事業連鎖と調達/野町 直弘
高度に複雑化した製品・サービスが溢れる現代では、自社の属するサプライチェーン全体における自社の力を如何に強力化していくか、という視点が企業戦略・事業戦略に欠かせないのです。それが上手いのがアップルはじめ、アマゾンなどの欧米企業と言えます。

1ヶ月程前メルマガでこのようなことを書きました。
「このような時代には垂直的なサプライチェーンの中でソースの切り分けを最適化するという考え方が必要になります。つまりどの機能やパーツ、サービスを内製化し(持ち)どの機能やパーツ、サービスを調達する(持たない)か、ということです。また機能を持つ持たないという観点だけでなく、調達先との関係性を見直すことも必要です。例えばこの機能を自社に持つことで垂直的なサプライチェーンの中で力が増大するということであれば、できれば中にその機能を持ちたい訳ですが、そこまで行かなくてもその重要な機能を持つサプライヤとの関係性を強めていくという戦略にもつながるのです。」

高度に複雑化した製品・サービスが溢れる現代では、自社の属するサプライチェーン全体における自社の力を如何に強力化していくか、という視点が企業戦略・事業戦略に欠かせないのです。それが上手いのがアップルはじめ、アマゾンなどの欧米企業と言えます。

しかし我々の周りにもこのようなサプライチェーン全体における自社の力を活用することでその力をより強化している事例があります。それはコンビニです。
コンビニエンスストアに行くと今は殆どのモノにPB(プライベートブランド)が設定
されています。飲料から始まり洗剤やアイスクリームまで。メーカーのNB(ナショナルブランド)品の隣に並んでいますが、価格差は安いものは半額なんていうものもあります。

最近は安さだけでなく高くても美味しさで売れているパンやアイスクリームのようなものまでPB化しています。
これではNB品は売れなくなるのも尤もなことです。PB品もどこかのメーカーが製造しています。できればメーカーはPB品は作りたくないのでしょうが、サプライチェーン全体の中でコンビニの販売力があまりにも強く、影響力があまりにも高くなりすぎたためにこういう現象が起きているのです。
PB品は自社が作らなければ誰かが作ります。そうすると他社の製品が売れることになる訳ですからメーカーはやむを得ずPB品を作ります。そう、作り続けなければなりません。
このような状況になるとメーカーの競争相手は業界内の他メーカーだけでなくコンビニエンスストアが相手になってきます。また自社製造のPB品とカニバライゼーションを起こす可能性もありますので、そうすると自社製造のNB品とPB品の戦いになってくるとも言えます。

このように異業種間や今までにない競争が近年多くおきつつあります。
ボストンコンサルティンググループの日本代表であった内田和成さんが「異業種競争戦略」(日本経済新聞社)という本を2009年に出版していますが、そこには様々な異業種間の競争について詳しく書かれています。内田氏はこのような戦いのことを「異業種格闘技」と名付けていて、垂直的なサプライチェーン全体のことを「事業連鎖」と定義しています。
マイケルEポーターは「競争優位の戦略」の中で自社のバリューチェーンを定義し
バリューチェーンのどこで強みを持つかが重要であると述べています。
1社の活動のみに焦点をあてたバリューチェーンだけではどこで異業種と戦うことになるのかが見えてこないのでバリューチェーンを業界全体にまで広げて、より大きなバリューチェーンを描きその「事業連鎖」の中でどこに強みを持つかが企業の競争優位につながるということなのです。

事業連鎖全体の中には様々なプレイヤーが存在します。何故なら事業連鎖全てを自社でカバーすることはできないからです。様々なプレイヤーの中で競争優位を持つためにはどこかに経営資源を集中する必要があります。また場合によっては事業の買収、売却を活用する必要もでてきます。
アップルは自社でソフト、サービス、製品を持ち、通信事業は既存のキャリアを活用するものの従来であれば通信キャリアの事業範囲であった端末販売や端末のアフターサービスも自社で一部対応しています。一方で製品の製造に関しては最終製品組立ても含み多くの部品は外部からの購入品です。このようにアップルは自社が関連する事業連鎖の中で競争優位を持つために必要な部分に経営資源を投入し事業を組み立てているのです。

繰り返しになりますが、事業連鎖全てを自社でカバーすることはできません。
そうすると事業の買収や合併、売却や他社とのアライアンスを活用することが今後ますます重要になります。つまり如何によい企業を見極めるか、ということが求められるのです。
また企業間の関係を深めていくことも重要です。このような能力を企業の中で持っている人たちは誰でしょうか。そうです、必要な力を持っているのは調達部門なのです。
私は調達部門がこのようなソースの活用という観点で企業に対する目利きの能力を活かしながら経営により貢献する機会が出現してくるのではないか、と考えます。このような形で近い将来に調達部門がビジネスモデルづくりに貢献できる時代が必ず来るでしょう。