2014教育サービス・フランチャイズ動向【後編】/今野 篤
多様化する教育に応じて、フランチャイズの選択肢も個別指導一本から複数パッケージを選択できるようになってきた。英会話英語教室や民間学童に加えて、新たに理科実験や科学教室、そろばん、サッカーまで加わり、新しい教育FC市場を形成中である。

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多様化する教育FCパッケージ

 現在、子供向けの教育サービスフランチャイズ(FC)は、確認できるもので80本部ほどある。その内訳は個別指導FCが約50、それ以外の学習教室、幼児教育、英会話・英語教室、民間学童FCが30ほどある。今もなお、教育サービスFCは増え続けており、これは時代の新しいニーズを反映した結果だと言える。FC企業による新たな教育パッケージは大手を中心に年々増えており、その関係はかなり入り乱れてきている。

■学習教室

 公文式(日本公文教育研究会/大阪)が16,800教室、学研教室(学研エデュケーショナル/東京)が14,000教室、ECCジュニア(ECC/大阪)が10,000教室と、個別指導塾と比べて教室数が桁違いに多い。これは個別指導に比べて、対象とする生徒の年齢層が低く、商圏は小学校の学区で設定されることが多いからだ。そのために教室そのものがコンパクトに設計されており、自宅で開校(開業)する教室も少なくない。

 しかし近年、より小型なマーケットを狙う個別指導型FCも登場し、その境界は狭まりつつある。また、ガウディア(ガウディア/神奈川)などのように、学習塾と併設するタイプの学習教室も増えている。すばるキッズくらぶ(昴/鹿児島)は、鹿児島県を中心に九州全域を対象とし、今後は50教室の開校をめざす。

■予備校

 東進衛星予備校(ナガセ/東京)は、映像配信システムとFC方式を用いた大学受験予備校で、現在約800校の校舎を展開。代ゼミサテライン予備校(高宮学園/東京)は400校、後発の河合塾マナビス(河合塾マナビス/東京)も、同様の方式でFC展開をしている。

 これらの予備校の講義は、通信衛星やインターネット回線を利用して、全国の加盟校に送信するシステムを用いて行う。さらに高速のインターネット回線を用いることで、オンデマンドによる映像授業サービスを提供できるようになった。

 河合塾マナビスは設立6年で150教室を達成、既存の予備校とは対照的に、映像コンテンツを使った予備校市場は、隠れた成長市場と言えるだろう。反面、リクルート受験サプリのような低価格もしくは無料化した映像コンテンツ・サービスが多く出回ってきており、FCパッケージが差別化できていないと、たちまちマーケットを失いかねない。

 その他、ユニークな学習メソッドを持つ武田塾(A.ver/東京)が、今年から本格的にFC展開を開始。既に首都圏を中心に十数教室を開校しており、今後出店ペースは加速しそうだ。その動向に注目が集まっている。

■幼児教室

 就学前の児童を対象とする知育教育は、右脳教育の七田チャイルドアカデミー(七田チャイルドアカデミー/大阪)や作文道を柱に幼児と小学生の心と学力を育てるナーサリー(東京こども教育センター教室/東京)、エンジェルコスモ(エンジェルコスモ/静岡)が以前からFCを展開中。

 幼児教育市場は約650億円で、お受験と知育教育のスクール比率は約1:4。近年は母親の学歴の向上に伴い教育熱心な家庭が増えたことと、少子化による市場の縮小により顧客層の低年齢化が進み、幼児教育に進出する企業が増えてきた。それに伴い、昨今、知育教育のFC化が進んでいる。

 主なブランドでは0歳時からの幼児教室を展開するコペル(コペル/福岡)、米国発のグローバルな教育システムジンボリー(キッズラーニングネットワーク/東京)、母親が生徒のTOEベビーパーク(TOEZ/東京)などが、近年FCに参入。

 大手塾からは、心と脳を育むチャイルド・アイズ(拓人/千葉)、アートスタジオのアブラカドゥードル(明光ネットワークジャパン/東京)などがFC展開をしている。

■英会話・英語教室

 2011年の新学習指導要領の施行により、公立小学校5,6年生で外国語授業が必修化となった。また、2012年度から中学校でも英語の授業内容が改訂され、授業時間数、学習単語数が増加した。2013年より高校でも、英語授業のオールイングリッシュ化が図られる。さらに小学4年生から外国語授業が必修化される報道があったり、国際化を背景に英語教育に取り組む企業が出てきたりと、英語教育熱が再熱する雰囲気がある。

 矢野経済研究所によると、英会話・語学学校市場規模は前年度比3.3%増の2,965億円となった。幼児・子供向けは、英語教育の早期化傾向が強まるなか、2011年4月から小学校での英語必修化などが追い風となっているという。

 この動きに合わせて、東進こども英語塾(ナガセ/東京)が全国規模でFC展開中。また、アルク(東京)と明光ネットワークジャパンは、2011年7月の業務資本提携にともない、両社の強みをいかした新しい事業プランを検討し、子ども英語教室の明光アルク英語スタジオのFC展開を始めた。

 この他、1,200教室を展開するペッピーキッズクラブ(イッティージャパン/愛知)、栄光HDグループのシェーン英会話&留学(シェーンコーポレーション/東京)、アメリカンランゲージスクール(IBジャパン/千葉)などがひしめき合い、市場が再活発化してきた。

■民間学童型保育

 アフタースクールと呼ばれる民間学童型保育は、働く女性の増加に伴い、近年、参入する企業が塾外からも相次いでいる。

 厚生労働省発表による2013年学童保育の実施状況調査結果によると、学童保育数は2万1635か所(前年比789か所増)、入所児童数は88万8753人(前年比4万1786人増)と増加傾向にあるが、まだ不足の状態が続いている。政府は2017年度末までに利用児童を129万人に増やしたい意向があり、民間学童にとってビジネスチャンスにもなる。

 FCで先行しているのが、バイリンガル学童保育タイプのkidsDUO(拓人/千葉)であり、FC展開で1000教室を目指す。学童クラブの機能を兼ね備えた長時間預かり型学習塾の明光キッズ(明光ネットワーク/東京)は、同社が展開する明光義塾とのシナジー効果を図る。学習としつけで生きる力を掲げる学童クラブアウラ(学凛社/東京)は、保育に進学塾の学習指導や理科・自然・農業体験を取り入れる。

■その他

 教育が多様化するにつれて、続々と学習周辺サービス領域のFCパッケージが増えている。

 ヒューマンキッズ(ヒューマンHD/東京)は、理科実験教室やロボット教室を全国に530教室展開中。クレファス(ロボット科学教育/神奈川)は、LEGO社のキットを使ったプログラミング授業を取り入れている。

 近年復活したそろばんは、そろばん塾ピコ(京大個別会/京都)いしど式そろばん(イシド/千葉)に勢いがあり、既に全国展開を始めている。インターネットそろばん教室や海外でのそろばん普及に努め、世界でのそろばん普及を目指す。

 また、子どものやる気や続ける力を育む 7つの習慣(FCエデュケーション/東京)、プロコーチが教える明光サッカースクール(明光ネットワーク/東京)などもある。



市場の多角化に乗り出した各社の新事業戦略

 フランチャイズ(FC)・ビジネスは2つの顧客を持つ。一人は、未来のオーナーになる加盟希望者。もう一人は生徒・保護者である。つまり、FCは加盟者に対して訴求力のあるパッケージになっていなければならないし、生徒を獲得できるだけの商品やサービス力がなければならない。そのため、各社共に本部機能やFCパッケージ、商品・周辺サービス(付加価値)の差別化に熱心である。

 現在の各社の方向性を図にプロットしてみた。横軸は新商品やサービスといった事業の多角化を、縦軸は地域拡大といった市場の多角化を表している。それぞれ事業の多角化は顧客の対象年齢層の拡大、市場の多角化は新市場での展開の様子を示した。図から参入が止まらない新規個別指導FCや、大手中心に総合型学習FCに変貌する様子がわかる。

 団塊世代の退職や終始雇用の崩壊により起業者が増え、彼らを狙ってFCに参入する塾や企業が後を絶たない。個別指導FCビジネスは既に価格競争に陥っており、この動きはますます加速しそうだ。今や小資本起業は当たり前。セルモやヒーローズのようなベンチャー塾に加えて、大手でも小資本で開業できるプランがあるほどだ。

 流行のデジタル教材を活用するのは、セルモやヒーローズ、ハイブリッド型授業を謳うフィスゼミなどだ。デジタル教材もIT技術の進化と共に拡大傾向にあり、今後、ますます主流になることはまず間違いないだろう。

 個別指導以外のFCパッケージを教室に併設して集客を狙うのが、明光義塾、ITTO個別指導学院、スクールIEなどの大手個別指導FCだ。数年前までは、教室に併設するパッケージと言えば、英会話やPC教室が中心だったが、時代背景を受けて学童タイプや英語教室が増えてきた。

 少子化の進行や教育の多様化により、幅広い年齢層から生徒を集客し、多種多様な教育を受けられる総合的な塾が、大手FCを中心にますます増えてくるだろう。その一方で、数学やスポーツなど専門領域に特化した直営塾も出現し、今後、総合と専門の2系列化が進むものだと思われる。

 このように、各社ともそれぞれの思惑があり、当然戦略も戦術も違う。しかしながら、少子化と市場の寡占化がさらに進めば、FC塾市場も激戦から逃れられないことは間違いない。FC塾市場はビジネスモデルの変革期に入ったと言えるだろう。

FCパッケージを組み合わせる

 今後多彩なFCパッケージが出てくると、ひとつの塾に複数のパッケージを導入するケースが多くなって行きそうだ。ブランドやパッケージをうまく組み合わせ、トータルコーディネートが成功すれば、FCであってもオリジナルで魅力ある塾創りができる。

 自社にマッチングしたFCパッケージを導入し、魅力ある店舗が並ぶショピングセンターのように教育コンテンツを取り揃え、地域に合わせて提供する教育のグランドデザインをするのだ。

 導入対象になるパッケージはFCだけに限らず、市進ウイングネット(市進HD/千葉)のようなボランタリーチェーン(VC)展開方式がある。VCとは日本フランチャイズ協会によると、FC契約書には、店舗運営方法、契約の終了や解約に関する項目等、詳細に記述されているのに対し、VCの契約には具体的な約束事は少ない場合が多いといった相違がみられる。

 またBenesseこども英会話教室(ベネッセHD/岡山)、イシド式そろばん(イシド/千葉)のような業務委託方式がある。これらのパッケージは、FCに比べてリスクは格段に下がり、導入障壁が低いのが特長だ。

 相次ぐ周辺領域からの参入、異業種とのアライアンスなど、近年、塾業界を取り巻く環境は激変している。どの業界でも市場が成熟や飽和すると必ず、新しい市場を創出しようとする企業が現れる。もはや塾は受験のためだけの教育機関ではなく、多種多様化する教育に対応するべく、様々な広がりを見せている。