【NPO広報事例】“手触り感”や“空気感”をいかに込めるか〜/小槻 博文
世界には十分な食料があるにも関わらず、8人に1人が慢性的な栄養不足、つまり“飢餓”に苦しんでいるという。そこで今回は世界から飢餓をなくすべく取り組んでいる特定非営利活動法人ハンガー・フリー・ワールドのコミュニケーション活動について紹介したい。

8人に1人が飢餓に苦しむ世界を変えるために

世界には十分な食料があるにも関わらず、8人に1人が慢性的な栄養不足、つまり“飢餓”に苦しんでいると言われている。そのようななかでバングラデシュ、ベナン、ブルキナファソ、そしてウガンダの4地域を対象に飢餓問題の解決に向けた活動を進めるともに、日本国内にて飢餓問題に関する啓蒙・啓発活動を行っているのが、今回紹介するハンガー・フリー・ワールドだ。

ハンガー・フリー・ワールドでは大きく「地域をつくる」「しくみを変える」「気づきをつくる」「若い力を育てる」の4つのテーマをもとに活動を進めている。

<地域をつくる>

一言で「飢餓」と言っても、その背景は農業生産性や教育など地域ごとに課題が異なる。そこでハンガー・フリー・ワールドでは「栄養改善」「教育」「保育衛生」「収入創出」「ジェンダー平等」「環境」の6分野から各地域が必要とする支援を選び、そして住民たちが自ら活動を進められるように各種支援を行っている。

「『支援が無くなったら元の状態に戻ってしまった』では意味がありません。最終的には支援を必要としない、つまり地域が自立し、その状態を持続させ、そして発展させていくことが重要です。したがって支部担当者が年に1、2回ほど現地に赴いて視察したり助言したりはしますが、普段は現地の方々が自分たちの問題として捉え、そして自ら活動することを後押しする形を採っています。」(広報担当・糟谷知子さん)



<しくみを変える><気づきをつくる>

「地域をつくる」が地域内での取り組みであるのに対して、地域外における環境整備という点からは、食料価格高騰や環境問題など飢餓の原因になっている地球規模の課題の解決に向けて、必要な政策や国際ルールが整備されるように、世界のNGOなどと協力して国際会議や政府機関などに提言活動を行ったり(しくみを変える)、個人に対しても暮らしや食生活と飢餓とのつながりを伝え、解決するために考え、そして行動を促してもらうための活動(気づきをつくる)に取り組んだりしている。

<若い力を育てる>

その他、若者ならではの力を飢餓の解決に向けて発揮し、そして未来の担い手として成長できるように、青少年組織である「ユース・エンディング・ハンガー」を通じた青少年育成にも取り組んでいるとのことだ。

如何に“手触り感”や“空気感”を込められるか

同団体ではこれらの取り組みを推進するための支援の輪を広げるために広報・PR活動に取り組んでおり、そのターゲットを「会員層」「中間層」「潜在層」と設定し、会員層に対しては継続的に支援をしてもらうこと、中間層に対しては本格的な支援へとステップアップしてもらうこと、そして潜在層に対してはまずは飢餓問題に気付いてもらい問題意識を持ってもらうことをそれぞれ目的にしている。

そして広報・PR活動を進めるにあたっては、単なる活動報告では無機質なものになってしまうため、活動の成果を如何に“手触り感”や“空気感”を込めて伝えるかを意識しているという。

その端的な例としてブルキナファソの事例を挙げた。ブルキナファソでは以前は空腹だったり昼食のために一度帰宅したりするなどなかなか授業に集中できる環境になかったが、給食事業を始めたところ勉強に集中できるようになり、卒業率が大幅に改善されたことを目に見える形で伝えるべく、“卒業証書のコピー”を会員向けに送ったそうだ。



また制作物だけでなく、団体サイトをはじめFacebookやTwitterなどのSNSを活用するなど、デジタルコミュニケーションの活用も積極的に進めている。

団体サイトについては、会員層に対する“活動報告”と潜在層に対する“情報接触”の両側面があるため、気軽に読める軽いコンテンツからしっかりとした専門的なコンテンツまで、幅広い層に対して読んでもらえるようなコンテンツの充実化を図っている。

その一方SNSについてはまだまだ“情報発信”にとどまっており、SNSの特徴である“双方向”にまで至れていないのが現状だという。一方的な発信にとどまらず、如何に交流の場として機能させていくか、現在検討を進めているそうだ。

そうしたなかで従来は“会員層”“中間層”に対するコミュニケーション活動の整備に取り組んできたため、“潜在層”に対する取り組みがこれからの課題だという。

「“潜在層”に対しては、まずは広く“飢餓問題”に対する気づきをつくり、そして問題意識を持っていただくことが必要ですが、その際にはやはりマスメディアの力が不可欠であると考えています。」

「プレスリリースをようやく今年から本格的に出し始めるなど、パブリシティ活動はまだまだ不十分ですが、今後はさまざまな切り口にて当団体の活動や“飢餓問題”を発信していくことでメディア関係者の関心を喚起し、そして今まで以上に幅広い層に対して“飢餓問題”を訴えていきたいと考えています。」(同)

“同情”ではなく“共感”を

このように広報・PR活動に積極的に取り組んでいる同団体だが、すべては「自分の食事を考えるときに、同時に世界とのつながりを考える」そんなきっかけにつなげていくためだと言う。



そのとき「食べられなくて可哀想」という“同情”ではなく、「食べられる幸せ」を共有することで、「この子たちも頑張っているから私も頑張ろう」と如何に“共感”に結び付けられるかが鍵となるだろう。

「会員層に対しては“より深い共感の醸成”、潜在層に対しては“より広い共感の創出”を図るためのコミュニケーション活動を進めることにより、世界中の誰しもが栄養ある食事が出来るようになり、そして“飢餓問題”が無い世界を実現させる、その一助を担えるように今後も邁進していきたいと思います。」(同)

広報・PR情報サイト「広報スタートアップのススメ」
http://www.pr-startup.com/