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「上司や取引先に振り回されがちな若手が、遅刻やドタキャンをするのはやむを得ないが、いい年をしたオッサンやオバサンが約束を守れないのは無能の証明」。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はそう断じる。「無能な人」はなぜ同じミスを繰り返すのか。中川氏は「あるルール」を徹底するだけで遅刻やドタキャンは防げるという。そのルールとは――。

■「終わらない会議」に翻弄された20代

23歳〜27歳のころの話だ。当時、私は広告代理店に勤めていたのだが、とにかく飲み会に遅刻ばかりしていた。わざと遅刻をして、忙しぶっていたわけではない。何しろ会議が長くなるのである。

19時30分から東京の恵比寿で飲み会の約束があったとしよう。同じ日、18時から会議の予定もあるが、普通に進行すれば1時間程度で終わるだろうから、すぐに職場のある田町を出れば19時30分には店に到着できるはず。社会人になったばかりのころは、よくそんな算段を付けていた。しかし、こうした時間繰りはほとんどの場合、うまくいかないことにほどなく気づかされた。

というのも、キーマンたるエラい人がとにかく時間を守らないのである。忙しいのか何なのかはわからないのだが、18時からの会議に18時40分に到着するようなことがザラにあるのだ。そして、会議も「ブレインストーミング」と称して各人が好き放題しゃべりまくるものだから、話がとっ散らかってなかなか終わりが見えない。結局、会議が終了したのは20時30分で、恵比寿の店に到着したのは21時すぎ……なんてことになる。

これが大人数の飲み会だったらまだしも、女性と2人きりで会う約束をしていた際でも発生していたのだから、そりゃモテなくなるわけである。

その後、開始時刻を20時30分にしてもらうなど自分なりに策を講じたが、それでも遅れてしまうため、飲み会の約束を交わすこと自体、ほぼやめてしまう。あくまでも職場の人から「今から行くか」と22時ごろ誘われるのを待つばかりとなった。

■遅刻者続出で「無駄な乾杯」を重ねる若手飲み会

27歳で会社を辞めてフリーランスになってからは、ほぼ遅刻をしなくなった。理由は「自分の裁量で時間をコントロールできるようになった」からだ。

会社員――とりわけ若手の場合、冒頭の話のように「キーマンが打ち合わせの開始時間になっても現れない」「上司が話し好きなので、会議が無駄に長い」といった、自分ではどうしようもない理由で後の予定を変更せざるを得ないことも多い。

私も入社3年目くらいまで、同期で飲み会をやるときなど、それはひどい集合状況だった。私同様に会議の時間をコントロールできないペーペーぞろいなだけに、参加予定の10人中、開始時間の20時に着いているのは2人なんてこともザラだった。飲み会は一般的に、18時30分〜19時30分あたりにスタートするケースが多いと思われるが、同期の飲み会では「念のため少し遅めの20時開始にしておこうか」としていたにも関わらず、参加者のほとんどが予定どおりに集まれなかった。

仕方がないので2人だけで近況などを話していたら、20分おきぐらいに「ごめーん」と他の参加者が現れ、乾杯の回数だけが無駄に増えていく。さらには途中、2人の参加者から「悪い。今日は行けそうにない……」とドタキャン電話が来て、最終的には8人の酒席となった。しかも最後の8人目が来たときはすでに22時30分になっていたりする。サラリーマン経験のある人なら、こうした経験があるのではないだろうか。

■若手は作業者として、上司からコキ使われるもの

若手が予定どおりに動けない原因は「会議の主導権を持たない」ことだけではない。仕事全体の指揮を執る上司にかわり、作業マンとして、資料や書類をそろえたりする必要があるからだ。上からダメ出しをくらえば、再リサーチや修正作業をしなければならない。「いま会議で話し合ったこと、すぐにパワポに落とし込んでおいて。明日の朝イチでチェックするから」などと、急に仕事が振られることもある。そうなると当然、残業することになり、後の予定に遅刻する。これもまた、若いうちはよくある光景である。

ただし、40代になっても遅刻やドタキャンを続けているようでは、その能力に疑問符をつけざるを得ない。そして「やはりな」という感じなのだが、遅れるのは毎度同じ人なのである。起業家の家入一真さんのように「僕は時間管理が苦手で遅刻をしがちです。そこのところは理解しておいてください」みたいなことを公言する人ならばともかく(あと、彼はそのキャラが許されている)、通常は遅刻しないに越したことはない。

……と、ここまで書いて気が付いた。家入さんは、少なくとも私との約束に遅刻したことなど、これまで一度もなかった。このように、表向きは“遅刻キャラ”の印象が強くても、実際にはそんなに遅刻していない、というケースは多い。それを踏まえると「あの人が遅刻を許されているのだから、自分だって構わないだろう」などと居直るのは実に浅はかであり、何の言い訳にもならない。

■「仕事のコントロール権」を持つ人は遅刻しない

私の経験上、職場で認められている人ほど遅刻はしない。それは「仕事のコントロール権」を握っているからである。冒頭で「40分遅刻するエラい人」を紹介したが、この人は職場では認められているものの、「下っ端は待たせてもいい」「オレは遅れても許される」「オレ様が会議に参加してあげるのだから待つのは当然」というゴーマンな考えを持っているがゆえの行動なので、これはまた別の話だ。

仮に部下から上がってきた書類がダメな内容で、自分がそれを直すにも時間がかかると考えた場合、権限があり、かつ合理的な判断ができる人ならば、提出先に対し「まだ“揉みたい”ので、恐れ入りますが明日の15時までお待ちいただけませんでしょうか」といった連絡を入れ、とりあえずその場は一区切り付けてしまう。そして、予定どおりに次のアポへ向かう。次のアポとは仕事かもしれないし、合コンかもしれないし、デートかもしれないが、その中身はなんだっていい。それが許されるだけの実績と信頼感があるのだ。

若者が仕事でテンパってしまい、遅刻することを伝える電話口で「本当にすみません、すみません!」などと申し訳なさそうにしている姿は、オッサン、オバサンからすればかわいいものだ。

「上司から『資料をすぐに書き直せ!』とか言われたのだろう」「客先のわがままな担当者から『社内会議が明朝に変更になったので、今晩中にデータを送ってほしい』なんてむちゃぶりをされたのかな」と、自分の若いころの経験を重ね合わせて、察することもできる。また、そんな若者が予定よりかなり遅れて酒席にやってきたとき、息を弾ませ、汗をダラダラと流しでもしていたら、「おぉ、頑張ったんだな」とほほ笑ましく感じる(このテクニックは使えるぞ)。

■40代で遅刻やドタキャンをする人は、無能かバカ

だが、40代ではアウトだ。「いい年こいて、まだ自分では何も決められないポジションにいる無能か、仕事に段取りが付けられないバカなんだな」と思われることだろう。

もちろん、その会合の日時が決まった段階や数日前に「私は当日、カクカクシカジカの理由で遅れることがすでに見えております。皆さまで先に楽しんでおいてください」などと言える人であれば、無能やバカではない。また、警察官や消防士、医師など緊急度の高い職業に就いている人は、予定どおりに動けなくてもやむを得ないだろう。

要するに、「それなりの年齢になったら、安請け合いはやめろ」ということなのだ。人は事前の期待値が高ければ高いほど、裏切られた際、約束が果たされなかった際の失望感も大きくなる。

「期待値」なんて言うと大げさに聞こえるかもしれないが、たとえば合計6人の飲み会で、初対面の参加者が2人いたとしよう。そして、本来であれば場の盛り上げ役になるはずの1人が遅刻していたとする。初対面の2人がどうも雰囲気になじめず、他の3人がいろいろ話を振ろうと、配慮をしようと、なかなか席が温まらない……なんて場合、「アイツがこの場にいてくれれば」「なんで早く来ないんだよ!」と幹事はイラつくことになる。

たかが飲み会に遅れる程度のことじゃないか、と思うかもしれないが、幹事の側からすれば、その遅刻男も会全体のことを考えると重要な存在なのだ。

■約束を守れない人間は、相手に甘えている

結局、初対面の2人が「明日は早いので」と、遅刻男が来る前に帰ってしまう。そんなとき、遅刻男から「会社出たなう! あと25分で着く!」なんてLINEが届きでもしたら、「遅ぇよっ!」と怒りすらおぼえるだろう。加えて、テンションの低いまま先に帰ってしまった2人が、今後、仕事をもたらしてくれたり、キーパーソンに引き合わせてくれたりする可能性のある人物だったとしたら、他の参加者は遅刻男に対し「この無能が!」となじりたくなるに違いない。

また、飲み会や友人関係の集まりには遅刻するくせに、仕事では遅刻しない人物もいる。こういう手合いも、あまり信頼はできない。「仕事なのだから、遅刻しないのは当たり前」「遊びよりも仕事を優先するのが社会人の常識」といった方便もあるだろうが、仕事相手だろうが遊び相手だろうが、他人様の時間を無駄にすることには変わりがないのだ。

いずれにせよ、遅刻やドタキャンは相手に甘える行為。その人物がいい年をしたオッサン、オバサンなのであれば、おそらくもう、付き合う必要はない。そいつはあなたを軽く見ているのである。

■信頼を損なわないためのシンプルな原則

「仕事を優先して何が悪い」「予定が重なってしまったら、優先順位を付けるしかないだろ」といった声もあるに違いない。以前「『行けたら行く』と言うヤツはバカ」といった原稿を書いたが、ネットで猛烈に反発された。「本当に『行けたら行く』なんだからしょうがないだろ!」と。気持ちはわからなくもないが、ドタキャンをしても言い訳できるような余地を残して中途半端な約束を交わしたり、一度決まった予定を覆したりするのは、やはりできるだけ避けるほうがいい。

私はフリーランスになって以来、あるシンプルな原則を守っている。これを実践すれば、大抵のものごとはうまくいく。それは「先約優先」である。

とにかく相手が学生であろうが、取引先のエラい人であろうが、先約優先でスケジュールを埋めていく。私が「○日であれば空いています」と伝えたとき、相手から「その日はマズいんだよな」とゴネられても、「いやぁ〜すみません、私は先約優先を徹底しておりまして……」と返すことにしている。

もちろん、相当にシビアな状況で素早い対応が必要だったり、多額の報酬がもらえるケースだったりした場合は、先約の相手に謝り倒して、予定を変更してもらうこともあるだろう。だが、最初に約束を交わした人に「ゴメン! スケジュール、変えてもらえないかな」とお願いするだけで、相手は自分が軽んじられたと感じ、信用は多かれ少なかれ低下することを覚悟しなければならない。そのあたりはもう、そこに至るまでに積み重ねた実績や信頼関係、事後のフォロー次第といえる。

できれば“若手”のタグがはずれる20代後半から、遅くとも40代を迎える前までには、スケジュール管理くらい自分主導でできる程度の人間になっていたいものだ。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・「自分で仕事をコントロールする権限」を持たない若手が約束に遅刻したりするのはやむを得ないが、40代になっても遅刻やドタキャンを重ねるような人間は「信用できない」「無能」と思われても仕方がない。
・信頼を損なわないためには「先約優先」を励行すべし。それだけで、大抵の物事はうまくいく。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)