なぜ"不良の中学生"はモテなくなったのか

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中学生では「不良」がモテなくなっている――。博報堂生活総研が子ども(小4〜中2)を対象に調査した結果、「学校へ行くのがいや」「校則に従うのがはずかしい」と回答した子どもが過去20年間で最低になった。いま女子にモテるのは「やさしくて、清潔で、頭の良い子」だという。変化の原因はなにか。博報堂生活総研の酒井崇匡上席研究員が考察する――。(第1回)

■どんな子が女子にモテるんですか?

博報堂生活総合研究所は今年、子ども(小4〜中2)を対象とした大規模調査「子ども調査2017」を実施しました。この調査は20年前の1997年から同じ調査設計、項目で実施されている長期時系列データ(ロングデータ)です。この連載では、ロングデータの分析から見えてくる20年間で起こった子どもたちの変化と、同時に実施した家庭訪問調査や小中学校の先生などへの取材から、今、子どもたちに生まれている新しい価値観や生活行動について解説していきます。

「今の子どもたちにとって、不良はもうモテの対象じゃありません」

これは、ある中学校の先生がおっしゃっていた言葉です。学校の先生や子育て中のお母さん、大学生の皆さん達と「子ども調査」の結果を分析していたとき、この一言が出てきました。

「じゃ、例えば男子だったら、どんな子が女子にモテるんですか?」と聞くと、「“逃げ恥”の星野源のような、やさしくて、清潔で、頭の良い子」という答えでした。

私は1982年生まれで、子どもの頃、周囲には「不良」と呼ばれる人たちがたくさんいました。『スラムダンク』や『幽遊白書』など当時の人気マンガも、多くの主人公が「不良で乱暴者」というキャラ設定でした。その不良がモテなくなったというのはどういうことなのでしょうか。

■戦後、最もワルかったのは「新人類世代」

そもそも、不良はどれくらいいるのでしょうか。警察庁の「少年の補導および保護の概況」という資料をみると、警察に検挙・補導された非行少年が該当年齢1000人あたりで毎年何人いたのかがわかります。なお14〜19歳の「刑法犯少年」は検挙、10〜13歳の「触法少年」は補導です。

資料によると、刑法犯少年が戦後最も多かったのは1983年頃でした。ちなみに、校内暴力事件の発生件数もこの年にピークを迎えています。この頃10代だった世代は、ちょうど今の40代後半から50代前半です。時代によって少年非行の取り締まりの強化度は変化するでしょうし、戦後間もない頃はそれを取り締まる余裕が警察にもなかったとも考えられますが、それらを度外視すれば、今、40代後半〜50代前半のいわゆる「新人類世代」は「戦後最もワルい10代を過ごした世代」と言えそうです。

これはその時代の感覚ともあっているはずです。実は、刑法犯少年の数がピークを迎えた1983年は尾崎豊が『15の夜』でデビューした年でもあります。言い方を変えれば、彼は戦後最も10代がワルかったこの年に、盗んだバイクで走り出した、ということなのです。

その後の推移に目を向けてみると、「子ども調査」が開始された1997年あたりからもう一度、非行少年が増加した山が見られます。この頃にはテレビドラマの影響でバタフライナイフが中高生に大流行し、社会問題として大きく取り上げられました。(ただし、実際にこの頃増加した少年犯罪は傷害ではなく万引きなどです)。

そしてその後、非行少年は一貫して減少し、現在は毎年、戦後最低を更新し続けている状況です。不良という言葉の範疇には、罪を犯していない少年も含まれるはずですが、その中核となる非行少年がここまで減少しているとなると、不良と呼ばれる子どもの数全体も以前と比べてかなり減っているはずだと推測できます。

■なぜ彼らはワルかったのか?

一体、不良はどこに行ってしまったのでしょう? そもそも、なぜ80年代前半や00年前後の子どもたちはこんなにもワルかったのでしょうか。それを読み解く視点の一つとして、子どもと大人の関係性の変化があげられます。以前の大人は、子どもにとって自分たちが反抗すべき相手、敵でした。例えば尾崎豊の大ヒット曲、『卒業』では、自分たちを支配しようとする大人への不信感や、彼らに対する反抗心が明確に歌われています。自分たちを力づくで押さえつけようとする親や先生に対して、年頃を迎えた子どもが抵抗するという図式が、以前は典型的だったわけです。

では、今の子どもたちにとって、大人はどのような存在なのでしょうか。博報堂生活総研が実施した「子ども調査」のデータで、20年間の変化を見てみましょう。

まず、この20年の間に、大人は以前に比べて非常にソフト化していったことが分かります。不良が多かった20年前、1997年の調査時点ではまだ子どもの2割、1クラス35人の中で6〜7人は先生になぐられたことがあったのですが、今ではほぼゼロです。両親にぶたれたことがある子も、20年前は母親からは8割、父親からは7割いましたが、今回の調査で初めて半数を下回っています。

その一方で、「自分の話を、お父さんやお母さんはよく聞いてくれる」という子は一貫して増加し、8割を超えました。いつも子どもを力で押さえつけ、それゆえに反発されていた大人は、少子化が進行する中で子どもを手厚くケアするようになりました。多くの大人が、よほどのことがない限り子どもに手をあげず、その代わりにしっかり対話するようになっているのです。

■ソフトな大人が、ソフトな子どもを生んだ

子どもが親から手厚くケアされていることを象徴する光景は、家庭訪問調査でも見ることができました。実は子どもたちが家庭内で多くの時間を過ごす場所は、この20年で子供部屋からリビングに変化してきているのですが、調査で訪れたほとんどの家庭のリビングには、子どもたちの小さい頃の写真や絵、工作、賞状が並び、親にきちんと見守られていることが具現化された場所となっていました。

もちろん、子どもが非行に走る要因は一つではありませんが、不良が世の中から姿を消した背景には、敵だった大人がソフト化した結果、子どもは逆らい続ける必要がなくなった、ということが大きく影響していそうです。実際に、大人のソフト化と連動して、子どももソフトになってきています。それを示すのが、子ども調査で聴取している対人関係に関するネガティブな意識です。

青系は「学校へ行くのがいや」など学校や先生との関係性、赤系は「家出をしたい」など親との関係性、緑系は「友達と絶交」など友人との関係性に関する項目ですが、総じて今回の調査が過去20年間で最低となっています。反抗する相手がいなくなった子どもたちは総じて丸く、優しくなり、さまざまな面で門の立たない、つつがない暮らしを送るようになっているのです。これでは、不良が激減し、モテなくなるのも当然といえば当然でしょう。

■濃密な親子関係の「光と影」

ただし、問題が全てなくなった、というわけでもありません。お互いソフトな親子の関係は、より濃密になりつつあり、「親の誕生日に何かプレゼントをしている」、「お母さんと一緒によく買い物に行く方だ」という項目も過去最高になりました。その反面、警察庁の統計では、子どもの家庭内暴力の発生件数が近年、小中高の全年齢で増加傾向にあることも示唆されているのです。

全体的に見れば子どもの生活は平和になりつつありますが、外からは見えにくい家庭の中で問題が抱えられている場合もあるのだ、ということは心に留めておく必要がありそうです。

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▼「子ども調査」(2017年調査)​の概要
企画分析:博報堂生活総合研究所/実施集計:株式会社東京サーベイ・リサーチ/調査地域:首都40Km圏/調査手法:訪問留置自記入法/調査期間:2017年2月15日〜3月21日/調査対象:2017年3月31日現在で小学4年生〜中学2年生に在学する男女/調査人数:800人/公開データ:http://seikatsusoken.jp/kodomo20/overview/

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酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂 生活総合研究所 上席研究員
2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2012年より博報堂生活総合研究所に所属し、日本およびアジア圏における生活者のライフスタイル、価値観変化の研究に従事。専門分野はバイタルデータや遺伝情報など生体情報の可視化が生活者に与える変化の研究。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。

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(博報堂 生活総合研究所 上席研究員 酒井 崇匡)