「文學界 7月号」(文藝春秋 編) うゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす 一 この街は、あの震災から十二年目の年を迎える。春が来る。靖国神社に、千鳥ヶ淵に、英国大使館前に、桜の花が満開だった。わたしは、小学校一年生になる。お祝いつづきの春だった。桜の花が咲いて散る。 バラ模様のレースショールと揃いのパラソルに絹の手袋。淡いコバルトにクリーム色を重ねた春の野の裾まわし