実世界がポケモンGOになる?「ZenFone AR」が目指すのは、世界を変えるスマホ【Turning Point】

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ASUS JAPANは、夏発売予定のスマートフォン「ZenFone AR」を発表した。
グーグルのAR技術「Tango」とVRプラットフォーム「Daydream」に対応しており、同社によると世界初のスマートフォンとのこと。

4月14日、都内で行われた新製品発表会においてZenFone ARは、これまでのZenFoneシリーズの流れとは異なる新たな製品として紹介している。




ASUS JAPANのSIMフリースマートフォンは、ミドルクラスの「ZenFone 5」から始まり、今やエントリー向けの「ZenFone Go」、ミドルクラスの「ZenFone 3」、ハイエンドの「ZenFone 3 Deluxe」、カメラに特化した「ZenFone Zoom」、女性をターゲットとした「ZenFone Selfie」、大画面の「ZenFone 3 Ultra」など、ターゲット別のラインナップ展開を徹底して行っている。

こうしたモデル数を増やしている背景には、世界各国に合わせたグローバル展開をしていることから、どの国のニーズにも対応でき、販売台数を確実に見込めるという強みがある。
世界市場を相手にしているASUSとラインナップが少ない国内メーカーとの体力の違いを感じるところでもある。

家電量販店の店頭において、1社の製品だけで価格や機能、サイズなど、消費者のニーズに適したスマートフォンが選べるのはASUSや同じくグローバルで勢いがあるHUAWEIの特徴でもある。

さて、冒頭で述べたが夏発売予定のZenFone ARは、ハイエンドからローエンドまで、まんべんなくラインナップするASUSの戦略から離れている。
ZenFone ARは、「イノベーター」として新たなニーズを掘り起こそうとするチャレンジする製品のようだ。

イノベーターモデルとなるZenFone ARとはどんなスマートフォンなのだろうか?




主なスペックは、ディスプレイに5.7インチWQHD(1440×2560ドット)Super AMOLEDディスプレイ(有機EL)、プロセッサにはQualcommの「Snapdragon 821」(クアッドコア)、Android 7.0、3,300mAhバッテリーなど、ハイエンドモデル相当だ。

特徴的な部分では、ノートPC並みのメモリーとストレージがある。
・8GBのRAMと128GBのストレージを搭載したモデル
・6GBのRAMと64GBのストレージを搭載したモデル
この2つをラインナップしている。
大容量のRAMは、アプリの切り替えでの素早さなどスマートフォンの基本機能として重要なパーツだ。
8GB、6GBという大容量のRAMは、通常のハイエンドモデルの4GBと比べても2倍近く大きく、スマートフォンの動作の向上にも期待できるが、本機の場合この大容量RAMは、特徴でもあるAR(拡張現実)やVR(バーチャルリアリティ、仮想現実)の動作のための設計であるだろう。

特にARはカメラで取得した映像にリアルタイムで3Dグラフィック処理を必要とする。
このためには、高い処理能力と大きなメモリーが必要であることは容易に想像がつく。
実際、先駆けて発売したレノボのTango対応ファブレット「Lenovo Phab 2 Pro」も4GBのRAMを搭載しており、それを上回るRAM容量を搭載したZenFone ARは、ARの実用性や安定性にも期待ができそうだ。

一方で、気になるのが、
TangoがもたらすARの世界をユーザーは、どれだけ期待しているのか?ということだ

VRという言葉が広まっている今なら、Daydream(VR機能)が使えるSIMフリースマートフォンを購入してみたいと思うユーザーは少なからずいるとは思う。
しかし、TangoのARを使いたいと思うユーザーは、まだそう多くはないように思える。

実際、AR対応のアプリやゲームなどは、まだまだ数が少ない。
さらに、また実験的要素が強いため、すぐに使える実用性を得られない可能性もある。
このため、購入しても、使わない機能となる懸念も捨てきれない。

では、なぜASUSは、ZenFone ARをイノベーターモデルとしているのか?

それは、新たに掘り起こそうとしている層が、法人だということだろう。

法人向けのスマートフォンといえば、カメラ非搭載でセキュリティ機能を強化した製品や、防水・防塵・対衝撃などのタフネス製品などといった、社内や作業現場で使うイメージが強い。

だが、ZenFone ARが目指すのは、小売店や営業などの接客デバイスや、VR・ARを利用したアミューズメント施設にも適している。



実際に新製品の発表会では、リビングスタイルのARを使用したルームコーディネート・アプリ「RoomCo AR」を紹介している。
RoomCo ARは、Tangoによって部屋の床面や壁を認識し、3Dモデリングされた家具製品を部屋にレイアウトできるというものだ。

RoomCo ARなどのアプリを利用すれば、家具を購入する前に、自宅での家具のサイズや配置、色などのマッチングを把握してから購入するといったことも可能な世界が実現できる。

ちなみに、Tangoと一般的なARとの違いは、
・カメラの映像
・赤外線による空間把握
・スマートフォンを動かしたことを把握するためのモーショントラッキングカメラ
これらを持っていることがある。

これによって、従来はできなかった距離や広さを数値で把握した上で、3Dモデリングデータをカメラが捉えたアングルで合成可能としている。




この機能を固定した装置や店舗などで、どう活かせば良いのかは難しいところだ。
しかし、ZenFone ARのように持ち運びできるスマートフォンに搭載することで、新たなサービスの実現が可能となる業種もある。

例えば、不動産会社の場合を想定してみれば、
・店舗ではDaydreamを使ったバーチャル物件紹介する
・現地では部屋の広さをARで測って紹介する
実際には住んでいる実感が湧かないモデルルームや店舗でも、あたかも家具を置いた部屋の体験や雰囲気を見せるといった使い方ができれば、十分にビジネス活用ができそうだ。

発表会では、ZenFone ARの発売を夏にしたことについて、Tangoのアプリやサポートに時間を掛けている旨が発表さていた。まずは、こうしたビジネス展開などに向けた地固めをする準備にも配慮しているようだった。




ZenFone ARは、VR・AR対応し、デザイン性も高く、ハイスペックなスマートフォンである。
このことからも、アーリーアダプター向けの優れたスマートフォンであることは確かだ。
とはいえ一般の消費者が、ZenFone AR本来のフル機能を十分に堪能できるようになるのは、まだしばらく時間はかかるだろう。

店舗やショールーム、アミューズメント施設などをはじめとして、ARに身近に触れることができるようになったとき、人気のポケモンGOのような世界が日常の生活になり、世界が変わったと感じられるだろう。


執筆 mi2_303