入社4日目で退社した玉田さん。「海外のワーホリに興味がある」。

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■2日目で違和感、3日目で決断

街中で希望溢れる若々しい新人を目にする機会が増えた4月、すでに「新入社員」を辞めてしまった者も一部ながら存在する。首都圏の中堅私立大学卒の玉田絵里さん(仮名・22歳・埼玉県在住)は不動産関連会社に入社したが、4日目に退社した。

「もともと、卒業したらフリーターになって、勉強してから公務員になろうと思っていました。ほかにワーキングホリデーにも興味がありました」

玉田さんが就活に抵抗があったのは、新卒で就職してしまうと、時間がとれなくなると考えていたからだ。もし海外に行きたくても動けないのは困る。

大学4年生の秋まで何もしていなかったが「母親に『就職してほしい』と泣いて説得され就活を始めました」。ちなみに母子家庭だという。納得できなかったが、空前の就活“売り手市場”なこともあり、とりあえず受けた会社でいきなり内定が出た。

「面接は志望動機すら聞かれず単なる世間話でした。その日のうちに内定が出て、面倒な就活が省けてよかったな、という気持ちでした」

■「税金を取り戻しませんか」とひたすら電話

玉田さんが入社したのは社員数約30人の不動産関連会社。社員の年齢層は“高め”で、60歳以上の社員も何人か見かけた。

「簡単に言えば富裕層に賃貸運営を勧める仕事。とにかくテレアポです。新卒採用は10年ぶりで、新人は私を含めて3人。残りは30代の中途採用です」

迎えた入社初日。「会社の雰囲気はよかったです。みんな仕事を教えてくれるし」。この日は4時間ほど金融や税金の講義を受けた。

そんな玉田さんが会社に初めて違和感を抱いたのは2日目。営業電話をしている業務を実際に見たときのことだ。

「『税金を取り戻しませんか』と顧客に電話しているのを見て『これはダメかも……』と思ってしまいました。会話すら成立せずに断られていることもあり、こんなに世の中に必要とされていない仕事があるのかと落胆しました」

先輩社員からは「そのうち慣れる」と言われたが、彼女はすでに明日の出社を面倒に感じていた。

3日目、いよいよ電話を実際にかけてみることに。

「営業用の原稿があって、それをひたすら読み上げるんです。でも、電話をかけてもすぐ切られ、精神的にどんどんすり減っていきました。午前中に電話をかけ終えて、昼休みに辞めようと考えました。私は人見知りの性格でガツガツしているわけでもないし、断られるのも悲しいし、そもそも人の役に立ちたいと思って志望したのに今、何やっているんだろうと虚しくて」

■歓迎会の話が持ち上がったのがきっかけ

退社の決断をした大きなきっかけは、玉田さんの歓迎会の話が持ち上がっていることを聞いたからだ。

「歓迎会後は辞めづらくなると思い、できれば3日目のうちに言いたかったけど、勇気がありませんでした」

そして4日目。朝、人事担当者とエレベーターで一緒になり、「ご相談が……」と話しかけ、そのまま面談の流れになった。席につくと感情が高ぶり涙が出てきた。人事担当者からは説得されたが、意思は固くなっていく。

「母子家庭だよね? お母さんが泣くよ? 続ければやりがいも出てくるんじゃないかな。会社を辞めてどうするの?」

「自分でなんとかします。海外でワーキングホリデーに興味があるんです」

「玉田さんみたいな、これといった能力も持っていない人が海外に行っても日本にいるのと変わらないよ」

だが、人事担当者の声は彼女には響かない。1時間ほどの問答が続き、玉田さんの主張がついに認められた。そのまま事務手続きをし、お昼前には玉田さんは会社を去った。

「今後は、公務員試験の勉強をしながらバイトしたり、海外に行ったり、やりたいことをしたいと思います」

2018年の新入社員の多くは小中高を通してゆとり教育を受けた「究極のゆとり世代」と言われる。ライフスタイルが多様化する今、日本の新卒一括採用は限界なのか。それともゆとり世代の忍耐力がないだけなのか。いずれにせよ、企業に変化が求められている。

(ライター 柚木 ヒトシ 撮影=柚木ヒトシ)