【NPO広報事例】間口を広げることで広く関心喚起・問題提起を/小槻 博文
「認定病児保育スペシャリスト」という資格制度をご存じだろうか?
同資格は、病児保育の質的・量的改善を図るべく、2012年に一般財団法人日本病児保育協会が設けた民間資格だ。
そこで今回は同協会が資格制度の普及をどのように進めようとしているのか、その取り組みに迫った。

【インタビュー企画・実施】 「広報スタートアップのススメ」編集部 (運営会社:合同会社VentunicatioN)

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<病児保育の現状>

病児保育とは「病気にかかっている子どもに対して、身体的・精神的・経済的・教育的・論理的・宗教的な発達のニーズを満たすために、専門家集団(保育士、看護師、栄養士等)によって保育と看護を行い、子どもの健康と幸福を守るためにあらゆる世話をすること」(全国病児保育協議会)と定義されており、一般的には普段保育園等に通っている子どもが軽い病気にかかるなど集団保育が不可能な場合に、その子どもを預かって世話することである。



このように働く保護者にとって病児保育は密接に関わる問題であるにも関わらず、現状は保育所約30,000箇所に対して、病児保育施設は約1,100箇所にとどまっている。また現在の保育士資格には病児保育に関する内容は含まれておらず、病児保育に携わるうえで資格は必要とされていないのが実情だ。

そこで日本病児保育協会では病児保育を体系的に学び、身につけた知識とスキルを認定する資格を設けることで、施設や事業者の枠を超えてひとつの基準を示すことで質を高めるとともに、これを普及させることで量の部分も高めていくべく「認定病児保育スペシャリスト」という資格制度を設けるに至った。

<コミュニケーション活動>

同資格制度を普及させるにあたり、同団体ではまずは病児保育に対する啓発を行い、そのうえでその解決策である資格制度の認知向上を図ることを目的に、デジタルコミュニケーションを中心とした取り組みを行っている。

同団体では現役の保育士や病児保育施設従事者はもちろんのこと、例えば保育士資格を持っているけれど別の職業に従事している人だったり、子育てがひと段落した主婦だったりなども潜在受講者として想定している。またたとえ受講者にはならなくても、病児保育は多くの保護者にとって密接なテーマであるため、子育てに関わる一般の人々の間でも病児保育に対する関心や問題意識が高まることにより、病児保育を取り巻く環境改善につながることなども期待して、まずは間口を広げて潜在受講者層や保護者層などへのアプローチを図っている。

具体的には、まずは“病児保育そのもの”や“保育”全般について知ってもらうべく、“子どもの病気”“待機児童問題”“女性の働き方”など間口を広げて、これらテーマに関する報道記事をTwitterで紹介したり、団体サイトでは編集記事を作成・掲載したりしている。



以前は同団体の取り組みなどを中心に情報発信をしていたが、それだと既に同団体のことを知っている層にしかリーチ出来ないことに気づき、現在のアプローチに変更したところ一気にリーチ出来る層が広がったそうだ。

「こちらから押し付けで資格を取ってもらっても意味がありませんし、また質を担保するためにも安易に資格取得を目指されることも避けなくてはなりません。したがって読者にとって有益な情報を発信することを通じて自然に資格のことを知っていただき、必要性を認識していただいたうえで自発的に資格を取得してもらう、そのような流れを意識しています。」(一般財団法人日本病児保育協会・梅村尚吾氏)

<今後の方向性>

前述の通り、現状の保育士資格には病児保育に関する内容は含まれておらず、現在のところ病児保育に携わるうえで資格は必要とされていないのが実情だ。しかし施設型の病児保育では看護師と保育士がチームを組んで保育にあたるなど、病児保育はただの看護でも保育でもなく、専門性が問われてしかるべき分野であると強調する。

そこで同団体では、普及活動を進めながら資格制度の認知向上そして取得者増加を図り、そして将来的には保育士資格の必須科目となり、資格取得には病児保育について勉強することが当たり前になるようにしていきたいという。そしてその結果、病児保育を社会インフラとして確立させ、いつでも気軽に病児保育を利用できる社会にしていきたいと力強く語ってくれた。