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40代の約3人に1人が発症するという「ハゲ」。「昆布やワカメを食べると丈夫で黒々した髪になる」「ヘアブラシで軽く叩くと脱毛予防になる」という俗説に根拠はあるのか。大阪大学大学院の板見智教授に聞いた――。

※本稿は「プレジデント」(2018年1月1日号)の掲載記事を再編集したものです

■ほとんどの俗説に根拠なし

成人男性の前頭部や頭頂部の毛が一定のパターンで薄くなる、いわゆる「ハゲ」は、医学的には男性型脱毛症(AGA)と呼ばれる症状です。早い人では20歳頃から始まり、加齢とともにその数は増え、日本人の場合、40代になると約3人に1人が発症します。

AGAに関する科学的研究はこの20年で急速に進みました。その発症原因は男性ホルモンの作用によるもので、発症確率はほぼ遺伝で決まることが判明しています。ちなみにAGAの発症率は人種によって大きく異なり、白色人種は日本人より約10年進行が早く、韓国では逆に10年遅いことがわかっています。

髪に関しては昔から多くの俗説が語られてきました。「昆布やワカメを食べると丈夫で黒々した髪になる」「頭皮に溜まった脂が脱毛の原因である」などですが、そのほとんどに科学的根拠はありません。

1980年代に「ヘアブラシで軽く叩くと脱毛予防になる」という育毛剤のCMが放映されました。その製品は大ヒットしたため、今なお信じている方が大勢いますが、こちらも科学的根拠はゼロ。

こうした俗説とはまったく違い、現在はきちんとした科学的根拠に基づくAGAの治療法が確立しています。その方法は大きく分けて「投薬」と「手術」。AGAの治療のために、近年多くの病院やクリニックで処方されているのが飲み薬の「フィナステリド」(商品名:プロペシア)です。

■教授自身も過去に10年服用して効果を実感

この薬品は男性ホルモンのテストステロンが脱毛を促すDHT(ジヒドロテストステロン)に活性化するのを防ぐ働きがあり、現在は世界60カ国以上で承認されています。日本の臨床試験ではフィナステリド1ミリグラムを1日1錠、1年間続けて飲んだグループで54%の人に「改善」が見られました。私自身も過去に10年服用しており、その確かな効果を体験しています。

2017年からは、フィナステリドより効果が出るのが早いといわれる「デュタステリド」(商品名:ザガーロ)も治療薬として使用可能になっています。塗り薬の「ミノキシジル」(商品名:リアップ)も効果が実証されており、この3つが男性型脱毛症の中心的な治療薬となっています。

一方で薬による薄毛治療の欠点は、長い時間がかかること。そのため恋愛やお見合いなどの理由で「即効性」を求める若いAGAの患者さんは、治療法として「手術」と「ウィッグ(カツラ)」を選択することが多くなります。日本でも40年以上前から植毛手術は行われていましたが、近年自毛を移植する技術が飛躍的に向上しました。手術の費用は50万〜150万円ほど。フィナステリドは保険適用外なので1カ月1万円ほどの費用がかかります。

寂しくなっていく頭髪にどう対処するか。その判断材料を得るためにも、近くの皮膚科を1度訪ねてみてはいかがでしょうか。

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▼POINT!
・どこから始まる?
日本では40代男性のうち約3分の1が男性型脱毛症になる。発症は遺伝によるもので、環境を整えても条件は変わらない。
・最悪の場合は?
ハゲるだけ。昆布やワカメが効く、頭皮を叩くと脱毛予防になる、白髪はハゲない。これらの俗説には根拠がない。
・予防、改善策は?
効果が証明されているのは飲み薬2種と塗り薬1種(本文参照)。飛躍的に技術が向上した自毛移植手術も選択肢の1つ。

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板見 智
大阪大学大学院医学系研究科皮膚・毛髪再生医学寄附講座教授
1952年生まれ。大阪大学医学部卒。大分医科大学、マイアミ大学などの勤務を経て2006年より現職。『専門医が語る毛髪科学最前線』などの著書がある。
 

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(大阪大学大学院医学系研究科皮膚・毛髪再生医学寄附講座教授 板見 智 構成=大越 裕 撮影=早川智哉 写真=iStock.com)