なぜ?博多のうどん屋のおばちゃんは、あんなに元気なのか?/中村 修治
「秘密のケンミンSHOW」では、博多華丸大吉が、うどんのことを熱く語り。ありえんくらいの視聴率を「地元福岡で」たたき出したとか・・・。博多ならではのビジネス成功例を考察してみる。

うどんと云えば、讃岐か?いやいや、博多である!福岡市博多区の名刹・承天寺には「饂飩蕎麦発祥の地」という石碑がある。麺を食する文化は、 博多から全国へと普及したと考えられている。うどんへのこだわりが強いので、「はなまるうどん」や「丸亀製麺」という全国ブランドが出店しても大概が業績不振で頭を抱える。博多は、そんな「うどん特区」なのである。

うどんが博多のソウルフードだと言わしめる地元の2大チェーン店がある。福岡発の「牧のうどん」と、北九州発の「資さんうどん」である。

「牧のうどん」を運営しているのは、有限会社釜揚げ牧のうどん。福岡県と佐賀県の国道沿いに20店舗近くを運営しているが、その事業会社のホームページは未だない。謎に包まれた企業である。注文時には、各テーブルに置いてある伝票に店員か、客自らが赤鉛筆で正の字を書く。各テーブルには、入れ放題のネギと天かすが配置。そして、特筆すべきは、「食べても食べてもなくならない麺」である。麺が出汁をどんどん吸い込んで伸び、ゆっくり食べていると見かけの麺の量が増えてしまう。困ってフロアにいるおばちゃんにお願いすると、当たり前のように「スープ」の入ったやかんを持ってきてくれる。そういう一見ガサツな一連の動きも込みで現場が熱いのである。

一方の北九州市発の「資さんうどん」は、最近、その勢力を福岡市の方へ伸ばしている。事業主体は、株式会社資さん。昭和55年の創業で、資本金は、2,000万円。福岡県と山口県に約40店舗を展開。ちゃんぽん専門店や天ぷら専門店も他ブランド展開している。うどんももちろん美味いのだが、特筆すべきは、サイドメニューの豊富さである。「焼きうどん」「おこわ」「おでん」「カレー」「梅ひじきごはん」「ジャンボいなり」・・・そして評判なのが「ぼた餅」である。うどん屋にスウィーツがある。これは、女性やファミリー客にポイントが高い。

この博多の2つのうどんブランド。出店戦略に、味やメニューは、それぞれである。しかし、ひとつだけ共通していることがある。「働いているおばちゃん」が元気なのである。そのおばちゃんたちの動きの切れ味がハンパないのである。「案内係」というリーダーのおばちゃんの仕切りに合わせて、完璧なフォーメーションができている。一度、見学されることをオススメする。

では、なぜ、博多のうどん屋さんのおばちゃんは元気なのか?を考えてみたい。自身のフェースブックでその理由を聞いたところ、たくさんの仮説をいただいた。その諸説を、ここにご紹介する。

?お母ちゃんの本領発揮説。

客は大きく2分できる。1つは、ロンリーなおっさん。ドライバーや営業マン。いつも無口。こんな客には、うどんを、どっか!と置いて、「ほい、ほい」と処理して食わせれば、お互いハッピー。あのテンションで圧倒されると、かえって癒される。

もう1つは、乳幼児を連れたママ。子供がはしゃぎまくり、食い物をこぼし、ママは怒鳴り散らし、いらいらする。その様子に、華麗に対応できるのも、やはりお母ちゃんを経験してきたおばちゃん。「ほい、ほい」とテーブルを拭き、座敷の上の子供椅子を移動させとっとと片づける。母としての力における圧倒的なベテランぶりを見られる。要は、うどん屋のフロアは、博多のお母ちゃん達がやってきたまんまを発揮できる舞台であるわけである。この昭和の家にいたような、母ちゃんが店内にいて、その圧倒感に客が惚れる。うどん屋はそんな究極の舞台を作っているようなものだ。自分の存在意義を確認しつづけてきた生き様から、ホールのオペレーションを回す事ほど楽しい事はない。終わった後の爽快感が病みつきになる。

?高い回転率≒うどんハイ説。

女性は忙しければ忙しいほどアドレナリンが出るのか、めっちゃ仕事ができるようになる。 短期目標の達成には、女性の方が適していると良く言われる。暇な店はやりがいもないし、時間が経つのがすごく長い気がするけれど、忙しいと時間が経つのがあっという間に感じられる。うどん屋は原価が安く、回転率が非常に高い。特に牧のうどんは、店舗の隣に製麺所を併設。ほぼ容赦なく麺がゆがかれ続け、釜に仕切りがあって、堅→中→柔と移され、それでも食べられなかったものが、お持ち帰り用の麺としてパックされる。つまり常に目の前に、いつもアツアツの在庫がある状態。それを秒単位で捌く。この仕事に対応するおばちゃんを見てて、いつも思い出すのが、餅つきをするときに餅を臼でひっくり返す人。この仕事は、おばちゃんしかできない。ずっとゾーンに入っている。うどんハイなのである。

?合理的なシフト制説。

資さんうどん新池店のオープニングスタッフ募集の内容を見てみる。●7:00〜11:00 時給765円〜●11:00〜15:00 時給785円〜●15:00〜19:00 時給765円〜●19:00〜23:00 時給798円〜×3h/998円×1h●23:00〜3:00 時給865円〜●3:00〜7:00 時給765円〜×2h/956円×2h24時間営業で6つのシフトに分けている。福岡のパート時給より若干高めになっているものの、特別高いわけではない。それよりも、細かく分けたシフト制に魅力がある。うどん屋さんに働いているおばちゃんたちの年齢は、比較的高い。子育てがひと段落した世代である。そういう世代は、働きに行こうと思った時にはあまり仕事がなく、家事と両立するべく「少しだけ働こうかしら」「深夜働こうかしら」と誰しもが思う。家事の延長線上にあるような仕事である上に、一般的には優遇されることのないおばちゃんたちの意思を汲み取ったようなシフト制。なので、労働力は豊富にある。その中から、スターのような「案内係」が産み落とされていく。

次々に入店するお客様。もうもうとする湯気。フロアに響き渡る「案内係」のおばちゃんの声。まるで我が子をあしらうようにメニューを捌いてくフロアのおばちゃんたち。両店舗とも忙しい時間帯の緊迫感はハンパない。文句言えない空気が充満している。そうそう、昭和のお母ちゃんたちが忙しい夕暮れの台所で出してた空気と同じである。反対に、それが癒されるのである。お客様扱いされた時点で、こちらのソウルは、冷めていくのである。博多でシャレオツなうどん屋さんが出店しては消えていく理由は、博多の人間にとって、うどんはそんなソウルフードであるからだ。

追記
このコラムの執筆にあたり次の方々にご協力をいただいた。
ありがとうございました。
株式会社GRACE CREAの清水麗子代表
http://www.gracecrea.jp/

株式会社ホスピタブルの松清一平代表
http://www.hospitable.co.jp/company