現在、中野ブロードウェイにあるpixiv Zingaroで開催中の“アニメ監督・佐藤順一 「素敵な すごい 世界展」”では、「絶滅危愚少女 Amazing Twins」のさまざまな資料を展示中。佐藤順一監督の直筆コンテも見られます! 最終日は3月18日(火)です。

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昨年、アニメ演出家デビュー30周年を迎えた佐藤順一監督の最新作、OVA「絶滅危愚少女 Amazing Twins」(通称「アメツイ」)。
主人公は、イメージを現実化する力「ISH(イッシュ)」を持つ等々力あまねと、母親の胎内で身体を失い普段はテディベアに乗り移っている妹のリリアン。ISHは素敵な力だと人々に知って欲しいと願う姉妹の前に、強力なISH能力者アヤが現れます。
名作「カレイドスター」の魂を継承したオリジナルアクションとしても注目される本作(詳しくは昨年8月のインタビューで)。
しかし、Blu-ray第2巻の発売日は3月26日から6月25日へ変更されることに……。
3か月も発売延期って何が起きたの? 佐藤順一監督と松竹の田坂秀将プロデューサーに「アメツイ」の制作状況などを直接聞いてきました。

みんなが限界に挑戦しちゃった

──2月26日に『アメツイ』のBlu-ray第1巻が発売されましたね。おめでとうございます。
佐藤 ありがとうございます。いやあ、ホッとしましたね。一時はどうなる事かと思いましたから。
田坂 ええ。でも、まだホッとしてはいけないのかもしれませんね。2巻の発売日が延期になってしまったので、待って下さっている皆さんに申し訳ないです。2巻も頑張りたいと思います。
――いきなり、今後への意気込みの話になってしまいましたが(笑)。2巻の発売日が伸びたのは、1巻からの制作スケジュールの遅れが影響しての事ですよね?
田坂 そういう事ですね。
――制作中に何か想定外のトラブルなどが起きたのですか?
佐藤 アクションシーンも多いですし、最初からかなりギリギリなところまで作り込んで行こうという作品ではあったので、制作が大変になることは分かっていました。でも、作業を進める中で各部署の「もっとこうやりたい!」という思いが、ちょっとずつ多くなってきて。結局、水があふれちゃった形ですね。まさか、みんながみんな、水増ししてくるとは思わなかった。
田坂 クリエイターの皆さんの「こんな風にしたい」「ここまでやりたい」という思いはすごく感じました。だから、クオリティの面では全然心配してなかったのですが、こういう事態に……。どこまで届くかというせめぎ合いをするのが好きなクリエイターの皆さんが多い作品なので、みんなが限界に挑戦しちゃったな、と(笑)。
佐藤 手を出し始めたら、どんどん出すタイプが多いんですよね。
――全員でチキンレースに挑んだみたいな状況ですか?
田坂 ええ、それで落ちちゃったという……。
佐藤 全員、チキンレースに勝ててない……。
――12月に行なわれた1巻の最速上映イベントでは、イベント開催中に田坂プロデューサーが出来上がったばかりの映像を持って駆けつけるという前代未聞の出来事がありました。あれも演出ではないですよね?
田坂 ええ、違いますね(笑)。本当にギリギリ、というか上映時間に少し遅れてしまいましたが……。
佐藤 あれは、さすがに胃が痛くなりました。
田坂 南阿佐ヶ谷のスタジオから東銀座のイベント会場までタクシーに乗ったのですが「運転手さん急いで下さい! あと何分しかないんです!!」って。
――ドラマみたい! 監督もスタジオから会場に駆けつけられたんですよね?
佐藤 ギリギリまでスタジオでV編(ビデオ編集。出来上がった映像を最終的な尺に調整する作業)をしていて。一応の完成状態になるのを見届けてから、「あとは任せた! 俺は先に行って場をつないでおくから!」と、イベント会場に移動しました(笑)。
――熱いバトルもののような展開ですね。
田坂 それでギリギリ上映できたのだから、本当にドラマみたいですよね。良かった……と言ってはいけないのですが、なんとか上映できて良かったです。
佐藤 そもそも、「Amazing Twins」は、お話やコンテを作っていく過程も含めて、作品としてみなさんに楽しんでもらいたいという気持ちで、制作過程をホームページで公開してきました。そういう意味では、最後もドラマチックな展開になって、ファンの皆さんがあまり見たことのない状況をご覧いただけましたよね。これが「アメツイ」の目指していたところである、と言えなくもない……。
田坂 ええ、そうですね(棒読み)。

美女と野獣、良いよね〜と思っていたのに

――イベント上映時の映像は未完成の部分も残る「“愚”ver」でしたが、後日、ニコニコ動画やAT-Xで完成版の「“愚直”ver」が放送されました。個人的には「“愚”ver」の時から非常によく動いているなと思っていたのですが。具体的には、どういう部分が未完成だったのですか?
佐藤 時間的に作りきれなかったところがあったんですよね。例えば、尺が足りない状態のまま上がってきたカットに、ひとまず別の絵を入れて何とかしたり。総作画監督の伊藤郁子さんの修正が入りきれてなかった部分にも、入れて頂いたりしています。
――「“愚”ver」のエンディングには絵がついてなかったのですが、完成版のエンディング映像は、さまざまな作品で色彩設計を担当されている辻田邦夫さんが「コンテ・演出」としてクレジットされていて驚きました。
佐藤 たしか、辻田君が(コンテや演出を)やってみたいと言っていたのがきっかけだったと思います。我々(演出家)だとキャラクターや動きで見せるところを、色で見せていく感じになるのかなと。それは面白そうだったので、やってもらいました。普通とはちょっと違ったニュアンスの画面になって良かったですね。
――淡い色の光や、影とのコントラストなどが非常に印象的な画面になっていますね。
佐藤 背景とキャラクターの色のマッチングなどにも、かなりこだわってやってくれていました。
――1巻の後半はあまねと敵の超能力バトルで、迫力あるアクションシーンが続きます。ここまでボリュームのあるアクションシーンを想定していたのですか?
佐藤 アクションはボリュームのある感じでと考えていましたが、アクションのテイストに関してはミーティングをする中で若干テイストが変わりました。1巻で戦う敵は14号というマッチョマンなのですが。
――14号は、能力の無い一般人が謎の人物ハスドウの手で強制的にISH能力に目覚めさせられ、暴走してるという設定ですよね。
佐藤 そうですね。最初は、その14号を怪獣扱いして、あまねがやっつけるようなバトルを描こうと思っていたんです。でも、周りのスタッフから「14号よりも、もっとアヤちゃんを出してよ」と言われて。
――マッチョマンはいらないから、可愛いアヤちゃん出せ、と。
佐藤 ええ、すごく言われました(笑)。そうなると、(今後、戦うことになる)アヤちゃんを怪獣のようにボコボコにやっつける訳にはいかないので。いわゆる男の子向けなハードなバトルから、少女マンガ的なものに少しシフトしています。
――佐藤監督としては、14号はお気に入りのキャラ?
佐藤 14号、イチオシだったんですけどね。美女と野獣って感じで良いよな〜。その野獣を、あまねが傷だらけになりながら倒す。「くーーー良いねえーーー」とか思ってたのに。
――アヤちゃんをもっと出してという方向になったのですね。14号は演じている遠藤大智さんのノリノリのお芝居もあって、非常に濃いキャラになっていますよね。アフレコを取材させて頂いた時も笑いながら聴いていました。あの芝居も監督のイメージ通りですか?
佐藤 はい。14号は、吹っ切ってやっていただければなと思っていたので。映像も含めて、僕は14号をもっと見たいって気持ちになったんですけどね。
――ファンの反応も気になりますね。アフレコの時は、あまね役の内田彩さん、リリアン役の佐藤聡美さんも、第一声からキャラクターのイメージにピッタリはまっていた事に驚きました。二人はオーディションで選ばれたのですか?
佐藤 あまねはオーディションをしていません。「愚少女」ということで、ちょっと馬鹿っぽいところがありつつも、信念を持っていて曲がらずに進む猪突猛進みたいなところがある子というイメージで考えていて。キャスティングの相談をしている時、候補の中に内田さんの名前があったんですね。以前、「キディ・ガーランド」という後藤圭二さんの作品で音響のお手伝い(音響監督を担当)をしたのですが、その作品の主人公が内田さんで。その時の印象もあって、内田さんはピッタリだなと。たまたま、内田さんのボイスサンプルのデータを持っていたのでスタッフにも聴いてもらったら、みんな「ああ、なるほど」って。
田坂 愚少女ってことに関して、ピッタリでしたね。
佐藤 そのサンプルボイスは別作品のオーディションのもので、すごく真面目な台詞を話しているんですけど、なぜか、そこはかとなく抜けている感じがするんですよね。この台詞で、この愚少女感……言葉を選ばすに言うと、馬鹿っぽさを出せる人はなかなかいないな、と(笑)。それに内田さんは、ほんわかしているように見えても、実は芯がすごくしっかりしていて、根性もあるんですよね。そういう両面が備わっているところも、あまねっぽかったです。
田坂 内田さんとは「たまゆら」のOVAの時にお会いしたことがあって、なかなか面白い人という印象はあったのですが、「アメツイ」のアフレコ前にイベントでお会いした時、より確信が深くなりました。あまねとしての声は、アフレコの時に初めて聞かせてもらったんですけど、最初からまったく違和感がなくて。すごく自然に入って来ましたね。
――それは僕も感じました。
田坂 キャラクターの声を最初に聞く時って、「ああ、この子はこんな声なんだな」という感じで、理解をしていくところから入る事が多いんですけど。内田さんのあまねに関しては、最初からこの声だったかのようなニュアンスがありました。
佐藤 ぴったりハマると、そういう感じになる事がありますね。
(丸本大輔)

後編に続く