香川真司の好不調を見極めるのはなかなか難しい。今季、ドルトムントの試合で見せる香川のパフォーマンスは、それはそれは輝いている。出場すれば必ず得点には絡むし、前線の選手が相次いで交代した試合終盤でも走り回り、自ら得点する。走行距離だけでなく、1対1での勝率も高く、目下ブンデスリーガ首位のチームを牽引する。

 一方、先のカンボジア戦での香川はこれまでの日本代表戦でのパフォーマンスと変わらなかった。2013年、14年は所属クラブでの成績もプレーも振るわなかったから、代表でぱっとしなくても仕方がないとの見方もあった。それだけに今回こそ、と期待は膨らんだが、そうはいかなかった。やはり代表仕様の香川だった。

 ドルトムントでの香川は、トゥヘル新監督からかなりの部分で「任せられている」。4−2−3−1から4−3−3へとシステムが流動的に変化する中で、「自分で判断して中盤か前かを決めろ」というのが大筋の指示だという。つまりインサイドハーフ的に前線の3枚を生かすこともあれば、1列前でプレーすることもある。それは相手の守備の陣形や時間帯によって変化する。これにより、4−2−3−1のトップ下に固定され、セカンドトップとして高い位置でプレーし、得点に直接絡むことを求められていた時期のフラストレーションはなくなった。

「実質3トップ」と香川が呼ぶ、ロイス、オーバメヤン、ミキタリアンの3枚を生かす中で、自分が使われることも考えられる。意外な視野の広さも再発見できた。指揮官の采配は香川を得点への呪縛から解き放ち、自由をもたらし、楽にした。「得点したい」という意味で「結果を」と連呼することが最近ではなくなった。

 だが、日本代表でははっきりとした4−2−3−1のトップ下だ。前に飛び出し、アシスト、もしくは得点することが最優先課題である。「ドルトムントとここでは求められていることが違う。もっと攻撃的に前へ行くこと」をハリルホジッチからも求められた。だが、ゴールに近い位置にいれば得点が決まるというものでもない。

 カンボジア戦、香川にも前半からチャンスは多くあったが決められなかった。40分にはエリア内やや左からドリブル、シュートに持ち込むが、これはGKの正面へ。ボールは岡崎の目の前にこぼれたが、シュートは枠の外へ外れた。42分には「必ず決めなきゃいけないチャンス」と自ら振り返る決定的なシーンを外した。ゴール前で左の武藤からラストパス。これをシュートとも折り返しともつかない中途半端なプレーで、GKに防がれてしまった。

「自分が慎重にいき過ぎて、硬くなっていたと思うんですけど、あってはいけないミス」と、香川は厳しい表情だった。トップ下で得点に固執し、ゴール前で硬くなってミスをするのは、今までと同じパターンだ。

 61分には自ら得点を決め、結果は3−0に。シンガポールが4−0で勝った相手、つまり日本は後々の得失点差を考えても大量得点で勝利したかった相手に対して、物足りない勝利に終わった。

 いつもであれば自身の得点に満足感を示す香川だが、この日は「勝てたことに対してはほっとしている」と、厳しい表情を崩さなかったのが印象的だった。

 得点と勝利に固執し、「硬くなってしまった」ことが低パフォーマンスの一因ではあるだろう。他の選手たちからも、「負けるわけにはいかない」という精神的なプレッシャーは感じられる。だが、それさえ払拭されれば良いのだろうか。

 あるいはドルトムントでの香川に見られたように、起用法を少し変えることでパフォーマンスががらっと変わる可能性もあるのではないか。いずれにせよ香川のパフォーマンスは日本代表の行く末を左右するだろう。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko