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ドラマ第7話は、原作6巻収録の25話の名場面が再現されました!

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2月24日放送の「失恋ショコラティエ」第7話に魅入ってしまいました。なんといっても、後半の10分間。

主人公の爽太(松本潤)とその片思いの相手で、既婚者のサエコ(石原さとみ)が夜の公園で、向き合いながら延々語り続けます。ほぼ10分も。長っ。

正確には、最後はキスして、その様子を、密かに爽太に恋している薫子(水川あさみ)が目撃して、ショックを受けるまでがほぼ10分です。

10分間、爽太とサエコが会話しているだけ。そこには爽太のモノローグも少々入りますが。爽太のオンとオフのセリフとサエコのオンのセリフの応酬です。

基本、アップ。たまに、引き。いたってシンプルです。
アップといっても、「半沢直樹」のように俳優達の顔芸合戦が濃密なわけではなく、基本の表情一転突破な感じだったところが剛腕です。

石原さとみは、ぷくぷく、つやつやの唇をかすかに開きながら爽太を熱ぽく見つめ、松本潤は、ブラックマツジュンはどこに行った! という感じで、恋に憔悴しきった顔つきで、その瞳も虚ろ。そして自分語りをし続けます。

それを見ていると、完全に、この男、負けている!と思えるんです(松本潤ではなく、爽太のことです)。
例えば、毎晩、男のもとにやってくる幽霊が、朝になって、なんとか諦めて帰っていったかと思って、ほっとして戸を開けたら、朝にはまだなっていなくて。
すべては幽霊の作戦で、男が憑かれてしまうというような。そんな怪談を想像してなりません。

マツジュン演じる爽太が、長いこと報われない片思いをしてきたサエコをついに諦めて、新しい恋に生きるための最後の儀式だったというのに、ふたりは結局、キスしてしまいます。

ここで、思いが実ってよかったね、と思うヒトは少ないでしょう。
抗えずに、負けちゃったのね、あーあ・・・って感じです。

余談ですが、怪談化の要因は、石原さとみの髪型にもあると思います。
原作だと、サエコが爽太に湿った感情を見せはじめると、髪をショートにします。それによって重くなりすぎずに済んだ気がするのですが、ドラマだと重いロングのまま。それで余計にしっとりしてしまうのではないでしょうか。

そんなふうに、見れば見るほど、魔性の女に取り憑かれる男の話に思えてならないのですが、相変わらず、セリフがいいので、正当なラブストーリーとしてもちゃんと機能しています。

ここ一番の爽太のセリフを引用してみましょう。

(チョコレート作りの)スキルを磨いていれば、そのうちサエコさんのこと忘れてしまうんだろうなと思ってた
思ってたんだけど
実際は 全然そんなことなかった
むしろどんどん時間が上に積み重なっていくぶん、気持ちはずっとずっと深いところに定着していくんだ
雪が積もっていくみたいに

最初にふった雪は溶けないんだよ、ずっと

なんて美しくも悲しいセリフでしょうか。
最初の恋心は、最初の新鮮なまま、永久凍土に閉じ込められたのです。

とくに今、ここのところ何度となく降ったどか雪が、なかなか溶けずに街に残っていることと重ねて考えることができますね。

これ、原作とほんの少し違っています。
原作だとこう。

むしろどんどん上に時間が積み上っていくぶん気持ちがずっとずっと深いところに定着していくんだ
根雪みたいにさ

原作では「根雪」という言葉を使っていますが、ドラマ(脚本・安達奈緒子)では使っていません。
代わりに「最初にふった雪は溶けないんだよ、ずっと」と言って、思いの深さをわかりやすくしています。

あと、面白いのはコレ。

爽太「サエコさんに喜んでほしくてショコラティエになったんだ
サエコさんがカレー好きだったらきっとカレー屋になってたよ」
サエコ「カレーも好きだよ」
爽太「そっか じゃあカレー屋でもよかったね」

こいつら、バカだな、と毒舌の薫子でなくても思いますよ。これは原作まま。

結局、爽太の、サエコを思い続ける一途さがこれでもかと描かれていた第7話。
しっかり失恋して、新しい道に進むんだ、と息巻きながら、結局は、思いを捨てきれないところがいじらしい。

高校生の時から憧れていたサエコと、7年前にようやくつきあえそうになった時、実は本命がいたという衝撃の事実に直面してしまった爽太は、以後もずっと、サエコを思い続けていたわけです。
彼女が他の男性と結婚してもなお、サエコの好きなチョコレートを作る職人として大成しようとスキルを磨いてきたのです。7年間。

サエコが買ったものちゃんとメモって
サエコの好みの変化をずっと見て、

サエコが喜ぶものを作ることばかり考えていたという爽太。
そして、バレンタインに、自己最高のチョコをプレゼント。

さきほど、負けている、と述べましたが、いやいや、爽太は負けてなんかいません。

爽太の生き方こそ、見習うべきです。
好きな男子の好みを研究し、手料理から髪型やファッションまで、好みに合わせていくという努力を惜しまないことが大切なのです。

失恋なんかしなくていいじゃん、という気持ちになるのが「失恋ショコラティエ」です。
無理して忘れることなんかない。自分が好きなら、いつまでも思い続ければいい。
そしたら、「片思い」なだけで「失恋」とは言えません。
負けたと思った時が負けであって、思わなかったら、勝ちではないけど、負けでもない。一念岩をも通す、です。

この考え方に、「あきらめたらそこで試合終了だよ」と「スラムダンク」の名セリフを思い出しました。

奇しくも、このセリフを、松本潤が何年か前に、明治のチョコレートのコマーシャルで言っていました。
その時から、爽太を演じる運命にあったのかもしれませんね。

次回予告を見ると、爽太を狙うサエコがさらに妖艶に。爽太の試合はまだまだ終了しなさそうです。
(木俣冬)

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