今週末、待ちに待った2017シーズンのF1世界選手権が幕を開ける。初戦の地はオーストラリア・メルボルン。バルセロナでの合同テストを終えたニューマシンがどこまで仕上がっているのか、期待が膨らんだり、不安が募ったり。開幕前に、参戦する10チームのニューマシンとともに今季の参戦体制をチェックしておこう。

※紹介順は昨年のコンストラクターズ・ランキング上位から。年齢は3月23日現在。


メルセデス・F1 W08 EQ Power+(1)メルセデスAMG
【ドライバー】ルイス・ハミルトン(32歳・イギリス)/バルテリ・ボッタス(27歳・フィンランド)

 絶対王者メルセデスAMGは、パワーユニットが現行規定となった2014年から3年連続でドライバーズ&コンストラクターズの両タイトルを独占し続けている。

 2010年のF1復帰の際に母体となったのは、かつてBARやホンダ、ブラウンGPとして活動していた英国ブラックリーのチーム。現在も多くのスタッフがそのまま在籍している。その技術面を束ねてきた大物技術者パディ・ロウ(現ウイリアムズ最高技術責任者)は昨年末に離脱したが、フェラーリからジェームズ・アリソンを獲得して体制の再強化を図っている。チームの運営面では、ビジネスマンとして成功を収めたトト・ウォルフと往年の名手ニキ・ラウダが指揮を執り、これまでに何度もチームメイト同士の確執など難しい局面を切り抜けてきた。

 昨年王者となったニコ・ロズベルグがその5日後に電撃引退を決めて衝撃が走ったが、その後任として、ウォルフが若手時代から面倒を見てきたフィンランドの有望株バルテリ・ボッタスを獲得。王座奪還に燃えるルイス・ハミルトンとの間でどのような戦いを見せるのか、注目を集めている。


レッドブル・RB13(2)レッドブル
【ドライバー】ダニエル・リカルド(27歳・オーストラリア)/マックス・フェルスタッペン(19歳・オランダ)

 世界的エナジードリンクメーカーが所有するオーストリア国籍チームだが、母体は1997年に英国ミルトンキーンズに設立されたスチュワート(その後ジャガー)。2005年の参戦当初は苦戦を強いられたが、空力の鬼才と呼ばれるエイドリアン・ニューウェイを獲得して技術陣を再構築したことで力を伸ばし、2010年から4年連続でダブルタイトルを独占する強豪チームとなった。

 2014年の現行パワーユニット規定下では、ルノーの非力さに苦戦しながらも常に上位で優勝を狙える位置に控え、車体の空力性能ではピカイチとの評価を受ける。2015年にはルノーとメディア上で舌戦を繰り広げる醜態を晒したが、現在は和解してTAGホイヤーのバッジで同パワーユニットを使用する。

 ダニエル・リカルドとマックス・フェルスタッペンという極めて活きのいい若手を取り揃え、彼らのアグレッシブなドライビングは高く評価されている。活動的でクリエイティブなPR戦略にも定評があり、それらを笑顔でこなす彼らのタフネスと若々しさにも注目だ。


フェラーリ・SF70H(3)フェラーリ
【ドライバー】セバスチャン・ベッテル(29歳・ドイツ)/キミ・ライコネン(37歳・フィンランド)

 1950年のF1世界選手権初年度から唯一参戦を続けている超名門チーム。今季は創設70周年の節目の年となる。しかし、最後にタイトルを獲得したのは2008年(コンストラクターズ)。その後、運営面でも技術面でもチームは名物の「お家騒動」で幾度もの代替わりを経ている。現在は親会社フィアットのセルジオ・マルキオンネ会長が実権を握り、強権を発動する形で組織再編を果たした。

 その結果、2015年に技術面を統率して「跳ね馬復活の兆し」を築いたジェームズ・アリソン(現メルセデスAMG)は去り、パワーユニット部門出身のイタリア人マティア・ビノットが後任となってマシンを開発。当初、今季型SF70Hには不安の声もあったが、開幕前テストではそれを一掃する圧倒的な速さを見せつけた。

 昨年はチームの不振と迷走に苛立ちを爆発させる場面も少なくなかった4度の王者セバスチャン・ベッテルも、今年は一転してゴキゲン。2007年王者のキミ・ライコネンもようやく仕上がった自由自在に操ることのできるマシンに本来の走りを取り戻し、開幕前テストで最速タイムを記録した。今年はいよいよ、フェラーリ復活の狼煙(のろし)が上がるか。


フォースインディア・VJM10(4)フォースインディア
【ドライバー】セルジオ・ペレス(27歳・メキシコ)/エステバン・オコン(20歳・フランス)

 インドの実業家ビジェイ・マリヤがオーナーを務めるインド国籍のチームだが、もともとは1991年にF1参戦を開始したジョーダンが前身で、本拠は英国シルバーストンに置いている。チーフデザイナーは羽下晃生(はが・あきお)、タイヤ運営を担うビークルサイエンスシニアエンジニアは松崎淳(まつざき・じゅん)と、日本人エンジニアが中枢で活躍するチームでもある。

 トップチームと比べれば年間活動予算は圧倒的に少ないが、効率のいい開発と運営で年々ポジションを上げ、2度の表彰台を獲得した昨年はついに3強に次ぐランキング4位まで浮上してきた。浄水器メーカーBWT社と大型スポンサー契約を結び、マシンをピンク色に一新すると発表して世間を驚かせた(写真:テストでの走行時は前カラーリングのシルバー)。

 メキシコの通信企業テルメックス社から莫大な支援を受けてF1に飛び込んできたセルジオ・ペレスだが、現在では一発の速さだけでなくレース巧者ぶりも身につけ、高い評価を得ている。7度の表彰台獲得という実績が物語るように、運を引き寄せる力を持っているのも実力のうち。

 昨年後半にマノーでデビューのチャンスを与えられたエステバン・オコンは、メルセデスAMGの秘蔵っ子。2015年にはGP3王者、その前はユーロF3でマックス・フェルスタッペンを下して王者についた逸材だけに、競争力のあるマシンでどのような戦いぶりを見せるのか期待が集まる。


ウイリアムズ・FW40(5)ウイリアムズ
【ドライバー】フェリペ・マッサ(35歳・ブラジル)/ランス・ストロール(18歳・カナダ)

 今年でF1参戦40周年を迎える名門ウイリアムズだが、サー・フランク・ウイリアムズ代表による前身でのF1活動も含めれば1969年からという、さらに長い歴史を持っている。プライベーターゆえに最後の勝利は2012年(スペインGP/パストール・マルドナド)、タイトルは1997年以来遠ざかってはいるが、それでも表彰台に絡む力を維持しているのはさすが。昨年は史上最速1.92秒のピットストップを実戦で実現させてもみせた。

 現在はフランク御大の娘クレアが副代表を務め、メルセデスAMGから移籍したパディ・ロウが技術部門のトップに就いて組織を再構築するとともに経営陣入り。さらなる名門復活に向けて、テコ入れを始めたばかりだ。

 新人ドライバーとしてカナダの大富豪の息子ランス・ストロールを迎え入れ、資金的にも余裕が生まれたが、開幕前テストでは焦りからかミスも目立ち批判を浴びた。一方でエースとなるはずだったバルテリ・ボッタスがメルセデスAMGに引き抜かれることとなり、一旦はシートを失ってF1引退を決めていたフェリペ・マッサをチームの牽引役として呼び戻すことに。ベテランとしての経験が買われたマッサの責任は重大だ。


マクラーレン・MCL32(6)マクラーレン
【ドライバー】フェルナンド・アロンソ(35歳・スペイン)/ストフェル・バンドーン(24歳・ベルギー)

 かつて1990年前後に黄金期を過ごしたホンダとの伝説のタッグ復活から3年目となったが、開幕前からきな臭い雰囲気が漂っている。1966年からF1に参戦する名門マクラーレンは、1981年からロン・デニスの支配下となったが、そのデニスが昨年のお家騒動の末に失脚。マシンを1960年代の伝統色オレンジに戻し、車名もデニス時代の「MP4-XX」を捨て「MCL32」として再出発を切った。だが、リーダーシップ不在のためか、パートナーのホンダ批判や提携解消がメディアで報じられるなど混迷を深めている。

 技術部門に大きな変化はないが、2013年にパディ・ロウが去ってからは明確な方向性を提示するリーダーの不在が続く。レッドブルの空力部門からピーター・プロドロモウを獲得したものの、ニューウェイ路線の模倣がうまく機能しているとは言いがたい。最後の勝利は2012年(ブラジルGP/ジェンソン・バトン)、タイトルからは2008年を最後に遠ざかっている。

「当代一の名手のひとり」と評価されるフェルナンド・アロンソが宝の持ち腐れと言われているが、彼自身マクラーレン、ルノー、フェラーリを渡り歩いても2006年の戴冠を最後に成功は掴めていない。圧倒的な強さで2015年のGP2を制した「秘蔵っ子」ストフェル・バンドーンがついにフル参戦デビューを果たし、彼が名手を相手にどこまで速さを見せるのかにも注目が集まっている。


トロロッソ・STR12(7)トロロッソ
【ドライバー】ダニール・クビアト(22歳・ロシア)/カルロス・サインツJr(22歳・スペイン)

 イタリア語で「赤い牛」という名前が示すとおり、レッドブルがオーナーを務める姉妹チームだが、1985年からF1に参戦していたミナルディという誰からも愛されるイタリアの小チームが母体。空力部門以外は今もイタリアのファエンツァに拠点を置いている。

 ザウバーで2011年・2012年に優れたマシンを生み出したジェームズ・キーをテクニカルディレクターに据え、再編した技術部門の評価は高い。2017年は新規定下で王者メルセデスAMGと同じ空力コンセプトを採用し、周囲を驚かせた。

 レッドブル傘下だけにドライバー選定権はチームになく、同社の育成ドライバーが次々と送り込まれてくる。昨年はシーズン途中でマックス・フェルスタッペンがレッドブルへと”昇格”となり、不振のダニール・クビアトを再度引き受ける形となったが、見事に再起を遂げさせた。偉大なWRC王者を父に持つカルロス・サインツJrもフェルスタッペンと同等の走りを見せていたが、後半戦は奮起してさらなる成長を遂げた。

 かつては「ミナルディのパスタがパドックで一番!」と言われたが、現在はレッドブルと同じオーストリアのケータリング会社が食事を提供するようになっている。


ハース・VF-17(8)ハース
【ドライバー】ロマン・グロージャン(30歳・フランス)/ケビン・マグヌッセン(24歳・デンマーク)

 2016年にF1参戦を開始したアメリカの新興チームだが、フェラーリと幅広い技術提携を結んでおり、初戦から2戦連続で上位入賞を果たすなど、新チームとは思えないほどの実力を備えている。

 アメリカの工業用工作機械でシェアナンバーワンを誇るハース社の創業社長ジーン・ハースが、趣味と自社のPRを兼ねてNASCARに続きF1に参戦。ロータスで実績のある小松礼雄(こまつ・あやお)がチーフエンジニアとして技術・レース運営面を統括する。

 車体開発はフェラーリやイタリアのコンストラクターであるダラーラと提携しており、チーム設備面でもフェラーリと共通点が少なくない。当初はスタッフ数が十分に確保できず、不眠不休で開幕に間に合わせたこともあったが、昨シーズン中に人材確保が進み、チーム体制の強化も図られている。

 ロマン・グロージャンはかつて「壊し屋」の汚名を着せられたこともあったが、精神的に落ち着いてレースをすることができるようになったここ数年は、速さと安定感が評価されるようになってきた。本人は「それでも、わめいている無線ばかりが取り上げられる!」と不満のようだ……。マクラーレン、ルノーと渡り歩いたケビン・マグヌッセンが新たに加わり、ドライバー面でも強化が図られた形となった。


ルノー・R.S.17(9)ルノー
【ドライバー】ニコ・ヒュルケンベルグ(29歳・ドイツ)/ジョリオン・パーマー(26歳・イギリス)

 ワークス復帰2年目となるルノー。準備期間が十分でなく旧型車を使わざるを得なかった昨年は、シーズン全体を次季に向けた準備にあて、2017年に照準を合わせてきた。かつてトールマン、ベネトン、そしてルノーやロータスとして数々の成功を収めてきた英国エンストンのチームが母体となり、復活を目指す。

 しかし、昨年チーム代表として加入したフレデリック・バスールが方向性の違いを理由に突然離脱するなど、首脳陣の運営方針にはやや不安も残る。技術面ではルノーやメルセデスAMGで技術責任者を務めたボブ・ベルが指揮を執るものの、財政難のロータス時代に他チームから引き抜かれず残留したスタッフが依然として中心。人員増強は進めてきたとはいえ、期待どおりの効果を上げられるほど予算は潤沢とは言えなかったようで、こちらもやや不安がある。

 エースドライバーには、フォースインディアから実力派として定評あるニコ・ヒュルケンベルグを獲得。元F1ドライバーの敏腕マネージャーを父に持つ2年目のジョリオン・パーマーとのコンビとなるが、ふたりともに表彰台経験がないのは、若手中心のトロロッソやザウバー以外ではルノーだけだ。


ザウバー・C36(10)ザウバー
【ドライバー】マーカス・エリクソン(26歳・スウェーデン)/パスカル・ウェーレイン(22歳・ドイツ)

 F1参戦25周年を迎えるザウバーは、スウェーデンのテトララバル社(本社所在地はスイス)を中心とした投資ファンドの買収によって、ここ数年の低迷の原因となっていた資金難を脱出。緩やかな復調カーブを描こうとしている。資金難の間に続いた人材の流出に歯止めをかけ、今季は昨年型フェラーリ製パワーユニットを使うことで効率的なマシン開発に専念し、来年のさらなる飛躍につなげようという構えだ。

 チーム創設者であるペーター・ザウバーは引退したが、弁護士の資格も持つモニシャ・カルテンボーンはチーム代表兼CEOの職にとどまり、ヨルグ・ツェンダーをWECに参戦していたアウディからテクニカルディレクターとして迎えた。

 マーカス・エリクソンは母国スウェーデンからの資金的支援もあり、在籍3年目を迎えることになった。F1以前は2009年に全日本F3選手権で王者になっており、彼のマネージメントを担うエイエ・エルグもかつて全日本F2選手権やF3000選手権に参戦するなど、日本とのつながりが深い。チームメイトには、メルセデスAMGの育成ドライバーであるパスカル・ウェーレインがマノー消滅に伴って加入。強敵を僚友に迎え、エリクソンにとっても正念場となるだろう。