マックの株価、「株主優待」なけりゃ暴落? 市場が注目する「悪材料出尽くし」の2016年
日本マクドナルドホールディングス(HD)の個人株主が楽しみにしている「株主優待券」の行方が注目されている。
業績不振で揺れる同社だが、なぜか株価だけは2015年の1年間を通しても比較的高値で推移してきた。その理由の一つに、多くの個人投資家が「株主優待券」を目当てに買っているから、との見方がある。
「赤字決算」「閉店ラッシュ」でも年初来高値を更新
日本マクドナルドHDの株価は2015年12月8日に3070円を付けて、年初来高値を更新した。
中国での使用期限切れの鶏肉問題や商品への異物混入をきっかけに起った深刻な客離れなどによって、2015年1〜9月期連結決算で292億円の最終赤字(前年同期は75億円の赤字)を計上したことや、12月末までにピーク時(2002年)に3890か店もあった店舗を、一気に2900店舗台にする閉店ラッシュにもかかわらず、なぜか株価だけが高い評価を維持してきた。
ある個人投資家は、「膨大な赤字が続くなか、再建のために今後多くのリストラ費用が必要になる会社の株価が、過去10年の最高値になるのは異常だ」としたうえで、「たとえ今後の再建がうまくいくとしても、ここは一度売却しておきたいと考えるのが自然」という。
その一方で、「買い」を推奨する声がないわけではない。ある証券会社の関係者はマック株の目標株価について、「当分は3000円台前半で推移する」とみている。その理由が「株主優待」。以前から、マック株が下がらない(売られない)理由の一つとして、株主優待の存在があるとの見方は少なくなかった。
たしかにマック株は、認知度が高く、株主優待が付いて30万円程度で購入できるので、証券会社も「初心者向け」として推奨する銘柄ではある。NISA(少額投資非課税制度)もあって、「買いやすい」土壌が生まれたともいえる。
また、個人株主の多くが配当や株主優待をもらって株価が上がるのを待つという、長期投資のスタンスが多いことも背景にある。
そもそも株価が下がるのは、その株式が売られるからだ。どんなに業績が悪化しても、株式が売られなければ株価は下がらない。マック株は、米マクドナルドと27万人もの個人株主が発行済み株式の9割近くを保有しており、浮動株が少ない。短期の投資目的で売ったり買ったりされる株式の量が少ないので、悪材料が出ても大きく下落することがない。
そんなマック株を長期保有しているのが個人株主で、その目的が全国のマクドナルドで、商品が無料で購入できる「お食事券」(100株で1冊)がもらえる株主優待にあるというわけだ。
米本社の株売却報道、権利確定後に動き出した株価
そうした中で、日本マクドナルドHDの筆頭株主として、約50%を保有する親会社の米マクドナルド(本社)が、マック株を最大33%売却することを検討していることが2015年12月22日に伝えられた。大手商社や投資ファンドに打診しているという。
さすがに、同日のマック株は、前日比231円安の2712円と急落。しかし、それでも年初(1月5日)の2612円を上回る水準にあった。
マックの株主優待の権利確定日は毎年12月31日。3営業日前に購入しておかないと権利を得られないので、2015年は12月25日にマック株を保有していないと、株主優待は受けられない。
「権利取り」に向けて、株式が買われたとみられていたほか、赤字決算の発表や相次ぐ閉店で、「悪材料が出尽くした」との見方もあって高値で推移していたとみられる。
そのせいか、権利取りがすぎた28日のマック株は前日(25日)比53円安の2590円で引けた。年初来高値を付けた8日からは15.6%の下落だ。
一般に、赤字経営の中で配当金や株主優待にかかるコストは、まず削減されてもおかしくない項目のはず。
気になる個人株主への株主優待について、日本マクドナルドHDに聞くと、「(優待内容の変更を含め)現時点で、変更の予定はありません」と話す。
一方、大和インベスター・リレーションズの「株主優待 2015年版」によると、株主優待を実施している企業は年々増え、現在は上場企業3600社のうち、食品や小売業を中心に1150社にのぼるという。しかも、長期保有を優遇する傾向にある。
日本マクドナルドHDにしてみれば、株主優待を「やめる」ことで個人株主の「離反」を招き、それが株価急落の引き金になるほうが心配なのかもしれない。