閉会式が終了し、笑顔で記念撮影! プロアマ35名が参加した「Game Jam for“Happy English”」

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プロアマ混在の即席チームが特定のテーマにもとづき、短時間でゲームを作り上げる「ゲームジャム」。これまで福島GameJamなど、さまざまなゲームジャムを紹介してきましたが、さらにユニークなゲームジャムが開催されました。それがシリアスゲームジャム「Game Jam for“Happy English”」です。東京工科大学メディア学部の主催で2月22日・23日に開催され、全35名が5チームに分かれて挑戦しました。

シリアスゲームとは「遊んで楽しい」だけではなく、「社会の役に立つ」ゲームのこと。教育・医療・福祉・公共政策など、世界中で様々なシリアスゲームが「活躍中」で、いわゆる「脳トレ」もその一つ。ところが、ゲームジャムでシリアスゲームを開発する「シリアスゲームジャム」は、ゲーム業界の知見と各分野での専門家の知見の、双方が求められるとあって、まだまだ珍しいんですよ。日本だけでなく、海外でも事例は少ないんじゃないかなあ。

旗振り役は「ファミスタの父」として著名で、子ども向けに算数ゲームの企画書作りなどのワークショップも手がける、「きっしー先生」こと岸本好弘先生。何しろ初めての試みだけに、どんなゲームが完成するのか、おっかなびっくりだったようです。しかもテーマは日本人の多くが苦手意識を持つ「英語学習ゲーム」。しかし、ふたを開けてみたら、どれもバラエティ豊かなゲームばかりで、関係者を驚かせました。

ゲームジャムの進行にも今までにない形式が見られました。普通は全参加者が集まって、チーム分けとテーマが発表され、そこから企画会議が始まります。ところが今回は参加希望者があらかじめFacebookのグループページに登録され、作りたいゲームの概要をA4一枚のコンセプトシートで表現する「ペラ企画」の作成からスタート。企画が出そろったところで、各自が作りたいゲームを投票するところから始まったんです。

これは一泊二日にもかかわらず、会場の関係で徹夜作業ができず、開発時間の不足が懸念されたため。期間内に22本のペラ企画がアップロードされ、そこから上位5作品が選出されました。チーム分けも各自の希望が尊重され、Facebook上で自己紹介もそこそこに、オンラインで先行開発がスタート。ゲームの仕様書作りや、グラフィックデータの作成などが早々に進められました。

ペラコン1位「Liddles in Pieces」(浅見智子)
ウェブの脱出ゲームと英語パズルを組み合わせたアドベンチャーゲーム。行方不明になった少女ベティを探して、洋館を探索していく。ゲームを遊ぶだけでなく、パズルの解説などを通して英語力が向上できる。

ペラコン2位「Big Big Dragon」(五十嵐唯)
ドラゴン育成ゲームで、ベビードラゴンが食べたいエサを音声で聞き取り、その通りに与えていく。聞き取れたエサの傾向で、ドラゴンがさまざまに成長していく。空き時間にリスニングの勉強を行うことを目的に開発された。

ペラコン3位「ワードブリッジ」(村上和希)
車が崖を通れるように、アルファベットを並べて英単語を作り、橋を架けていくアクションゲーム。アクセントの位置に正しく柱を立てれば高得点がゲットできる。単語力を高めることを目的としたゲーム。

ペラコン4位「怪奇!イングリッシュ部隊の謎!!」(高橋良哉)
攻め寄せる怪人達をボタンを押して切り捨てていくアクションゲーム。断末魔が英単語になっており、リンゴ怪人なら「Apple!」など、モチーフの発音が流れる。単語力とリスニング力を高めることが目的だ。

5位「Alpha! Beta! Collector!」(関口貴司)
画面をタップしながらロケットを操作し、アルファベットを集めていくアクションゲーム。集めた文字が英単語になると、得点が加算されると共に、意味が表示される。遊びながら語彙力を増やすことが目的。

おもしろいのはプロの企画を押しのけて、2位・3位・4位が学生の作品だったこと。企画発表でも「僕は英語が苦手です! そんな僕が遊びたい英語教育ゲームを考えました!」などの発言が続き、参加者が深くうなずく場面もみられました。語学力の乏しい人の声が語学教材を作るなんて、ふつうありませんよね。こんなふうに日々、英語学習の渦中にいる学生だけに、より共感度の高い企画が生まれたのかもしれません。

また、ゲーム開発のプロや学生だけでなく、英会話スクールや、中学校で英語を教えている外国人の先生二名も参戦しました。ともに「自分たちが『あったらいいな!』と思っていた英語教育ゲームを、実際に作る機会が得られて嬉しい!」と参加を表明。音声データの収録にもノリノリで協力していました。開発の合間には「教室で子供たちが、どんな風に英語に対して苦手意識を持つようになるか」などの知見も披露。他にウェブサービスの開発者なども参加するなど、さまざまな立ち場の参加者が、さまざまな学びを得たようです。

余談ながら作業中にどんどんドライブがかかっていき、思わぬ化学変化をみせるのも、ゲーム開発のおもしろいところ。「怪奇!イングリッシュ部隊の謎!!」では、リンゴ怪人やカボチャ怪人などが続々と登場し、それぞれ「アッポー!」「パンプキン!」などと叫びながら死んでいく謎ゲーに成長。鰯がモチーフの怪人「イワッシー」も登場し、斬られると「イィィワッシィィィ!」と叫びながら死んでいく(もはや英語ですらない!)シュールな内容に会場は爆笑の渦に包まれました。プレゼンの模様はUstreamで配信されているので、ぜひチェックしてみてください。

もっとも、おもしろいだけじゃ意味がなくて、今回作られたシリアスゲームのタマゴたちが、本当に「シリアス」な用途に向くのかが気になるところ。ゲームの核となる部分は完成したとはいえ、一本の教育ソフトとして見ると、いずれもボリューム不足はぬぐえません。閉会式ではみな継続開発を行っていく姿勢を表明。岸本先生も完成したゲームを子供たちにプレイしてもらい、教育効果を測定するなどして、継続的な取り組みを進めたいと話していました。

佐賀県内の全県立高校でタブレット端末の導入が決まるなど、いよいよ普及の兆しをみせはじめたICT教育。しかし、そこで求められる教育コンテンツは、まだまだ質・量ともに不足していると言わざるを得ません。その背景にはゲーム産業と教育行政をはじめ、各分野の連携不足があります。今回のジャムも些細な取り組みにすぎませんが、関係者が互いに交流できる場が生まれたのも事実。今後もこうしたイベントを通して、シリアスゲームがさらに盛り上がることを期待しましょう。
(小野憲史)