新規事業に失敗しない方法/小倉 正嗣
新規事業の多くは失敗する。その失敗の原因を経営者のパターンごとに分析し、成功の為の処方箋を書く。上巻からの続き。
新規事業に失敗しない方法<上>の続き
?後継経営者の企業における新規事業の立ち上げの場合
後継経営者が新規事業を担当するのは、主に中小企業の事が多いだろう。もちろん大企業でも考えられなくはないが、後継経営者という言葉が少しそぐわない為、ここでは中堅・中小企業を取り上げて考えてみたい。
この場合、現経営者が、後継者(主に経営者の子息)を、どのように指導育成をし、今後会社を引き継ぐかという点を如何に真剣に考えているかで随分と結果が異なる。
一番ベストな引き継ぎ方としては、後継経営者が他の企業で一定期間の修行の後、そこでのノウハウを持って家業である企業に新規事業を持ち込んで、収益の大きな柱にし、その上で現業の引き継ぎに入ると言う形ではないだろうか。
後継経営者の場合、最も大きな事業承継の障壁は、現社長ならびに現社長の番頭さんとなじみ客であると言われている。どのように振舞っても現社長との比較をまぬがれることは出来ない。番頭さんも、後継経営者を常に子供扱いするところからスタートするだろうし、社長の属人的な要素で成り立っている業態の場合は、なじみ客もうるさい。
そのような現実を打破する為に、新規事業を立ち上げ、軌道に乗せたという実績を作ってからの本業承継が最も美しい形だ。
そこで問題になるのが、後継経営者にその実力があるか?ということである。
中小企業経営者は、会社の金回りに問題がない場合、そのご子息を甘やかして育てるというケースが散見される。いわゆるお坊ちゃん・お嬢ちゃん学校に入学させ、コネで就職を決めてあげるというレールを用意して、ご子息の人生における数々の障害をあらかじめ取り除いてあげてしまう。そのような状況下で育った後継者が、極めて成功確率の低い新規事業開発に成功するかどうか?という一点のみが最も美しい事業承継への強い懸念事項である。
誤解なきように申し上げておきたいが、筆者の周りには極めて優秀な後継経営者も多い。現業を上手く引き継いだ上に、新たな事業に果敢に挑戦し成功に結びつけている。世の中こういった事業承継者ばかりであるならば、事業承継問題が中小企業経営論におけるメイントピックになどならないのではあるが。
残念ながら、人生における障害を乗り越えた経験が相対的に少ない人物が、経営資源に劣る中小企業において、果敢に新たなチャレンジを行い成功させるということは極めて難しいと言わざるを得ないだろう。
できれば他の企業での修行期間中に、1度や2度の新規事業開発の経験を積み、プロジェクトマネジメントや事業計画書作成のノウハウ、マネジメントのあり方などを学び、何よりもチャレンジ精神や折れないココロなどを手に入れた上で、家業に入るというプロセスを経て頂きたいものである。
そうすれば、事業承継の際にも、父親である社長や番頭さん他古参社員に自分の存在を認めさせてスムーズな承継が出来る上に、家業にも新たな収益の柱ができるという2重に美味しい効果が見込めるはずだ。
少なくとも、何もバックグラウンドを持たずにチャレンジする起業家に比べ、大企業と比しては乏しいとは言え、一定の経営資源を持ってビジネスを行える後継経営者には、是非日本の中小企業の活性化のために果敢なチャレンジをしていただきたいものである。
?サラリーマン社長の場合(一定期間で人事異動が発生する企業の場合)
日本の多くの大企業がそうであるように、サラリーマン社長の場合には社長の任期というものがある。もちろんそういった会社の場合には役員以上は任期が決まっており、3年・4年というスパンで人が変わっていくのが通常であるといえる。
新規事業の規模にもよるが、多くの場合新規事業の投資意思決定は社長・あるいは役員の決裁となるケースが殆んどだろう。旗を振るのが部長格であったとしても、そこでの決裁で全てが進められるというケースはそう多くはないはずだ。
何が言いたいかというと、オーナー企業でない場合は、3年以内程度に潰されないだけの規模に事業を持っていかないとならないということである。
少なくとも、他人が作り出した新規事業に対しては、余程の可能性が見込まれない限り思い入れをもって接することは難しい。自分が得た新たなポジションで、自分の実績を作るためには他人の手垢のついた事業にかまけている暇はない、というのが一般的な人間の心情だろう。特に、既にIRやマスコミ発表などが終わっている案件においては、その事業に対してのモチベーションが上がらないのは当然だろう。既に手柄は前任者のものであり、懸命に取り組んでも自分自身が大きく日の目を見ることはないのだから。ここに任期制で役員が変わる組織の限界がある。
したがって、繰り返しになるが3年をめどに、収益の出ることが仮説検証されている状態にもっていけないようであるならば、停止や縮小の憂き目に合うことは覚悟をして取り組まなければならない。社を上げた大きな新規事業の場合、論理的に考えたら、準備から含めて立ち上がるのに5年以上かかるということもそう少なくはない。設備やシステムの投資を伴う場合、投資回収まで含めて5年以上というのは普通に考えられる構図ではある。しかし、筆者は3年で小さく投資回収が出来る範囲で始め、投資回収ができたら次の機能拡張を進めていくという多段階発射で新規事業を行うことを薦めている。小さく始めて大きく育てるという考え方が、任期制で人事異動がある企業の進むべき新規事業の形である。
事業責任者となった方のサポートを承る存在としては、上記の理由で新規事業が潰されるのは身につまされる思いがある。なぜならば、筆者自身が新規事業の立ち上げを行ってきた中で感じてきた忸怩たる思いがあるからだ。
初志貫徹し、事業を大きな企業の柱としていくためにも、夢々この点は忘れないで頂きたいと思う次第である。
?.新規事業立ち上げに関与する気概ある方々へ
新規事業を立ちあげるに際しての注意点をこれまで複数のケースに分けて上げてきた。新規事業の立ちあげコンサルタントとして、自らの体験やリサーチ・インタビュー・研究の結果を元ネタとしている。新規事業を自ら立ち上げようとしている経営者の方、新規事業の責任者に任命された方、その責任者に見込まれて選ばれたメンバーの方に向けてのメッセージとなっている。ご参考にして頂ければ幸いだ。
新規事業のリスクの多くはスキル面よりもマインド面に顕著に現れる。これは通常の業務をつつがなく遂行していれば良いと考える、「変化を恐れる」人間の基礎的な欲求に基づいている為、論理より実行面での不安が大きい。あるいは、閉塞感の打破や垂直立ち上げへの期待など、余計なプレッシャーや周囲のノイズによって発生する落とし穴もあるだろう。ステイクホルダーや、自らが生み出してしまうメンタル面のノイズを避ける事で、まずは普通に努力すれば成功できるという土台に乗って頂きたいと思い、あえて最初に排除すべきリスクファクターをあげつらうことを本稿の方向性とした。
最後に、「撤退」とそれに伴う「人の処遇」についての思うところを記して結びとしたい。
残念ながら、様々なステイクホルダーによるノイズを避け、きちんとした事業計画書を作成し、ビジネスモデルを作りこみ、適切な人材を集めて始めた事業も、その多くは失敗するだろう。撤退ラインをあらかじめ決めておき、そのラインを超えた際には如何にソフトランディングを行いつつ、傷口を最小限にとどめた撤退が出来るかが極めて重要となる。
いわば、株式相場に身をおいた際の「損切り」概念と同じと言える。いかにもったいないと思う気持ちを断ち切ることが出来るかという点が意思決定者にのしかかる。
しかし撤退に関しては、機械的に行ってはならない。撤退ラインが近くなってくると、往々にしてメンバーには焦燥や心配の様子見られるようになり、浮足立ってくる。中にはあきらめモードで完全に士気が下がっている場合もあるが、なんとか少しでも形になるところにまで持って行っている場合には、なんとか事業を残そうと頑張るだろう。
撤退のジャッジは、現場の担当者達の士気と活動を詳細確認した上で決めるべきだ。本当にあともう少しで形になるのか、それとも完全に死に体のものを取り繕っているのかは現場に聞かないとわからない。
そして、もう一つ絶対に忘れてはならないことがある。新規事業に携わった人間たちの処遇についてだ。
筆者自身が、新規事業へのチャレンジを促された際に、同じく声を掛けられた人物もいたが、その内の多くが現行の職務から離れて新規事業にチャレンジすることを拒んだという事実がある。
その中の一人との会話の中で実に残念な理由が挙げられたのだ。
「この新規事業は極めて難しい案件だから成功確率は低い。そして、もし失敗した場合に、現在のポジションに戻れるかどうかの保証は全くない。新規事業は大変なエネルギーを使うにもかかわらず、成功率は低く、且つ失敗した場合の処遇にも不安が多い。だから筆者は現在の仕事を離れるつもりがない。」という内容だった。
失敗した場合に、チャレンジ前と同様のポジションを保証すること。そして成功した場合には成功の果実の一部は与えられること。
この2つがないと、あえて道無き道にチャレンジすることへのインセンティブは働かない。筆者のように、他人の作ったレールに素直に乗ることが好きではない「イバラの道」好きは、どうも世の中ではマイノリティで、通常は新たな事業へのチャレンジ障壁は相当に高いものらしい。
確かに、多大な投資により企業のキャッシュ・フローが一時的に厳しくなったために、全社的な労働分配率の低下、すなわちボーナスの減額などが行われるようだと新規事業はやり玉にあげられる。
心無い人は、「あの新規事業のせいで我々儲かっている部署のボーナスまでカットされた」などとのたまうこともあるだろう。他人の敷いた道の上をつつがなく進むのと、道無き道を進むことを、同じテーブルの上で議論する事は100m走と競歩を比較するような愚かな行為であるにもかかわらずだ。極めて残念なことではあるが、これもある種の宿命なのだろうと諦めるしかない。「やられたら倍返しだ!」を目指して結果を出すための糧にするのが健全な思考と言えるだろう。
成功率が低く、ストレスフルで、誰もゴールを示してくれない新規事業へのチャレンジには、アップorアウトの条件では誰もチャレンジしなくなり、せめてアップorステイを経営者や事業オーナーの口から明示することで、後塵の憂いなくチャレンジできるというものだ。その点が未整備な状況で新規事業、新規事業とおっしゃっている経営者は、まず戦えるフィールドを与える前に、チャレンジする為の発射台を堅固なものにすることをおすすめしたい。それが、人事的な処遇の明確化である。
ユニクロの柳井社長が以前あるインタビューで「新規事業は1勝9敗で良い。1あたれば元をとれる」とおっしゃっていた。イギリス進出の失敗、農業参入の失敗など様々な失敗を経験された上で、引き続き事業規模を拡大し続けてきた柳井社長ならではの言葉の重みがある。現在、GUなどの新規事業に引き続きチャレンジをしている。本当にスゴイ方だ。
本稿の冒頭に書いたとおり、新規事業の多くは失敗する。しかし、新規事業に挑戦しない企業には継続的な繁栄はない。未来永劫繁栄を続ける事業は絶対にないからだ。
そのことを忘れず、一つでも多くの新規事業が世に生まれることを期待したい。筆者自身も新規事業コンサルタントとして、微力ながらも尽力したいと考えている。
新規事業を任せられる人物がいない・採用できない・現存戦力では不安だ、後継者にチャレンジさせたいが大丈夫か、どういう新規事業を生み出すべきなのかがわからない、参謀がほしい。そういった方は是非お問い合わせ頂きたい。新規事業責任者と2人3脚で徹底して取り組み、なんとしてでも形にするコンサルタントであり続けたい。
新規事業に失敗しない方法<上>の続き
?後継経営者の企業における新規事業の立ち上げの場合
後継経営者が新規事業を担当するのは、主に中小企業の事が多いだろう。もちろん大企業でも考えられなくはないが、後継経営者という言葉が少しそぐわない為、ここでは中堅・中小企業を取り上げて考えてみたい。
一番ベストな引き継ぎ方としては、後継経営者が他の企業で一定期間の修行の後、そこでのノウハウを持って家業である企業に新規事業を持ち込んで、収益の大きな柱にし、その上で現業の引き継ぎに入ると言う形ではないだろうか。
後継経営者の場合、最も大きな事業承継の障壁は、現社長ならびに現社長の番頭さんとなじみ客であると言われている。どのように振舞っても現社長との比較をまぬがれることは出来ない。番頭さんも、後継経営者を常に子供扱いするところからスタートするだろうし、社長の属人的な要素で成り立っている業態の場合は、なじみ客もうるさい。
そのような現実を打破する為に、新規事業を立ち上げ、軌道に乗せたという実績を作ってからの本業承継が最も美しい形だ。
そこで問題になるのが、後継経営者にその実力があるか?ということである。
中小企業経営者は、会社の金回りに問題がない場合、そのご子息を甘やかして育てるというケースが散見される。いわゆるお坊ちゃん・お嬢ちゃん学校に入学させ、コネで就職を決めてあげるというレールを用意して、ご子息の人生における数々の障害をあらかじめ取り除いてあげてしまう。そのような状況下で育った後継者が、極めて成功確率の低い新規事業開発に成功するかどうか?という一点のみが最も美しい事業承継への強い懸念事項である。
誤解なきように申し上げておきたいが、筆者の周りには極めて優秀な後継経営者も多い。現業を上手く引き継いだ上に、新たな事業に果敢に挑戦し成功に結びつけている。世の中こういった事業承継者ばかりであるならば、事業承継問題が中小企業経営論におけるメイントピックになどならないのではあるが。
残念ながら、人生における障害を乗り越えた経験が相対的に少ない人物が、経営資源に劣る中小企業において、果敢に新たなチャレンジを行い成功させるということは極めて難しいと言わざるを得ないだろう。
できれば他の企業での修行期間中に、1度や2度の新規事業開発の経験を積み、プロジェクトマネジメントや事業計画書作成のノウハウ、マネジメントのあり方などを学び、何よりもチャレンジ精神や折れないココロなどを手に入れた上で、家業に入るというプロセスを経て頂きたいものである。
そうすれば、事業承継の際にも、父親である社長や番頭さん他古参社員に自分の存在を認めさせてスムーズな承継が出来る上に、家業にも新たな収益の柱ができるという2重に美味しい効果が見込めるはずだ。
少なくとも、何もバックグラウンドを持たずにチャレンジする起業家に比べ、大企業と比しては乏しいとは言え、一定の経営資源を持ってビジネスを行える後継経営者には、是非日本の中小企業の活性化のために果敢なチャレンジをしていただきたいものである。
?サラリーマン社長の場合(一定期間で人事異動が発生する企業の場合)
日本の多くの大企業がそうであるように、サラリーマン社長の場合には社長の任期というものがある。もちろんそういった会社の場合には役員以上は任期が決まっており、3年・4年というスパンで人が変わっていくのが通常であるといえる。
新規事業の規模にもよるが、多くの場合新規事業の投資意思決定は社長・あるいは役員の決裁となるケースが殆んどだろう。旗を振るのが部長格であったとしても、そこでの決裁で全てが進められるというケースはそう多くはないはずだ。
何が言いたいかというと、オーナー企業でない場合は、3年以内程度に潰されないだけの規模に事業を持っていかないとならないということである。
少なくとも、他人が作り出した新規事業に対しては、余程の可能性が見込まれない限り思い入れをもって接することは難しい。自分が得た新たなポジションで、自分の実績を作るためには他人の手垢のついた事業にかまけている暇はない、というのが一般的な人間の心情だろう。特に、既にIRやマスコミ発表などが終わっている案件においては、その事業に対してのモチベーションが上がらないのは当然だろう。既に手柄は前任者のものであり、懸命に取り組んでも自分自身が大きく日の目を見ることはないのだから。ここに任期制で役員が変わる組織の限界がある。
したがって、繰り返しになるが3年をめどに、収益の出ることが仮説検証されている状態にもっていけないようであるならば、停止や縮小の憂き目に合うことは覚悟をして取り組まなければならない。社を上げた大きな新規事業の場合、論理的に考えたら、準備から含めて立ち上がるのに5年以上かかるということもそう少なくはない。設備やシステムの投資を伴う場合、投資回収まで含めて5年以上というのは普通に考えられる構図ではある。しかし、筆者は3年で小さく投資回収が出来る範囲で始め、投資回収ができたら次の機能拡張を進めていくという多段階発射で新規事業を行うことを薦めている。小さく始めて大きく育てるという考え方が、任期制で人事異動がある企業の進むべき新規事業の形である。
事業責任者となった方のサポートを承る存在としては、上記の理由で新規事業が潰されるのは身につまされる思いがある。なぜならば、筆者自身が新規事業の立ち上げを行ってきた中で感じてきた忸怩たる思いがあるからだ。
初志貫徹し、事業を大きな企業の柱としていくためにも、夢々この点は忘れないで頂きたいと思う次第である。
?.新規事業立ち上げに関与する気概ある方々へ
新規事業を立ちあげるに際しての注意点をこれまで複数のケースに分けて上げてきた。新規事業の立ちあげコンサルタントとして、自らの体験やリサーチ・インタビュー・研究の結果を元ネタとしている。新規事業を自ら立ち上げようとしている経営者の方、新規事業の責任者に任命された方、その責任者に見込まれて選ばれたメンバーの方に向けてのメッセージとなっている。ご参考にして頂ければ幸いだ。
新規事業のリスクの多くはスキル面よりもマインド面に顕著に現れる。これは通常の業務をつつがなく遂行していれば良いと考える、「変化を恐れる」人間の基礎的な欲求に基づいている為、論理より実行面での不安が大きい。あるいは、閉塞感の打破や垂直立ち上げへの期待など、余計なプレッシャーや周囲のノイズによって発生する落とし穴もあるだろう。ステイクホルダーや、自らが生み出してしまうメンタル面のノイズを避ける事で、まずは普通に努力すれば成功できるという土台に乗って頂きたいと思い、あえて最初に排除すべきリスクファクターをあげつらうことを本稿の方向性とした。
最後に、「撤退」とそれに伴う「人の処遇」についての思うところを記して結びとしたい。
残念ながら、様々なステイクホルダーによるノイズを避け、きちんとした事業計画書を作成し、ビジネスモデルを作りこみ、適切な人材を集めて始めた事業も、その多くは失敗するだろう。撤退ラインをあらかじめ決めておき、そのラインを超えた際には如何にソフトランディングを行いつつ、傷口を最小限にとどめた撤退が出来るかが極めて重要となる。
いわば、株式相場に身をおいた際の「損切り」概念と同じと言える。いかにもったいないと思う気持ちを断ち切ることが出来るかという点が意思決定者にのしかかる。
しかし撤退に関しては、機械的に行ってはならない。撤退ラインが近くなってくると、往々にしてメンバーには焦燥や心配の様子見られるようになり、浮足立ってくる。中にはあきらめモードで完全に士気が下がっている場合もあるが、なんとか少しでも形になるところにまで持って行っている場合には、なんとか事業を残そうと頑張るだろう。
撤退のジャッジは、現場の担当者達の士気と活動を詳細確認した上で決めるべきだ。本当にあともう少しで形になるのか、それとも完全に死に体のものを取り繕っているのかは現場に聞かないとわからない。
そして、もう一つ絶対に忘れてはならないことがある。新規事業に携わった人間たちの処遇についてだ。
筆者自身が、新規事業へのチャレンジを促された際に、同じく声を掛けられた人物もいたが、その内の多くが現行の職務から離れて新規事業にチャレンジすることを拒んだという事実がある。
その中の一人との会話の中で実に残念な理由が挙げられたのだ。
「この新規事業は極めて難しい案件だから成功確率は低い。そして、もし失敗した場合に、現在のポジションに戻れるかどうかの保証は全くない。新規事業は大変なエネルギーを使うにもかかわらず、成功率は低く、且つ失敗した場合の処遇にも不安が多い。だから筆者は現在の仕事を離れるつもりがない。」という内容だった。
失敗した場合に、チャレンジ前と同様のポジションを保証すること。そして成功した場合には成功の果実の一部は与えられること。
この2つがないと、あえて道無き道にチャレンジすることへのインセンティブは働かない。筆者のように、他人の作ったレールに素直に乗ることが好きではない「イバラの道」好きは、どうも世の中ではマイノリティで、通常は新たな事業へのチャレンジ障壁は相当に高いものらしい。
確かに、多大な投資により企業のキャッシュ・フローが一時的に厳しくなったために、全社的な労働分配率の低下、すなわちボーナスの減額などが行われるようだと新規事業はやり玉にあげられる。
心無い人は、「あの新規事業のせいで我々儲かっている部署のボーナスまでカットされた」などとのたまうこともあるだろう。他人の敷いた道の上をつつがなく進むのと、道無き道を進むことを、同じテーブルの上で議論する事は100m走と競歩を比較するような愚かな行為であるにもかかわらずだ。極めて残念なことではあるが、これもある種の宿命なのだろうと諦めるしかない。「やられたら倍返しだ!」を目指して結果を出すための糧にするのが健全な思考と言えるだろう。
成功率が低く、ストレスフルで、誰もゴールを示してくれない新規事業へのチャレンジには、アップorアウトの条件では誰もチャレンジしなくなり、せめてアップorステイを経営者や事業オーナーの口から明示することで、後塵の憂いなくチャレンジできるというものだ。その点が未整備な状況で新規事業、新規事業とおっしゃっている経営者は、まず戦えるフィールドを与える前に、チャレンジする為の発射台を堅固なものにすることをおすすめしたい。それが、人事的な処遇の明確化である。
ユニクロの柳井社長が以前あるインタビューで「新規事業は1勝9敗で良い。1あたれば元をとれる」とおっしゃっていた。イギリス進出の失敗、農業参入の失敗など様々な失敗を経験された上で、引き続き事業規模を拡大し続けてきた柳井社長ならではの言葉の重みがある。現在、GUなどの新規事業に引き続きチャレンジをしている。本当にスゴイ方だ。
本稿の冒頭に書いたとおり、新規事業の多くは失敗する。しかし、新規事業に挑戦しない企業には継続的な繁栄はない。未来永劫繁栄を続ける事業は絶対にないからだ。
そのことを忘れず、一つでも多くの新規事業が世に生まれることを期待したい。筆者自身も新規事業コンサルタントとして、微力ながらも尽力したいと考えている。
新規事業を任せられる人物がいない・採用できない・現存戦力では不安だ、後継者にチャレンジさせたいが大丈夫か、どういう新規事業を生み出すべきなのかがわからない、参謀がほしい。そういった方は是非お問い合わせ頂きたい。新規事業責任者と2人3脚で徹底して取り組み、なんとしてでも形にするコンサルタントであり続けたい。