アンリ・ルソー 「X氏の肖像(ピエール・ロティ)」1906年 (C)2014 Kunsthaus Zurich. All rights reserved.

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ヨーロッパ有数の美術館、スイス「チューリヒ美術館」のコレクションを初めてまとめて日本に紹介する展覧会が2014年9月25日から12月15日まで東京・六本木の国立新美術館で開かれている。

モネの大作からセザンヌ、ゴッホ、ルソー、シャガール、ダリ、ジャコメッティなど、日本の美術ファンには特に人気がある作家の約70点がよく工夫された展示形式で紹介されている。

近現代美術コレクションが充実

世界で最も住みやすい街、とか、ヨーロッパでもっとも裕福な都市と言われるチューリヒは、スイス北部のドイツに近い地域にある。人口40万人ほど。治安がよく教育や文化のレベルが高いことで知られる。銀行や生損保、投資会社が集まり、世界有数の金融センターとしても有名だ。その名を冠した生保や保険会社は日本でもよく知られている。

1910年に設立されたチューリヒ美術館は、そうした「富」をバックに中世美術から現代アートまで10万点以上の作品を所蔵。特に19世紀の印象派以降の近現代美術コレクションは高く評価されている。その運営は市だけでなく、約2万人のチューリヒ芸術協会の会員によっても支えられている。2017年には新館を完成させてスイス最大の美術館となる予定だ。

「巨匠の部屋」や「時代の部屋」

今回の展覧会では、そうした同館の誇るコレクションを、美術史の流れを踏まえながらわかりやすく見せることを心掛けている。アイデアの一つが、「巨匠の部屋」だ。

たとえば「モネの部屋」では、横幅6メートルの大作「睡蓮(すいれん)の池、夕暮れ」に、もみわらや国会議事堂を描いた作品を合わせ、同じ空間で見ることでモネの世界をたっぷり体感できるようにしている。「シャガールの部屋」では、初期から晩年まで、各年代を代表する6作品を並べ、画風の変遷を見渡せる仕掛けだ。

スイスにゆかりのココシュカ、クレー、ジャコメッティも特集し、さらには美術の運動や流派をまとめた「時代の部屋」も設けている。「ポスト印象派の部屋」では、セザンヌ最晩年の傑作「サント=ヴィクトワール山」やルソーの肖像画、ドガのパステルやゴッホの風景画など、この時代を代表する作家たちの人気作が並ぶ。「キュービスムの部屋」にはピカソやブラックの静物画、「シュルレアリスムの部屋」にはミロ、キリコ、ダリの作品という具合だ。

いずれも、それぞれの作家の全盛期の作品ばかり。美術史に残る名品の素晴らしさだけでなく、スイスの経済力と「裕福な都市」に住む市民たちの審美眼にも驚嘆することになりそうだ。