これはすでに現存しない3つのものについて書かれた本である。1つは近世から日本に存在していた武道の系譜、古式柔術と呼ばれるものだ。もう1つは、その古式柔術の流れが絶えたことによって失われた技術である。そして最後の1つは、木村政彦という不世出の武道家の肉体、そして彼が体現していた精神だ。なぜそれがこの世から消え去ったか。答えは簡単である。歴史とは勝者によって綴られるものであり、その意に染まないものは消