと言える。


スーパーマーケット事業の改革を掲げたイオンは、足元の業績が好調に推移している。今2019年2月期は売上高にあたる営業収益が8兆7000億円(前期比3.7%増)、営業利益が2400億円(同14.1%増)と、営業利益ベースで過去最高を更新する見通しだ。


イオンの岡田元也社長は10月10日の決算説明会で、スーパーマーケット事業の再編についての説明に多くの時間を費やした(記者撮影)

長年、低収益にあえいでいたGMS事業は、今夏の猛暑効果による飲料商品の好調や総菜商品の底堅い需要に支えられている。

加えて、利益率のよいPBを拡販したことも功を奏し、採算が改善傾向にある。海外事業もイベント積極化などの施策が効き、中国を中心に採算が上向いている。

具体策が見えないデジタル化

とはいえ、今後の成長に向けては課題も少なくない。GMS事業については今後、食品部門を7つの地域事業会社に分社化し地域密着を強めるほか、衣料など4つの分野も分社化への準備を進める。分社化で商品開発力を強化する方針だが、このGMS事業の再編をスーパーマーケット事業の改革とどのようにつなげていくのか、難しい舵取りが想定される。

中期経営計画のもう1つの目玉であるデジタル化についても、現時点では道筋が不透明だ。今年5月には、米国のネット通販のボックスドに出資。同社のAIを活用したデータ分析や商品提案、物流効率化の技術をネット通販に生かす。さらに中国のテクノロジー企業とも合弁会社を設立。顔認証や掌の認証などの生体認証技術を活用し、施設管理や無人店舗の開発をもくろむ。

ベンチャー企業との提携は実現したが、さまざまな事業者が出店するECのマーケットプレイス開設やネットスーパー事業の強化策については、今回の説明会ではほとんど語られることはなかった。

中期経営計画の最終年度にあたる2020年度に売上高10兆円、営業利益3400億円を目指すが、その目標達成に向けては、当面苦悩が続きそうだ。