蒼井翔太「今の僕を、全力で生かせる場所を見つけた」――新たな『人魚姫』の物語への挑戦
声優や歌手として大活躍の蒼井翔太が持つ、もうひとつの顔が俳優。昨年、大反響のなか幕を閉じた主演舞台It’s SHOWTA-im! Vol.1『PRINCE KAGUYA』の第2弾『スマイルマーメイド』が、12月1日から上演される。人魚に扮した美しいビジュアルも公開直後から話題を呼んでいた本作。蒼井自らが提案したという、物語の世界観とは――? まずは『PRINCE KAGUYA』の思い出からじっくり語ってもらおう。

撮影/アライテツヤ 取材・文/花村扶美
スタイリング/石山貴文 ヘアメイク/板津勝久(raftel)
衣装協力/meagratia(メアグラーティア:Tel.050-3636-4615)、Palnart Poc(ブラフシューペリア:Tel.03-6418-7223)


「常日頃から、人を観察することが好き」



――昨年11月に蒼井さん主演の舞台『PRINCE KAGUYA』が上演されました。日本人なら誰もが知っている『かぐや姫』が題材でしたが、なんと“かぐや姫が実は男だった”というユニークな設定でした。今振り返ってみていかがですか?

まずは、たくさんの方々に見ていただけたことがすごくうれしかったです。DVDを購入して今も見てくださっている方もいらっしゃるので、もう感謝しかありません。みなさん目をキラキラ輝かせて、女性のお客さまもどこか少年のような情熱を持って見てくれているように感じました。それと、総勢13人くらいのカンパニーだったんですが、場の転換も自分たちでやりながら、各々の役をしっかり演じ切れたなと思います。

――公演を重ねるごとに、チームワークも強くなっていった?

そうですね。演者さんひとりひとりの意識が高かったからこそ、この人数で乗り越えられたし、チームワークや絆も強くなっていったんだと思います。……あと、カグヤを演じて思ったのが、“こういう役って今しかできないな”って。

――と言うと?

僕、蒼井翔太もみなさんと同じ人間ですから、1年ずつ年を取っていくわけです(笑)。体つきも年々男らしくなっていきますし、顔にもシワが増えてきます。来年30歳になりますが、果たして40歳、50歳でできるのか…と考えたときに、きっと今しかできないだろうなって。

――なるほど…。でも、本当にとってもキレイでした!

ありがとうございます(笑)。蒼井翔太しかできないことだし、今の僕を全力で生かせる場所を見つけたと実感しました。

――カグヤは、男性であることを隠して女性として生きていましたが、女性らしい所作などに苦労しませんでしたか?

“カグヤは男だった”という設定だったので、女性らしい所作を完ぺきに演じ切る必要はないだろうと思いながらも、自分の考える女性の所作というものを形にしてみました。僕、常日頃から、女性に限らず、人を観察することが好きなんです。



――観察!?

このあいだも、OLさんたちがランチしている姿を、ちらっと横目で見ていたんですけど……。

――気づいたことなどありましたか?

パスタをくるくるっと巻いた後、フォークを口に運んでいくんじゃなくて、顔を軽く傾けて顔のほうから近づけていく。そのとき、もう片方の手はテーブルに添えてる……とか。そういう動きに目が行っちゃうんですよね(笑)。

――観察眼が鋭いですね。でも、最近の女性って、仕草が男っぽくなったと思いませんか?

あ、それは感じますね。電車に乗っていると、見ず知らずの方なんですが、親心のように(小声で)「足閉じなさい!」って言いたくなるときがあります(笑)。

――(笑)。『PRINCE KAGUYA』の話に戻るんですが、カグヤは男性でありながら男の人を好きになってしまいますよね。でも、なかなか相手へ思いを伝えることができずにいました。そういう感情を押し殺す演技は難しくなかったですか?

“自分は男なんだけど、好きになった人も男で…”という今まで経験したことのない複雑な感情だったので、そこを表現するのは難しかったです。感情を殺しながら、見ている人たちには苦悩しているところを伝えなくちゃいけなかったですから。

――そのシーンは、見ているこちらも切なかったです。でもシリアスなシーンもあれば、笑わせるところは笑わせるというコメディ要素もあって、エンタテイメントとして楽しい舞台でした。

女性らしい高い声のトーンでやさしく語りかけていたと思ったら、驚くシーンでは「うぉー!」って男の子に戻っちゃったり(笑)。アドリブを入れても全然OKだったので、僕も楽しみながらやってましたね。




「水が大の苦手。だからこそ海の世界に憧れる」



――大好評で幕を閉じた『PRINCE KAGUYA』でしたが、12月1日からは 第2弾の主演舞台『スマイルマーメイド』が上演されます。今回も有名なおとぎ話である『人魚姫』の話が題材になっているんですよね。

はい、そうです。

――今回は、蒼井さん自身がマーメイドをやりたいとお話されたそうですね?

『PRINCE KAGUYA』が終わったときは、次回作がどうとか具体的な話はまだなかったんですけど、もし第2弾のお話をいただけたら、自分からも提案できるようにと考えていたんです。

――なぜ人魚だったんですか?

海の中で生活してみたいという願望もあったし、昔のおとぎ話に出てくる姫君を演じたいという“蒼井翔太イズム”とがいろいろ混ざりあって、人魚を演じたいという気持ちになりました。……でも実は僕、水が大の苦手でプールにも入れなくて。潜れないし泳げないし顔を水につけられない(笑)。

――子どもの頃に溺れたことがあるとか…?

そういう記憶はないんですけどね。どうしてなんだろう……。

――水が苦手だったら、水族館へ行ったこともないんですか?

いえ、水族館はガラス越しだから大丈夫なんです。でも、ときどき息が止まっちゃうことがあって……。海の美しさに吸い込まれていって、息をするのを忘れてしまうときがあるんです。

――もしかして、蒼井さんの前世は人魚だったりして…?

あははは。もし本当に海の中で生活できたら、あんなキレイな風景をずっと見ていられるんですよね。海の世界、憧れちゃいます…!



――今回の舞台『スマイルマーメイド』では、最後の生き残りとなった人魚・マリナを演じられます。マリナの歌が持つ不思議な力に引き寄せられて、青年・ケントが海中へ落ちてしまい、そのときに彼を救ったマリナが彼と恋に落ちる……という話ですが、蒼井さんはもともと『人魚姫』にどんなイメージを持っていますか?

僕、小さい頃から『人魚姫』の物語が好きでした。童話の『人魚姫』は、王子様に命を助けたのは自分だと伝えられず、最後には泡となって消えてしまう、切なくて儚いストーリーですよね。

――誰にも気づかれることなく泡となって消えるなんて、悲恋ですね。

人魚姫はずっと孤独との闘いだったと思います。人魚姫の気持ちを考えると、胸が苦しくなりますね。でも、なかには王子様と結婚してハッピーエンドで終わるというお話もあるんですよ。

――ディズニーの『リトルマーメイド』のお話もそうですよね。

『リトルマーメイド』は僕も大好きです。『人魚姫』には幾通りものストーリーがあるからこそ、エンディングがどうなるか想像力がかきたてられるんです。今回の舞台の脚本も、僕が想像するエンディングにしていただきました!

――ご自分から監督にストーリーをお話されたんですか?

はい、でも提案するのはちょっと恥ずかしかったです(笑)。監督にも自分が思い描くエンディングがあったでしょうし、そこで自分の意見を言わせていただくわけですから……。

――監督の反応はいかがでしたか?

「おもしろいね」って言っていただけたのでホッとしました。「この部分はこうしたらどうだろう?」とアイデアを出していただいたり。

――結末はまだヒミツですよね?

ふふふっ。昔ながらの物語でもなく、夢の国のマーメイドさんのお話ともまったく違ったストーリーになっていますので、お楽しみに!(笑)



「笑顔というキーワードは、僕にとってすごく大切」



――キービジュアル撮影の様子もお伺いしたいんですが、どういう撮影だったんですか?

水が苦手なので10分と時間を決めて臨みました。上半身裸で水に浸かって「これは水じゃない、水じゃない」って言い聞かせながら(笑)。

――人魚になってみた感想は?

僕もついに人魚になれたんだ!って思いました(笑)。なれないものになれるっていうのは、役者としての醍醐味ですよね。ちなみに、キービジュアルでは尾ヒレが見えてますけど、舞台上ではまた違う尾っぽになるんですよ。

――蒼井さんの人魚姿を見た人たちから、「美しすぎる!」という声がたくさんあがっていましたね。

ありがとうございます!! 頑張ってハラハラしながら撮った笑顔でございます(笑)。

――「美しい」という声を聞いたときはどう思われましたか?

……最初は、蒼井翔太のただの自己満足なんじゃないかと不安もあったんです。僕の提案から始まった企画ですし。だけど、みなさんのそういう声を聞くと“ああ、僕がやりたいと思っている題材で間違いなかったんだ”と安心しました。もちろんプレッシャーもあるけど、気合いを入れ直すというか、120%以上の感動を届けたいという気持ちがさらに強まりました。



――逆に、蒼井さんが美しいと思うのはどんな人ですか?

笑顔の人かな? 笑顔というキーワードは、僕にとってすごく大切です。外見の美しさに気を使っている女性は多いと思うんですけど、内面の美しさって、心や何かに対する姿勢から滲み出てくるものなんじゃないかと。取りつくろった笑顔は本当の美しさではないですよね。

――たしかに、内面の美しさって外見にあらわれますね。

そうですよね。僕、わかっちゃうんです、作り笑顔をしている人って。さっきも話しましたが、つい自然と相手の表情や動きを見ちゃうんですよね。

――その“観察好き”は昔からですか?

僕、大人になるまで、自分のことに興味がなかったんです。でもこのお仕事をするようになって自分磨きもしなくちゃって思ったときに、素敵な人を見てこういうところをマネしよう、参考にしようと思って観察するようになりました。

――なるほど。

観察するようになって、初めて会う人にも人見知りをしなくなりました。たとえば、初めて会ったときと比べて髪の色が変わっていたり、短くなっていたり、そういう変化に気づいて話しかけるだけで、相手の方がうれしそうにしてくれるんですよね。メイクさんにも「この前は筆でお化粧してくれたのに、今回は手で塗ってくださってますよね」とか、そういうところを見ちゃう(笑)。観察すればするほど、話すキッカケが増えていきますね。

――たしかに、細かいところに気づいてもらえるとうれしい……。蒼井さんの“人間観察”はとってもポジティブなんですね。

わぁ、そう言ってもらえると僕もうれしいです。話のとっかかりは小さなことでも、そこからどんどん話が広がっていく。コミュニケーションを取るうえで、相手のことをよく見るって、すごく大切なことだと思うんです。



「この声で生まれてきたことに、感謝と誇りを」



――7thシングル『DDD(トリプルディー)』のカップリング曲に、『スマイルマーメイド』のテーマソング『Endless Song』が収録されています。人魚の物語をテーマにした楽曲らしく、波の音と幻想的な歌声から始まる印象深い曲ですね。

海のやさしさや激しさがサウンドで伝わる楽曲になってますよね。出だしはやさしい波の音とともに海の中から人魚の歌声が聞こえて来るイメージが広がって、聴いている人を海の世界へ連れて行ってくれるような……。今から何かが始まるぞっていう壮大な曲に仕上がったと思います。ハープを入れてもらったり、僕の意見も採用していただきました。

――今回のレコーディングで、苦労したことはありますか?

コーラスもすべてやらせていただいたんですけど、最初のキーより一音上げて歌ってるので、コーラスのパートがそのぶん高くなっちゃってかなり苦労しました。あと、今回は声楽的な歌い方をさせていただいたので、激しい曲を歌っているときの蒼井翔太の歌い方とは違っているのも聴きどころです。

――少年の声から艶のある女性の声まで、幅広く出せる蒼井さんならではの透明感ある歌声でした。

ありがとうございます。この声で生まれて来たことを誇りに思います。



――以前は、ご自身の声にコンプレックスを持っていたそうですね?

はい、でも今は本当に宝物ですね。自分でも磨いてはいるんですけど、何よりも皆さんがこの声を好きって言ってくださることが、僕の声に一段と磨きをかけていると思います。応援してくださってる方にはもう感謝してもし尽くせないので、お墓に入るまで感謝していく所存でございます(笑)。

――ファンのみなさんに足を向けて寝られないぞ、と。

向けられません!! なんなら立って寝たいくらいです(笑)。

――ぜひ『Endless Song』を聴いてから、舞台を観てもらいたいですよね。

はい! 舞台を見ていただいた後に改めて『Endless Song』を聴くと、全然違う内容に聴こえると思います。

――なんと。舞台を見る前と後とでは、楽曲のイメージが変わるんですか。

そうなんです。見る前に想像していたスマイルが、まったく違うスマイルだったりする可能性があるので、ぜひ、主人公の人魚の笑顔がどういう意味を持っているのか、見届けに来ていただけたらと思います。



――ところで以前、ある雑誌のインタビューで「欲しいものは何ですか?」という質問に「人魚の肉」と答えてらっしゃったんですけど…。

あははは、答えたかも(笑)。

――なるほどって思いました。不老不死は多くの人の願いだったりしますから。

ですよね。僕もたくさんの人たちに出会って、ファンの方たちに応援していただいてることに幸せを感じるので、ずっと今の状態が続いたらいいなって思ってしまうんです。ただ自分だけ年も取らずに生き続けるのは、本当に苦しいことだと思うし、覚悟も必要だと思います。できればみんなとずっと一緒にいたいので、僕だけじゃなくて「みんなで人魚の肉を食べようぜ!」という気持ちです(笑)。

――人魚の肉以外で、欲しいものはありますか?

あまりに現実味がなさ過ぎましたね(笑)。そうだなぁ。実現できるかはわからないけれど、ファンのみなさんと旅行に行きたい願望があるんです(笑)。

――実現できたら、ファンの方も大喜びですね。

あと、これも現実味がないんですけど、僕、飛行機が苦手なので、飛行機に乗らなくても遠くまで行ける乗りものが欲しいです。まだ会ったことのない海外のファンの方や、各地で応援してくださっている人たちのところへ僕のほうから会いに行きたいんです。

――飛行機、怖いですか?

飛行機に乗る前日に『ファイナル・ディスティネーション』っていうホラー映画を見るからダメなんですよね。自分でもわかってるんです。そういうバカなところが僕にはあります(笑)。